長谷川三千子・滝本弁護士のLGBTの「正しい理解」とは何か

●「5億年の有性生殖の伝統」からLGBT問題を捉え直す 

 月刊誌『正論』8月号で埼玉大学の長谷川三千子名誉教授が「人間であることと生き物であること」と題する論文で、LGBT「理解」とは何か、について「5億年の有性生殖の伝統」という視点から本質的な問題提起をしている。有性生殖とは、メスとオスとが一緒になって子供を産むという、生物に共通している増殖方法のことである。
 性の区別のない単細胞生物は、栄養が充分に行き渡ると細胞分裂によって2個の個体になる。この増殖方法だといつまでも同じ遺伝子の組み合わせを持ち続けることになる。これに対して有性生殖では、2組になった自分の遺伝子の1組だけをのせた配偶子を作り、別の相手の配偶子と合体させて新しい個体を作り上げる。
 この方式だと次の世代は必ず両親のどちらとも違った遺伝子の組み合わせを持つことになる。つまり、有性生殖の1回ごとに、変化と多様化という「進化」のごく小さな歩みが起こっているということになる。単性生殖では、いつでもどこでも「おひとりさま増殖」ができるが、有性生殖では必ず性別の異なる相手を必要とする。
 オスとメスが結合しないと新個体は発生しない。オスとメスが提供する配偶子は本質的に異なっており、新個体の発生に必要な栄養を備えた卵子と、動き回ることはできるが栄養のストックがない精子の2種類が必要不可欠である。

同性婚訴訟判決とLGBTの「本当の理解」の増進

 5月30日の「同性婚」訴訟の名古屋地裁判決によれば、憲法24条1項の「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」について、「人類は、男女の結合関係を営み、種の保存を図ってきたところ、婚姻制度は、この関係を規範によって統制するために生まれた」「男女の生活共同体として、その間に生まれた子の保護・育成、分業的共同生活の維持など」の役割を担って「家族の中核を形成するものと捉えられてきた」と述べている。
 ここには、有性生殖の一員として人類にとって<男女の結婚>という制度がいかに大切なものであるかが過不足なく語られており、同性の結婚を人類の婚姻制度のうちに認めることはできない、という結論にならざるを得ない。
 ところが、判決文に近代の発明品である「個人」の権利という言葉を持ち込んだために、「婚姻の本質」や男女の組み合わせとして結婚を捉える「伝統的な家族観」の根本が揺らいでいるのである。
 そこで長谷川名誉教授は、LGBT理解増進法について次のように指摘している。「ここで問題にしたいのは、その『理解』といふことの意味そのものです。マスコミはしばしば『理解』といふことを、気の毒な人々への同情と共感といふ意味で使います。しかし、そんなものは本当の理解ではない、必要なのは、事柄そのものを根本の枠組みから理解すること」「われわれ人間は常に<人間であること>と<生き物であること>の難しいバランスを取りながら生きている存在なのだと知ること一大切なのはこれだけです。そのやうな本当の意味での理解が増進すれば、トンチンカンな議論が世にはびこることはなくなるはずなのです。」

●「性別グラデーション」はトンデモ説

 では、「トンチンカンな議論」とは一体どのようなものであろうか。その代表例の一つが高校の「公共」教科書や、埼玉県教育委員会が作成した「性の多様性リーフレット」等に明記されている「性別にグラデーションがある」というトンデモ説である。
 6月21日に開催された「女性スペースなどを守る議員連盟」設立総会で問題提起した滝本太郎弁護士が指摘したように、

<そもそも、科学的・生物学的に、現生人類の性別(セックス)は「女」と「男」だけである。性分化疾患は、直ちには男女が識別できなかったというだけのことで、第3の生の存在を意味するものではない。性別にグラデーションがあるというのも俗説に過ぎない。むしろそれぞれの性別一「女」「男」一が多様な現れ方をするのである。現生人類が成立する前からの現実である性別(セックス)と、時代と文化を反映して異なる「ジェンダー」とは、決して混同してはならない。トランス女性は、女性の一類型ではない。多様なのは「性的指向及びジェンダーアイデンティティ」であって、性別そのものではない。>
<「心の性別がある」などという安易なレトリックに惑わされてはいけない」「性別は生物学的現実であって、性自認・性同一性や性表現によって定義することのできるものではない」>

●「性自認で性別が決まる」という誤った思想

 滝本弁護士は「根本的な問題は、性自認の法令化を進めようとしてきた方々の発想が、「性自認で性別が決まる」という思想(に基づいている点)にあります。科学的・生物学的な性別ではなく欧米発の世界的な文化大革命(髙橋注:文化マルクス主義に基づく「グローバル性革命」)…あまりに自然に反しており、混乱と悲劇を重ねています。日本が先頭に立って、この性別セックスとジェンダーとを混同しているとんでもない状況を反転させ、…正しい理解を進め、世界の模範となるよう」訴えている。
 同弁護士は、全国の71自治体に広がった「性の多様性」尊重条例の中には、何の限定もなく「性自認」による差別を禁止する条例も含まれており、市民・住民の困惑が広がっているが、先行した国々では、「性自認に基づいて女性スペースでも女性として遇せよ」ばかりか、「性自認に基づいて法的性別も変更できる」という法制度改悪に至っている国々もあり、著しい混乱が生じている、と警告を発している。

過激な性教育の危険性の歯止め規定

 最後に、「ジェンダーアイデンティティ(性同一性又は性自認)」の法制化に反対してきた滝本弁護士は「ジェンダーアイデンティティ」はあくまで主観的で、かつ極めて曖昧なものであり、法的効果を及ぼす概念として適切ではないと指摘し、LGBT理解増進法と過激な性教育の関係について次のように指摘している点も注目される。

<今回成立した法律は、①漠然と「差別」と呼んでいたものを「不当な差別」と言い直して明確化することにより、疑問を呈するだけの者に対する圧迫的な差別糾弾を抑止し、言論の自由を護る効果を持つであろう。②教育の面でも、「家庭および地域住民その他の関係者の協力を得つつ」という文言を加えることにより、子供が親の知らぬうちに性別不安へと導かれ、やがて思春期ブロッカー、ホルモン治療、乳房切除や性別適合手術にまで進んでしまう危険性や、子供の発達に応じていない性教育が施される危険性を減じる効果を持つだろう。また、➂民間団体の活動促進のための施策文言を削除した結果、啓発活動を容易に委託したり、公的責任を負うということのできない立場の者が方針を実質的に決定することのないようにしたことで危険性が回避しやすくなったことも、特筆に値する。>



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