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中華料理で一番好きなのがこれ

 旅行作家の嵐よういちさんは「旅先の食事に飽きたり慣れない場合は中華に行くといい」といつも言う。中華は辺鄙な街でも大概1軒はあるからだ。実際、食事がおいしくない国でも中華は問題ないことは確かにある。

 タイは1800年代半ばから太平洋戦争直後くらいまで中国からの移民が多かった。そのため、タイ国籍保有者の中には華人とかタイ族と華人の両方の血を引く人が少なくない。また、今でも観光やビジネスの繋がりは強く、訪タイ中国人も多いため、特にバンコクは中華料理店が多い。

 日本人から人気の中華料理店も複数あるが、だいたいどこにでもあるメニューで、ボクが中華料理の中で一番好きなものがある。それはジャガイモの炒めものだ。中華料理の正式名称はわからないが、これが妙においしくてたまらない。

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 バンコクの中華料理店はほぼ100%の確率で麻婆豆腐がある。これも店によっては結構おいしいが、ボクの中では麻婆豆腐は麻婆丼が最もなじみがあるので、画像のように供されるとちょっと引く。タイに移住する直前、車工場のバイトで金を貯めていたころ、写真食堂で不人気すぎて並ばずに食べられたのが麻婆丼だった。

 バンコクの中華は大きく分けると高級レストランか大衆食堂になる。麻婆豆腐はわりとどちらにもあるが、ジャガイモ炒めは大衆食堂だと絶対的にある一方、高級店では置いていないところの方が多いという料理だ。

 ジャガイモの千切りとトウガラシ、店によってはニンニクとかと一緒に炒める。酢が入っているのか、ちょっと酸味の効いた味が多くの店の味つけでもある。ご飯にもビールにも合う。これはやっぱり中華鍋で強火で作るからおいしいのであって、何度か自分で作ってみたけれども、ああはいかない。

 これをいつか本場中国で食べてみたいと思っていた。そして、前職の会社員のころ、食べるチャンスが巡ってきた。

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 出張先は南京の手前のあまり大きくない街だった。上海駅発の高速鉄道で南京方面に向かい、そのひとつ手前の鎮江で降りたような。そこから車でさらに1時間強の街で、日本人どころか外国人をひとりも見かけないところだった。

 夕飯になってなにを頼むか訊かれたけれども料理名がわからない。説明しても全然通じなくて。同行の中国人は日本語ができるし、ジャガイモもわかるのに、そんな料理はないと言った。

 翌日、工場視察をして、「悪いけど昼は社員食堂で」と。むしろこっちはその方が嬉しい。一般中国人がなにを食べるのか見たいし。

 そこで、出てきたのがジャガイモ炒めだった。あるじゃねえか。これこれ、と言えば、「これは家で食べるもの。金を出して食べるものではない」と言われた。要するに家庭料理であって、レストランメニューではないと。いや、タイでは思いっきりレストランメニューなんだが。

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 だからタイでも見かけるのは大衆食堂だけなんだな。厨房の中国人コックたちは、なんでこんなの注文するんだろうって思いながら作っているのだろうな。

 そういえば、中2のころ、ちょうど今くらいの時期に転校生が入ってきた。中国人だった。正確に言えば、中国残留孤児の子どもだ。

 考えてみると、ボクが中学くらいまではメディアでも戦後という言葉でものが語られることが普通だった。ドラマだったり、マンガなどでも上司が戦争経験者とかよくある設定だったし。彼は親が残留孤児だったが親族が見つかって、家族と共に越してきた。彼は言葉の問題で16歳17歳だったが中2に編入させられていた。

 そんな彼と友人らで雪が降った日曜日に遊んだ。夜になって道もわからないだろうから彼を家まで送ったら、彼の親が餃子を作って振るまってくれた。当時は飛行機にすら乗ったことのないくらいだったので、餃子なんてラーメン屋の焼き餃子しか知らない。水餃子で湯に入ったものが出てきて面食らったが、おいしかったな。皮も手作りで、ラーメン屋のよりも分厚くてもちもちしていた。

 ジャガイモ炒めも、そんな風に家で作るもので、普段食べているんだな。ということはやっぱり火力とかは料理店ほどのものはないので、どちらかというとボクが自分で作ったものに似ているのだろう。実際、その社員食堂で食べたジャガイモ炒め、全然おいしくなかったんだよね。

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