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自粛生活が楽しすぎる/川本真琴『桜』と川本真琴の歌詞世界を振り返る


・みなさまいかがお過ごしでしょうか?

私はもう本当に、日々が楽しくてしょうがないよ。大人になって20年ぶりにやってきた夏休みって感じですよ。ずっと寝ていて、ゲームや読書に勤しんだり、思い出した頃に会社に行って、ボーッとしたり。超充実しております。
大人になってからの長期休みと言えば、人生で何度か無職期間を経験しましたが、無職期間はなんというか、真綿で首を締められる様な、何かに追い立てられている様な切羽詰まり感があったけど、今回のコロナ禍はもはや国から認められたに等しいバカンス感覚!で楽しんでおります。毎日笑って暮らしている。
思い返してみれば、自分の人生においては今の時期よりも辛い時はいくらでもあった。
学生時代の冴えない暗黒の日々。新卒で入った会社で上司に喧嘩を売ったり。クソみたいな人間関係のバイト先であったり。ブラック企業で心身ともに削られていた時期。それらの日々の方が圧倒的にキツかった。
それに比べれば(比べるな!)、今のコロナ禍なんて、ボーナスステージだよ。社会情勢よりも、おれは自分のスモールサークルな範囲でのクソ労働に精神をやられるんだなって事がよく分かりますね。うん。
考えてみれば、過去にも同じ状態になったことがあった。約10年前の3.11の時だ。
あの時も日本は大変だったし、小学生時分に読んだチェルノブイリ事故の啓蒙マンガ(確か少年マガジンだったと思う)や、学研の小学生向けの科学誌のエコ思想を叩き込まれた事もあり、放射能に関しては今の何倍も私は神経をすり減らしていた。このまま日本はマジで終わるかも、、、と絶望感に襲われた事も何度もあった。
が!!!!しかし、それに反して私のプライベートは順風満帆だった。3.11直前に決まった就職先がよい感じのところで、ほとんど遊びながら仕事していける様な楽でゆるい所だった。それに加えて、当時は初めて彼女が出来た時とも重なり、とってもとても浮かれていたなぁ~。それに、先輩の下宿先に寄生という形ではあるものの、初めて親元を離れて自分で自活を始めた頃でもあった。
あー本当にあの頃は楽しかったなあ〜。
社会情勢がクソだった事以外は全部楽しかった。

まあ、人生のそーゆう時って社会情勢何かとは無関係でやって来たりするって話。そして、今の時期もそんなんじゃないかなーと思ってる次第。

仕事や職が無くなった人には本当に大変な時期だとは思いますが、こういった能天気極まりない半おっさんもいるのだから、と心を軽く持っていただきたい(何の話だ)。


・前回に書いた散歩推奨ですが、私は谷根千と、天王洲や芝浦の付近を散歩してきました。結論としては、人、多い!!と言わざるを得ない。皆、割に外出してるのだなあ~。
 新宿や渋谷なんかは店やってないから人が少ないのだろうけど、公園なんかには、親子連れがめちゃくちゃいて、自分よりもそっちのお子様なんかが心配になるぜ笑。
 まあ、一所に留まる様にしなければ、散歩したりするのは運動不足解消にも良いのではないのでしょうか。 


・話変わりますが、桜の季節、終わっちゃいましたね。散歩してても桜がほとんど散ってしまって悲しかったんですよね。そんな中、桜ソングめちゃくちゃ聴いてました。
季節ものっすね。桜ソング、皆様は何を聞いてましたでしょーか?

・私はなんと言っても、川本真琴の『桜』です。

https://youtu.be/2NU0a3VynJY

誰もが聞いて一発で覚えちゃう跳ねるピアノのリフ。そんな飛び出す様なピアノのリフからさらにはみ出す様な奔放さで歌い出す川本真琴。どこか明後日の方向に飛んでいってしまう様な素っ頓狂さを持ちながらも、情景描写の確かさと、何よりもメロディの取っつきやすさで、ポップソングとしてこれ以上ないくらいに完成されている・・・うん、まさに天才の仕事ですね!!!!!

当時は川本真琴の人気は絶頂期だった。
しかし、1stアルバム出した後のこの時期は、心身の不調で年に1回シングルを出すくらいに活動をセーブしてたのよね。(余談だが、この頃の川本真琴の動画を見てるとかなりガリガリで結構心配になっちゃう)
当時のイケイケのJ-POPシーンの中で、1年近くもなんの音沙汰がないのはちょっと異常な状況だった。明らかにスピード感が他のアーティストと違ってた。川本真琴、何してるの?次の一手は打たないの?と、ファンならずとも、皆が思っていたはず。だからこそ、一年ぶりくらいに届いたこの曲の事は鮮烈に覚えているのだ。  

・さてさて、そんな感じでこの時期に毎年聞いてる『桜』なんですが、今、歌詞を見返すと、この曲、ちょっとアレじゃないすか?

ちょっと百合要素入ってなくないすか??
 
