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【タイで本当にあったウソみたいな話】モヒートがどこにもなかったその真相

 酒も好きだが、甘いものも好きだ。だからというわけではないが、ときどきカクテルも飲みたくなる。やっぱりそんなときはバーに限る。

 ただ、タイのバーは、バーテンですら「アルコールをシェイカーで混ぜれば完成」くらいにしか思ってない人もいるくらいなので、行くならばホテルや富裕層向けのちゃんとしたバーに行った方がいい。

 とはいえ、現実的に世界でも通用するような本格的なバーはバンコクにも一部しかない。そのため、タイだと現実的に行くとすれば結局、普通のバーになってしまう。そうなると、定番のカクテルでさえイマイチなこともあり。そんなタイの普通のバーでボクが遭遇した「モヒート」に関する話だ。

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 モヒートはキューバ発祥とされる、ラムベースのカクテルだ。といっても、ボクはこの存在を知ったのがわりと最近だった。10年くらい前か。

 言い訳をすると、ボクは20代頭にタイに来るようになり、ずっとタイを中心に生きてきた。25歳で移住して、それまでの経験などすべてがゼロの状態にリセットされて生活を始めているので、一般的な日本の大人の知識が乏しい部分が正直ある。カクテルなんてお洒落なものはもっと無縁だった。

 そんなときに、前職の接待後に会社の人たちとラマ4世通りのホテルのバーに行った。後輩がモヒートを頼んでいて、ボクも注文して初めて飲んだ。ゴリゴリとするほど砂糖が入っていたが妙に気に入ってしまい、今ではバーで「モヒート」を見るたびに頼んでしまう

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 ただ、実際にモヒートを見かけるたびに頼むようになったのは、その初体験から2年くらい経ってからだ。取材でタイ南部を周ったとき、手始めに立ち寄ったプーケットの最終日、帰り際のバーのメニューにモヒートをみつけてからだ。そのときに「あ、あのときのカクテルだ」と思い出した。

 そのときは会計後だったので、翌日向かったサムイ島のバーで飲もうと心に決めていた。しかし、サムイ島ではどこにもモヒートがなかった。メニューにない店でないと言われたのはまだわかるが、メニューにあっても「ない」と言われてしまった。わりとスタンダードなカクテルだと思うのだが、こうもないものかね。

 飲みたいのになかなか飲めない。飲めないとなおさらに飲みたくなる。この体験がおそらく、メニューにモヒートをみつけるたびに注文してしまうという条件反射を起こすようになったのだろう。

 しかし、意外な形でモヒートがなかった理由が判明した。ウソみたいな話だが、まあタイならあるかもしれない事情だった。

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 ボク自身はタイ語ができるということもあって、当たり前だが、タイでの生活はなんら困ることはない。会話だって、取材だって、文書の確認だってタイ語でできる。結局のところ、それがあだになったとも言える。

 タイ北部のある店でメニューにモヒートをみつけたボクは、やっぱりモヒートを注文するわけだ。しかし、「そんなものはない」と言われた。ほかの店では単に「ない」だけだったので、言い方が気になった。

 だからボクはメニューを指して、ここに書いてあるのに? ともう一度訊いた。すると店員はこう言った。

ああ、モジトーならあるよ

モヒート=Mojito

 ウソでしょ? そう読んでたの? モヒートはスペイン語だが、おそらくそう発音していた店はそもそもスペイン語だとは認識しておらず、「ji」をそのまま読んでいるようだ。

 なぜこんなことになるのかというと、タイ語における外来語には日本のローマ字やカタカナ語のように、表記に関する一定のルールがないからだ。そのため、個人が各々の感覚に従って英語をタイ語に変換する。このとき、元の言語の発音に従うケース、元の言語をタイ語発音にしたものに従うケース、アルファベットの羅列に従うケースなどいろいろだ。

 ルールがないことから正解がないということもあり、「ji」をちゃんと「ヒ」として読んでいる場合でも、タイ語表記を発音すると「モヒート」のほか、「モヒト」、「モヒトー」、「モヒートー」、「モーヒート」といくつもある。ジと発音してしまう店でも表記には「モジトー」以外にも「モジト」、「モジートー」、「モジート」、「モージートー」といろいろある。

 ボクがサムイでモヒートに辿り着けなかったときはメニューを指さししなかった。タイ語ができるゆえにそんな必要がなかったからでもある。このサムイの体験は2014年8月のことだが、ネットで今検索しても、実際に「モジト」などの呼び方はまだある。まさかそんな理由で飲めなかったとは、ボクのタイ生活の中でも結構な衝撃事件であった。

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