英語で伝えたい明治天皇御製百首⑴

 70歳の定年退職を機に住み慣れた聖蹟桜ヶ丘から明治神宮に近いタワーマンションに引っ越した。明治神宮に毎朝、開門と同時に1番乗りで参拝するためである。聖蹟桜ヶ丘は明治天皇がかつてウサギ狩りをされた場所で、都立桜ケ丘公園内に旧多摩聖蹟記念館(明治天皇の行幸を記念して建てられ、明治天皇騎馬像が鎮座。坂本龍馬の肖像画や西郷隆盛らの書など、貴重な文化財が展示されている)が、雑木林が生い茂る自然豊かな高台にあり、遊歩道を登っていくと、記念館の近くに明治天皇の御製と昭憲皇太后の御歌の石碑があり、私が御製、妻が御歌を朗詠後、十数名でラジオ体操をして、山道を散策して帰宅(遊歩道の出発地点に位置するマンション)する日々を過してきた。
 明治神宮に毎朝参拝するようになってからは、門の手前と境内に大きく掲げられている明治天皇の御製と昭憲皇太后の御歌を私と妻で交互に朗詠してから参拝したが、ある朝外国人観光客から私たちが朗詠している御製と御歌の意味について質問され絶句した。
 英語の達者な妻も御製・御歌の思いの深さを一体どのように伝えたらいいのか、という英語力を超えた言葉、文化の壁を痛感させられた。直訳では大御心を到底伝えることはできないので、是非これらの御製、御歌の英訳を掲示してほしいと明治神宮国際神道文化研究所国際事業課長の伊藤守康禰宜にお願いしたところ、2冊の本(ハロルド・ライト著、明治神宮監修『敷島の道に架ける橋一英語で伝えたい明治天皇百首』、同『明治を綴る麗しの歌一英語で伝えたい昭憲皇太后百首』中央公論新社)が送られてきた。その内容について連載したい。

 
 平成29年2月、明治神宮の中島精太郎宮司宛に米国オハイオ州在住のハロルド・ライト氏から小包が届けられ、明治天皇と昭憲皇太后の400首を超える御製・御歌の英訳文と「30年前、当時の高澤宮司よりご依頼のあった約束を果たしました」と記された添え書きが付せられていた。
 明治天皇百十年祭を迎えた一昨年、この労作より御製100首を選び、『敷島の道に架ける橋一英語で伝えたい明治天皇百首』(中央公論新社)として上梓された。同書の刊行に寄せて九條道成明治神宮宮司は次のように書かれている。

<いずれの国にも素晴らしい詩歌があり、そこには、その国の風土や文化、そして人々の祈りの心が凝縮されております。和歌という三十一文字で表される日本文化の精粋を、英語圏の方々に伝えたいとの思いで、ライト氏は原文のもつ詩情とリズムを尊重した英訳を飽くことなく追究されました。しかし、言語・文化を異にする和歌の翻訳は至難の業となります。出版にあたり、和歌の解釈に更なる精密さを求めるべく、ライト氏は明治神宮国際神道文化研究所に意見を求められ、研究所のスタッフとのEメールでのやりとりは、妥協なく日に何往復にも及んだとのこと。御年九十歳を超えるライト氏の熱意と柔軟かつ真摯な探求心に満腔の敬意を表する次第です。>

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?