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赤と青と緑のサンタ。

フリーライターの私は雑誌社の依頼を受け、ホテルのクリスマスイベントの取材に訪れていた。そのホテルの中庭では青いサンタのタレント達が仕切るカップル対象のパーティーが行われていた。

もちろん主役はカップルの参加者だ。皆、赤を基調としたサンタっぽいコスチュームで身を固めている。イベントは開始直後から青いサンタのタレント達の努力もあって大いに盛り上がった。

その盛り上がりの隅に緑のサンタが、緑色の袋を担いでうろついていた。見ると、どうやらイベント中に出るゴミを緑の袋に集めているみたいだった。

クラッカーのゴミ、花火のゴミ。イベント中ゲームで使ったグッズ類のゴミ。イベント中に出た食器や包装類のゴミ。イベント中カップルが口移しで食べようとして床に零したケーキ・お菓子のゴミ。イベント中酔って脱ぎ捨てたり、破り捨てたコスチュームのゴミ。緑の袋を何枚もパンパンにしていた。

イベントが赤いサンタの有名ミュージシャンのクリスマスソングで終了すると、カップル達はホテルの部屋へと戻っていった。イベントを盛り上げていた青いサンタのタレント達は主催者等と打ち上げへ出掛けた。緑のサンタ達は、会場の片付けを始めた。

緑のサンタの1人に話を聞いてみた。

「どうしてクリスマスの日にこんな仕事を?」
「誰もやりたがらない仕事だから、日当が高いんですよ」
「何か稼ぐ必要でもあるんですか?」
「ええ、今日稼いだお金で息子がずっと欲しがってた自転車を買うんですよ」
「でも、清掃スタッフなのに、なんで緑のコスチュームを?」
「作業着だと目障りだ、って理由らしいですよ」
「この後はどうするんですか?」
「早朝5時から、もう一現場の清掃と片付けがあるんですよ。2現場分の日当を足せば息子の自転車がギリギリ買えるんです。今日はイヴですからね。本当のクリスマスは明日ですから。今日取っ払いで頂いたお金で明日自転車を買いに行くんです」。

というと彼は緑のゴミ袋から、赤のサンタコスチュームを一式取り出して匂いを嗅いだ。

「これ大丈夫そうですね。明日着る衣装です。24日・25日ってぶっ通しなんで洗濯する暇が無いんでね」と言うと、今度はモップを片手に、零れた酒でビシャビシャになっているイベント会場の床の拭き掃除を始めた。

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【題】イヴのサンタの格差。
この物語はフィクションです。

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