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49.よく、ここまで来たもんだ!

高山とミーティングの日。

午後、新横浜にある老舗ホテルの1階のカフェに来ていた。メルマガの購読者数も、高山知人ブースト効果のお陰もあって2000人を突破。高山の想定以上に順調らしく、今日は「次の仕掛け」の計画を練る事になった。

ズバリ副業塾だ。

月1回の勉強会に動画講座を提供。希望する会員さんに特別コーチングサービスを提供という内容だ。これを月額5000円(勉強会参加費は別)で提供する。

正直、俺は不安でしかない。もし、募集を掛けて、1人とか2人しか来なかったらどうしよう、って思うし、そもそも、俺から何を学びたいんだろう? 本気で副業に必要なノウハウを学ぶのであれば、もっと凄い人が沢山居るし、幾ら、元はダメだった俺が頑張って挑戦する姿を読者さんは見たいのだとしても、見るのと、教わるのは違うだろ。

流石の俺も渋った。何しろメルマガ読者さんにアンケートを取った所、仕事も学歴も立派な人が多い。

「高山、俺が先生ポジションは無理じゃない?」
「いやいや、先生ポジションには立たないよ。塾って言っても勉強会だから。それに、お前の読者さんは、お前にノウハウは求めてないと思う。一緒に頑張る仲間を求めていて、その結節点みたいなポジションを淳平がやるって事」
「あ~、要は主催者というか幹事みたいな話か」
「そうそう。だから教えるのは違う人でOK。俺でも良いし、秋山さんでも良いし、本多先輩でも良いしさ……、それにアンケートで勉強会やって欲しいって声結構あったんだろ」
「まあね。でも、何で俺に?」
「ずっと良い子を演じてきた人には、どこか羨ましい部分があるんじゃないの? 色んなさ葛藤を抱えてたり、とちったり、ドジったりしながらトライしている姿に勇気もらえるんじゃないの。だから、ノウハウとか実力とか関係無いんだよ。お前のキャラが好まれてるんだからさ」

確かに、SNSで「1日10人馬面な人とすれ違うと俺の中のギャンブラーが疼き出す。今日は17時で9人目。ヤバイ。面視野カットの為に下を向いて歩いた。そしたら乗る電車間違えた」ってのがここ1ヶ月で一番「いいね」がついた投稿だ。

副業ノウハウについて真面目に書いたモノより遙かにいいねが多いのだから納得がいかない。まあ、でも好かれるって事か……。どういう好かれ方かは深く考えない事にして、まあ良しとしよう。名前を「田島主催の副業勉強会」に改めたものの、高山の提案通りに実践してみる事にした。

ミーティングを終え、老舗ホテルのカフェを後にすると、新横浜から数駅の場所にある白河中華蕎麦屋へと向かった。最初は駅から電車に乗って、最寄り駅から歩くつもりだったが、夕食には早い時間だし、老舗ホテルのカフェでチーズケーキを食べたせいでお腹も空いてなかったので、腹減らしにも丁度良いから、「歩こうぜ」となった。

細いなだらかな坂道を縫いながら、中華蕎麦屋を目指す事にした。

しかし、よくここまで来たもんだ。あの時、ハイエナコさんに尻を叩かれ、高山に助けを請うてホント良かった。高山、ハイエナコさん、若宮先生、本多さん、関口先生の支援が無かったら多分立ち直れなかったと思う。

昔はそこそこキチッとしてたのにな……。いや、でもあれは結局、親の強制でしかなかった。直接でなくとも親の目が常に背後に有ったのだ。それが断絶した瞬間に消えてしまった。そこに、失敗に次ぐ失敗が重なり堕ちていったんだ。

その堕ちも、下らんプライド「俺だってやれば出来る」を守る為の言い訳に出来たものだから、本気で脱け出そうとしなかった。むしろ、堕ちに逃げ込んだんだよな。で、気付くと、それが普通になってしまい、やがて負のスパイラルに突入……。

今や起業して、紛いなりにも経営者で、収入だって30代後半では上の方に位置しているのだから人生とは分からない。

細いなだらかな坂道が急な坂道に変わると、木々の密度が濃くなり、道沿いの住宅街が途切れると、そこは神社の境内への裏口だった。

「おー神社だ」
「寄るか」
「おー」

賽銭箱に100円玉を投げると、二礼二拍手一礼に、もう一礼した。

「何願った?」
「色々感謝した」
「何、感謝って?」
「高山、ハイエナコさん、若宮先生、本多さん、関口先生に出会わせてくれてありがとうって感謝した」
「淳平、偉いな」
「ハハハ。高山は?」
「俺は、独立後も上手く行きますようにって願った」
「マジで何かありがとうな」
「いやいや、お前のじゃね~よ。俺の独立だよ」
「何だよ。自分のかよ」
「淳平のは大分前に鶴ヶ丘八幡宮で祈ってるよ……、で叶ってるだろ」
「えっ、そうなの」
「そうだよ」
「何だよ高山、ありがとうな」
「あ~」

表口からカラスだらけの境内を出て坂道を下ってゆく。長い坂道を下り、しばらくして、再び急な坂道に差し掛かった。

「そうだ、淳平さ、何かやりたかった事とか無いの?」
「あるね。それもいっぱいね」

「何何?」と聞く高山に話すと、「え、まじ意外なんだけど」と言って笑っていた。

「アラフォー男子、今更になって夢に再挑戦する。これSNSのネタにもいいだろ!」
「ホントだな。淳平向きかもな。やるか!」

急な坂道を登り切り、今度は急な坂道を下ると、白河中華蕎麦屋のある商店街に差し掛かった。寂れかけの商店街をしばらく歩くと目的地に到着した。食券機で店主一押しの「中華蕎麦全のせ」を注文する。汗を掻いたせいだと思うが、めっちゃ美味しかった。

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