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19.おい俺!ダメ人間気取ってんじゃねーぞ。

俺は3週間で退寮した。2日目以後は、ボランティアスタッフさんみたいに動いており、主に、to doリスト通りの作業が出来ないEさんに付き添う形で、料理、掃除、片付け、歯磨き、風呂などをサポートしていた。

正直、この俺でも若干驚くくらい、日々の生活のアレコレが全く出来ない人で、こちらが「歯磨きましょうか?」って言わないと、歯磨きすら始められない。それも、始める迄に、「あ~、もうちょっと休んでいいですか?」、「次のテレビ見終わったらでいいですか?」と、サボる理由探しからスタートして、酷い時は、次のto doリストに進むまでに1時間以上もかかる事があった。当時は気付かなかったが、ひょっとしたら何何障害などの問題を抱えているのかもしれない。

でも、経歴を聞いて驚いた。何と、私立トップクラスの大学を卒業して、大手損保に就職しマネージャー職にまで出世した人。打ち解けてから、Eさんなりの理由を聞かせてもらったが、要は小さい頃から、全て母親やお手伝いさんにやってもらっていたそうだ。

結婚後は元妻が……。離婚後は再び母親が……。元妻との離婚の理由も、「捨てられた」という言い方で、自分の否については一言も口にしなかった。湘南紳士塾も、当人は「自分の意志で入塾」したという認識だが、キッカケは「母から言われたから」だった。何となくだが、「自分の意志」という表現が、一般の人に比べて随分と他責の方に後退しているような気がした。

そういえば小学生の頃、母親から強引に押し込まれた夏期講習なのに、俺が「友達のキャンプに行きたいから2日だけ休ませて」と言ったら、もの凄い剣幕で「あなたの意志で決めたことでしょ!」、「淳平、お母さんが『塾行きたい?』って聞いたらハイって答えたわよね」と言いくるめられた事があった。俺は後に大反発したけど、Eさんは従い続けたんじゃないかな~。だから、意志って言葉が、自立してないのだろう。

塾長からも「田島さんは内のプログラムは必要無かったですね」と言われたが、寮で出会った人達のお陰で、何だか色々気付かせてもらった。それこそSさんやOさんは、出来る出来ない(苦手)の問題だったが、俺は単にやるやらない(意志)の問題。

SさんやOさんは、苦手な事に強い意志で持って取り組んでいた。そんな強い意志に感化されたって言うと言い過ぎかもしれないが、やるやらない問題の俺が、「何ダメ人間気取ってんだよ!」って思ってしまった。所詮俺の場合は逃げのダメ堕ち。「俺だってやれば出来る!」っていうプライドを守る為の逃げの理屈だからね。

退寮後も倉庫業の仕事を継続しながら、生活の立て直しに努めた。to doリストと報告が効果抜群で、高山、若宮先生(実際は担当の看護師さん)、ハイエナコさんに、湘南紳士塾で塾で仲良くなった古森さんと励まし合いながら、ほぼ100%遂行率の状態を維持出来るようになってきた。

高山が費用という費用は全て立て替えてのも大きい。ただ自分の為ってだけでなく、いやもちろん支えてくれる人達への感謝もあるのだけど、具体的な負債があるお陰で、お返し(恩返し)しなきゃ!って思いが意志に乗っかるので、意志を強固にする要素が増えるみたいだ。

例えるなら単なるバットも釘を刺して釘バット……、あんまいい例えじゃねえな。ええと、単なる拳も濡れタオルかメリケンを……、これもいい例えじゃねえな。まあ、例えはいいや。とにかく支えてくれる人達の思いが乗る事で、意志を強固にする要素が増える。ただ、これも俺に自発的な意志がある限り、もし他人から強制された上でだったら、お節介に感じたのかもしれない。

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