見出し画像

この貝だけは食べられない タイの赤貝

 大概のものは食べられる。好き嫌いはない方だ。けれど、タイ料理の中でこれだけが食べられない。それはホイ・クレーンという貝である。まだタイに暮らし始めたばかりのころ、初めてイサーン人のアパートに行ったときにパーティー的な感じでこれが出てきて、みんなで食べていた。ひとつめでボクはギブアップして、それ以来20年間、一度も口にしていない。

画像3

 タイでは焼くか茹でるかが主な調理法だと思う。焼く方は焼き過ぎってくらいに焼き、茹でる場合は半生くらいで引き揚げてしまう。この半生がボクにはだめだった。タイの赤貝といわれるくらいなので真っ赤な血が生臭かったのだ。

 ホイ・クレーンは二枚貝なので、最初は開けたあとに上と下の貝を分離させ、その片方で身をくるりと掘り出す。2個目以降はひとつめの貝をすぷーん代わりにして器用に食べていく。だらだらと赤い血が皿に滴って、部屋中が血なまぐさくなってしまう。

画像1

 今でこそタイ人は刺身を食べるようになったけれども、ほんの10年ちょっと前は「和食はまずい」とか、「味が薄い」、「魚を生で食べるのは気持ち悪い」と無知で無礼なことを彼らは平気で言ってのけたものだ。どう考えても、ホイ・クレーンのおいしさがわかるなら、刺身とかの方が絶対にハマると思う。まあ、結果的にそうなったわけだけど。

 ホイ・クレーンはよく赤貝と訳されるが、実際にはアカガイではないようだ。アカガイの仲間であることは間違いなく、フネガイ科の二枚貝になる。ホイ・クレーンは日本語ではハイガイと呼ぶそうだ。

 ハイガイとアカガイは見た目も似ている。誰でもできる見分け方がひとつあって、アカガイは貝の外側の線が42本くらいあるそうだ。ハイガイは線が18本程度しかない。これは稚貝などのサイズによって違うわけではなく、大きさに関係なくこの数の線模様が入っているらしい。

画像2

 ハイガイは日本にも生息している。アカガイもそうだが、基本的には泥のそこにいるのだとか。これがこれらの貝の血液が赤いことに関係しているようだ。というのは、赤の色素は人間の血液と同じヘモグロビンなのだ。ヘモグロビンは酸素と結びつきやすく、泥の中などの酸素が少ない場所でも生きていけるようにこうなっているのだそうだ。

 タイではバンコク郊外のほか各地で上記画像のような場所で養殖されている。イサーン地方の人などは頻繁に食べるので、天然ではたぶん追いつかないのでしょう。このように養殖されたものが市場に出回る。

画像4

 これはあくまでもレジャーで遊びに来た若者たちがホイ・クレーンの採取体験をしているのだが、本業の人は小舟などから採取用のカゴを使うなどして獲っているようだ。とにかく大量にいるので、手で掘り返しても下記の画像くらいは簡単に獲れてしまう。

画像5

 捕まえたばかりのときは泥を食っているので、このような状態になっている。これをしっかり洗って出荷する。それでもキロ当たり数十バーツ程度で市場で売られるので、養殖場の卸値はもっと安い。なかなか大変な仕事である。

画像6

 捕まえたばかりのときはこのようにまだ元気で、真っ赤な舌を出している怪物のようだ。もうちょっとうまく調理して、血液の臭みを失くしてくれればそれなりにおいしいと思うのだが。でも、この血の味こそがおいしいということで、イサーン人は平気で半生で食べてしまう。

 こういった泥に生息しているし、気温が高いタイなので水にどんな’バクテリアがいるかわからない。実際、生食は肝炎にかかる可能性も高いため危険なのだとか。調理している様子を見ても軽く湯がいて終わりということがよくあるので、正直食べる必要はないよなあとボクは思ってしまう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?