本来なら、この曲は胸キュン必至の乙女心が活写されたナンバーなのですよ。
「仲がいいけど、付かず離れずの関係で、一歩踏み出す事によって今までの関係性が崩れちゃいそうで、でも、このままモヤモヤしたままでいいの!?」・・・みたいな。
素直に読み取れば憧れの男の子とのモジモジとした心情で、卒業ソングとしても、軽い失恋ソングとしても、この季節にピッタリでさ。最高の曲なんですが、しかし、これを百合モノとして読み込むとどうでしょうか?
女の子同士の淡い恋愛感情という文脈を見出すと、途端に歌詞世界にスゴ味が増してきませんかね?

特に私が引っ掛かったのは、以下の部分

“絶好だ”って彫った横に“今度こそ絶好だ”って彫った 
誰も気づかない机の上 あたしたちがそっと息している

男女の恋愛で、“絶好”なんてワード使うかなあ~?単にアテクシが知らないだけ?同性同士で使うワードに思えてならない。
しかも、サビの結びの言葉、 “出来ない出来ない出来ない出来ない”という叫びも、百合ものだと考えると、切迫性が増してくるのではないか?
“とっかえっこする卒業証書”も、“片っぽの靴がコツンてぶつかる距離が好き”てゆう距離感も、絶妙なワードなんですけど、
“神様が作りかけてやめてしまった こんな気持ち分かんない 全然”ってゆうワードも奥深い。どことなく禁忌な感情を想起させるワードじゃない?

・なんてゆう、妄想も楽しいんですけど。
仮に、この曲が女の子同士の恋愛、百合ものであったとしても、実は大した問題ではないのだ。背後には、もっと大きなテーマが流れている様に思うし、百合ものというギミックがあったとしても、それは川本真琴の使うレトリックの一つに過ぎないのである。
彼女の扱うテーマは、もうちょい遠大なものだと僕は思っている。

・例えば、初期の川本真琴には、“遠くに投げれる強い肩、うらやましくて男の子になりたかった”(1/2)という一説がある様に、恋愛の発生と、それによって生じる埋められない相手との絶対的な距離、性差の壁を意識する歌詞が散見される。
これはまごう事なき、思春期の少年少女の歌である。
思春期の意識革命ってのは、誰もが通りながら、大人になればみんな忘れてしまう。だから、皆、思春期の時の話や歌が大好物なんだと思うんだけど、
その中でも川本真琴は、その時代の心象風景を切り取るのが抜群に上手い歌手だ。恐らく未だに川本真琴の領域にまで到達した人はいないんじゃないかってくらい、その真に迫る迫力は他の追随を許さない。

・川本真琴は、デビュー作で“「成長しない」って約束じゃん?”と相手にいきなり語りかけてくるし、続く2ndシングルでは、相手へのほどけない想いを持て余しているのに“他人だよね?”と、相手との距離を測りあぐねている言葉を最後に投げかけてしまう。
そこには恋愛でも家庭でも学校でもどこか居場所がなく、ただ、自分が自分のままでいられる場所を求めて彷徨い、誰かにその想いを仮託したい!という思春期の切迫性が綴られている。授業や学校を抜け出して、独りでタバコをふかしたり、屋上で焼きそばパンを食べてもどうしても埋まらない、世界との違和感。川本真琴はそれを歌ってきた歌手だった。

・思い返せば、初期の川本真琴は、ショートカットでボーイッシュな佇まいでアコギをかき鳴らし、男でも女でもないユニセックスな雰囲気を醸していた(それ以前に掴み所のない不思議ちゃんでもあったが)。
後年のインタビューでは、「そのスタイルは大人たちにプロデュースされ、作られたものだ」と本人が述懐しているが、だとしても、見事言わざるを得ない。そこには、性別的なマッチョイズムやガーリーなものに居場所のない、どちらにも行けない思春期性を湛えていた様に思う。つまり、川本真琴の世界観は、見た目においても、バッチリと本人の作風を反映したものだったのだ。

・10代の頃に誰もが抱えていた孤独感を川本真琴は狙い撃つ。

窓をつたう雨の粒みたいに、線香花火の滴みたいに、
一つになったら落っこちちゃうの?ひとりぼっちでいなくちゃダメなの? 

『タイムマシーン』での、この独白の素晴らしさよ!!
誰もが共感し得る綺麗な情景を聞き手に想起させた後、その情景と自らのセンチメンタルな心情を見事に重ね合わせているではないか!!これが天才の仕事でなくて、何て言えばいいのですか・・・?もうこの文章を書いてる今の時点で、俺はもう泣きそうだ!!!!

・んで、話戻って、『桜』も元気な曲調の中に、そう言った危ういヒステリック性を感じてしまって、僕は本当に大好きな曲なんです。それが百合物であってもなくても。
唯一惜しむらくは、私が思春期真っ盛りの10代な訳でも、ましてや傷つきやすい線の細い女の子なんかではなくて、小汚い太った半おじさんだという残酷な事実だけだ。当たり前だが、俺は、現世では川本真琴にはなれない。。。来世に賭けるしかないのだ。
一体、現世でどれくらいの徳を積めば、線の細い、ワンピースや細身のジーンズが似合う、リズム感がめっちゃ良くて、メロディーセンスの塊で、誰からも好かれるスッキリ顔の美少女シンガーソングライターになれるのだろうか・・・一体、何百人の老人に電車で席を譲れば、いいのだろう・・・
暇になると人間はこう言った良からぬ事を考える物なのである。(そして、こんな長文もしたためてしまう)

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