見出し画像

【北海道の田舎者視点のベストコンサート-国内編 5/5】 ー「上手いオケ=良いオケではない!」最晩年の朝比奈隆と大阪フィルー

私の中でのNo.1コンサート:朝比奈隆さん、渾身の名演

写真のコンサートの日付を見ていただくとわかりますが、平成13年(2001年)9月9日。つまり、朝比奈隆さんが亡くなられるわずか2か月半ほど前。朝比奈さんが大阪フィルを率いて札幌でコンサートをされると知り、私の中では朝比奈さんを生で聞く最後のチャンスになるのではないかと直感して、帯広から札幌に出かけました。もう朝比奈さんは痩せられて、写真や映像のイメージとは違いましたが、私にとっては初の生アサヒナに大興奮。ブルックナーにはまって以来、朝比奈さんの演奏会に行きたいとずっと願いながらそれがかなわずにいましたが、とうとうそれが実現したからです。

朝比奈さんが人生をかけた「ベートーベン」

曲目はブルックナーではなくベートーベン。ちょっとがっかりしたものの、ベートーベンでも相当な評判の朝比奈さん。楽しみにしていました。御年93歳でずっと立って力強いを指揮なさる朝比奈さんに感心しながら演奏が続き、ベートーベンの7番の第2楽章に入ります。ここで私の体に異変(?)が!ものすごく悲しいわけではないに、そして目にゴミが入ったわけでもないのにとめどもなく涙が滝のように流れてきます。私もこんな経験は初めてで、どうしたのかと焦ってもどんどん涙が出て止まりません。涙でかすんだ視界のまま3楽章から4楽章までのクライマックスは皆さんのご想像通り。ただ、実は演奏が終わったころには「ブラボー」なんて声すら出なくなっていました。会場の札幌コンサートホールkitaraは当然ブラボーの大嵐だったのですが、私は音楽を聴いてこんなに感動するのは初めての経験で、人間というのは感動が限界を超えるといろいろと体に異変が出てくるんだなあとその時感じました。

画像1

「上手いオーケストラ=いいオーケストラ」というわけではない

大阪フィルの皆さんには大変申し訳ないのですが、大阪フィルは決して「『上手いオーケストラ』というわけではない。」というのがその時の印象。でも人を感動させるのは「上手さ」ではないんだというのを彼らから学んだ夜でした。わずか2か月半後に、朝比奈隆さんが亡くなられたというニュースを聞き、ショックだったのと同時に演奏会に行けて良かった!という安堵感を同時に感じたのを覚えています。NHKで追悼番組が放映された際に、私の体の異変の原因を知ることになります。その番組の冒頭、ベートーベンの7番の2楽章のリハーサル風景が流れたのですが、その時に朝比奈さん、「私が死んだらこうやってくれって頼んであるんです。そういうようなもんです。」とオーケストラに伝えています。「これだったのか!」「音楽はこうやって奏でるもんだ!」と朝比奈さんがおっしゃっているようで、私の中では朝比奈さんの遺言としてあの日の演奏会が響いています。北海道の田舎者なので多くの演奏会に行ったことがあるというわけではありませんが、それでもいくつもの素晴らしい演奏会に立ち会えたのは光栄です。これからもそんな演奏会に巡り合えるのを楽しみにしていますが、そのなかでもこの時の朝比奈隆×大阪フィルの演奏会はぶっちぎりの第一位です。ちなみにこの一連の公演の大阪でのコンサートはテレビでも放映されました。

画像2


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?