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書籍紹介8「亜細亜熱帯怪談」

 裏ネタあるいはナイトライフの本ばっかりだった中で、ついに違う系統の本を出すことができた、ボクの中で記念すべき1冊がこの晶文社の「亜細亜熱帯怪談」だ。2017年には丸山ゴンザレスさんに紹介いただいた女性のフリー編集者の方を介して出版社と繋がり、2019年9月に出版に至った。

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晶文社ホームページ「亜細亜熱帯怪談」書籍紹介

 これまでタイの心霊関連の書籍は、研究者などが民俗学などを紹介しつつ触れてきたものばかりだった。タイは仏教徒が国民の約95%ほどで、それ以前は精霊信仰があった。そのため、タイの仏教は精霊信仰と習合しているし、タイの文化やタイ人を語るにはこの精霊信仰を避けて通れない。そのため、難しい話になりがちだったが、この「亜細亜熱帯怪談」はあくまでもタイ人に聞いた話、ボクが実際に行ってみてきたことを中心にしていて、ガイドブック的でもあるし、実話怪談的でもある。実際にこの本を手にするとわかるが、540ページもあるので、かなり分厚い。しかし、全体的にはすんなりと読める内容になっている。

 ほかにも今のタイ人の習慣にも触れているし、東南アジア各国の心霊ネタもタイほどは深くないが書いている。だから、東南アジアの実話怪談入門にはもってこいの1冊になっていると思う。これまでの書籍ではなかったタイプでもある。20年ほど前にマレーシアのパダンベサールとペナン島の中間辺りの街に辿り着いた際に反日感情を強く感じたことがある。それがペナンの心霊スポットと関係していたことを今回知ったりなど、自分でも新発見が多かった。

 特に人が死んだ場所や霊的ななにかがある場所によく置いてあるシマウマの置物は、タイ人でもあまり触れていないことなので、ここにスポットを当てられたことは特徴的だと自負している。実際にこの話を丸山さんがおもしろがってくれたことでこの本の出版に繋がったところも大きい。

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 こういった、由来のわからないスポットにあったマネキンや、交通事故が多発する歩道橋、自殺の名所になっている橋など、数多くのスポットに行ってみた。人間、慣れるもので、最初こそ怖かったものの、深夜にひとりで心霊スポットをうろうろしたりするようになった。

 ほかにももっとスポットがたくさんある。実際に見てきた場所は、この本があと2冊は書けるレベルで行ってきた。ほかにも精霊信仰に関することや、昔からのタイの文化に関係するものなども見てきた。サックヤンという、ボクは護符刺青と訳している護符としての刺青の祭りにも行ってきた。

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 この祭りなんかはたくさんの人に突き飛ばされながら、何度も観に行っている。串を顔や身体に刺す祭りもあって、一般的にはプーケットが有名だが、バンコクにも知られざるそんな祭りがあることも教えてもらって観に行った。

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 こういったかつては子どもの死体で作った像やプラクルアンと呼ばれるお守りが売られている市場もある。バンコクのチャオプラヤ河周辺にあり、観光客には王宮前広場、エメラルド寺院、涅槃像のワット・ポーで有名なエリアになる。この辺りはバンコクの旧市街であり、ここ周辺はとにかく心霊ネタが尽きない。

 この本の表紙はバンコクの画家さんに頼んで描いてもらったものだ。最初は昔からある怪談などのマンガの権利を買うか、そういった漫画家さんに頼もうかという話になっていた。あるいは、昔の油絵で表現した映画看板の画家をみつけてみるのもどうかという案もあった。ところが、こういった画家たちはみな軒並み国宝級の人たちになっていて、到底我々の予算では難しいとなった。そもそも映画看板の画家もほとんどいない状況だ。

 そこで、その辺りにいる画家に、タイの昔の心霊映画の看板をオマージュして作ってもらうことになった。「バーン・ピーポープ」という、ポープ(タイの東北部に言い伝えられる妖怪、悪霊のようなもの)を描いた映画で、これが10作以上続く、ホラーコメディー的な作品で、タイでは誰もが知るシリーズだ。

 油絵というアナログな絵を、結局ボク自身がスマートフォンを片手に各位にデジタルで中継しながら発注するという、わけのわからないことを編集者、丸山さん、デザイナー、ボクの4人で行った。そうしてできあがったのが、下記の絵だった。比較用にその下に帯なしの表紙絵を付け加えておく。

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 このオマージュは法的には問題ない範囲でのものということだったが、画家さんは自身の権利を完全放棄した。タイもいろいろと厳しくなっているので、面倒を嫌ったようだ。だからこちらも自由に弄ってしまおうという話になった。

 この本の帯には京極夏彦先生の推薦文がついている。これは丸山さんが京極先生と交流があり、頼んでくれ、京極先生が承諾してくださった。つまりは、関係者以外で初めてボクのこの本に目を通してくださったのが京極先生でもある。

 これだけでもすごいのだが、京極先生からこういった「人外」の存在を最もわかりやすく絵で表現するなら目であると丸山さんが教えていただいたそうで、それで表紙の目の部分がオリジナルと異なっている。あえて落書き調になっているのも、タイ的というか昭和的でおもしろい。これはデザイナーさんのセンスの賜だ。

 そんなボク自身がこれまでとは違うジャンルに挑戦できたということで、「バンコクアソビ」に続いて、この本でもトークイベントを開催した。渋谷のブックラボで、2019年10月に日本滞在中に行った。

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ちょうど台風が東京を直撃する前夜で、集客に不安があったが、司会が丸山さん、ゲストに旅行ライターのほとんどの人が尊敬する作家のひとり、高野秀行さんが来てくださった。また、日本のアジアの深部を紹介していく、元バンコク在住者の室橋裕和さんも来てくださり、相変わらず著者よりも豪華というメンバーでイベントが行われた。

 また、村田らむさんにも取材いただいて、ネットニュースなどでもこの本、そしてボク自身も取り上げていただいたりした。

 このほか、心霊関係でいうとニコ生で「モノガタリ」というチャンネルを間借りする形で月1回、心霊関係のネタをタイから生配信している。といってもかなり不定期だが。主催者の木村さんと、これもまた丸山さん繋がりで紹介してもらい。YouTubeにもアカウントがあるようなので、そちらも紹介しておきたい。

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 2019年10月の日本滞在時に両親と池袋のジュンク堂書店にたまたま行った際に、これまでボクの著書に関してあまり触れなかったふたりが、「アンタの本、どこそこの棚にあるね。1冊、売り上げに貢献するように買っておこうか」と言ってくれた。ナイトライフ以外の本を書くと周囲の人の扱いが全然違う・・・・・・。

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