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タイで金への投資は儲かるのか?【後編】

 タイは日本以上に金投資をするチャンスがある。「金行」と呼ばれる金製品の店がタイ全土各地にあるからだ。しかし、金相場はタイも世界情勢と同じ相場なので、日本で買うのと金地金の単価自体はあまり変わらない。違いは加工費や税金などの違いくらい。いずれにしても、日本に持ち込む際には輸入関税がかかることもあるので、タイで金を買って日本で高く売るというのはちょっと難しそうだ。

 では、一方でタイ国内で金製品を売買して利益を得ることは可能なのだろうか。

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 タイの金による資産運用は可能ではあるものの、問題もある。その前に、まずタイの金にまつわる歴史も紹介しておきたい。意外とタイは昔から金製品があり、近代は中国からの移民が利用してきたという歴史がある。そのため、タイは日本よりも金投資が身近なのだ。

タイの金の歴史

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 実はタイは金の産出国でもある。いや、「だった」と言った方がいい。現在はかなり埋蔵量が少ないと言われる。かつてタイは空港の名称にもなっている「スワンナプーム」と呼ばれた。これは黄金の地という意味で、それくらい金の採掘が盛んだったころがあったのだ。

 盛んだったころは、タイからルイ14世に黄金の箱を贈るほど金の産出量があったそうで、1750年にプラジュワップキーリーカン県で本格的に採掘と加工が始まっている。しかし1782年ごろには採掘量が減少し、その後、ラマ4世王時代に海外から金を輸入するようになった。

 1871年にもプラチンブリー県の地下に金が眠っていることがわかり、その2年後から5年間と、1906年から10年ほど採掘されている。ラマ5世王の時代には欧州の採掘職人らが多数集まり、第2次世界大戦前までにプラチンブリー県、プラジュワップキーリーカン県、ナラティワート県で1.8トンを超える金が採掘された。

 第2次世界大戦後は断続的に採掘が行われているものの、かつてほどの産出量がなく、今も20の県(22県説と30県説もある)の地下に金が眠っているとされているものの、タイ政府は金の採掘を認めていないようだ。

 現在タイ国内で流通する金地金は基本的に輸入されたものだ。主にオーストラリア、アフリカ、スイスから輸入され、年間輸入量は200トンほどだとされる。とはいえ、国内で流通する金はすでに輸入されたものを再加工したリサイクルが大半なのだとか。

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 また、タイ最古の金行はヤワラーの裏通りにある「タントガン(陳焯剛)だ。正確な創業年は4代目店主チャイギット氏でも把握していないが、ラマ5世王時代に金職人だったトガン氏(陳焯剛)が開業したというのは間違いないそうだ。およそ150年の歴史があり、店内の雰囲気もほかの金行とは違っていた。ちなみに、ここのアクセサリーは23Kだが、延べ板は純金も扱う。

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 タントガンが今の場所に移転したのはラマ6世王時代だ。当時は近隣で最も高い建物だったそう。古いのでエレベーターはないが、建物の6階にヤワラー唯一の金行博物館がある。昔使っていた加工道具や看板が展示され、店に頼めば見学させてもらえる。看板などは現代の金行のようなきらびやかなものとは違い、重厚感があった。

タイの金投資の問題点は信頼性?

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 タイの金相場は世界相場と同じだ。国際的には純金そのものを保証、認定する「ロンドン貴金属市場協会(LBMA)」が提示する価格が世界の金相場になる。ドル建ての相場価格をタイ・バーツ(こちらは貨幣の単位)のレートに換算されるので、タイの金相場には為替リスクが伴う

 このように、タイ独自の価格設定ではなく世界情勢で決まった米ドル相場をバーツ建てにし、それを金行業者協会が毎日ホームページ上で発表する。

 タイ全土に7000店はある協会加盟店はすべて協会が提示する相場をベースに売買価格を決める。加工賃の相場も協会から提示され、販売店はその金価格と加工費を合わせて加工品値段設定をする。地金自体は安くならないが、値引きを頼めるとすれば、その加工賃の一部となる。

 LBMAは本来、ロンドンの専門市場で売買される金地金などを監督する専門業者団体だが、英国は金取引の中心地でもあり、世界中の金業者がLBMAが保証した純金を売買する。日本では「田中貴金属グループ」が日本唯一のLBMA公認溶解業者を審査する企業だ。ここで買ったものはタイの金行も信用して引き取ってくれる。

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 一方、タイには公認企業がないため、世界中で認められる金製品を加工できる金行はない。タイの23K製品は各金行が品質確認を行った上で刻印を打ち、それを保証の証としている。つまり、この事実は基本は買った金行で売却をしないと正統な金額で買い取ってもらえないというデメリットということでもある。

 基本的にタイの金行はほとんどが金行業者協会に加盟している。しかし、加盟店であっても金行によっては信頼度が低く、非加盟店なら純度が低い金製品が置いてあることも少なくない。

■金製品のニセモノ例
・純度が低い:23Kと謳いながら22K(純度90%)、あるいは18K(同75%)
・アクセサリーの一部が別の金属:つなぎ目など一部に別の金属が使われる
・別の金属に金メッキ:完全なニセモノ
・金地金の芯に金属を使用:金メッキよりも巧妙でX線などの機械にかけないとわからない

 正式な金行でニセモノは販売されないが、非加盟店では上記のようなニセモノを掴まされるリスクがある。しかし、たとえば低純度の製品であっても、看板やセールストークで純度を偽っていなければ合法だ。また、国際的には22Kの純度は91.6%なのにタイでは90%以上を22Kと呼ぶこともある。しかし、それも違法ではない。

 残念ながらタイの金投資はほとんどが現物の売買によるものなので、金製品そのものに問題があってリスクがある。そのため、基本的には小さな金行は他行の金製品を買い取ることを嫌がるし、相場よりもかなり安くなるので注意したい。

 タイ国内で信頼性が高い金行は「振和興大金行」、「聯成興大金行」、「和成興大金行」の3行だと言われる。すべての金行は自社金製品にオリジナルの刻印を打っているので、プロが見ればどの店のものかがすぐにわかる。金製品の売買は基本的に金行職員の目に頼る。それでもわからない場合に測定器が使われるくらいなので、今でも目利きが重要なファクターになるのだ。しかし、さすがに協会加盟店7000店もの刻印は憶えられないので、タイ3大金行と呼ばれる金行のほか大手のものなら他行でも識別しやすく、買い取ってくれることが多い。

 とはいえ、こういったタイ3大金行の製品を日本の金製品取扱店に持ち込んでも、買い取ってもらえるものの、純度などを検査した上で買い取り額が決まるので時間を要する。

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 時間がかかるは要するにタイ製金製品の信頼性だ。LBMAの認定印がないことのほか、金の純度を表すKの位置も関係する。

 タイ製は「23K」といったKが数字のうしろにくる「あとK」で純度が刻印され、日本製は「K18」など「まえK」で刻印されるのが一般的だ。あとKは海外製品とすぐにわかってしまい、製造過程の信頼性から日本では買取が安くなる傾向にあるのだ。タイ製にはLBMA認定の金製品が存在しないため、信頼性は検査完了まで高くないのだ。

 逆に日本の金製品をタイで買い取ってもらうことも可能だ。LBMAの認定品なら、という条件付きだが。ただ、日本は18金が主流のため、タイの23Kよりも純度が落ちる。だから、表示の相場よりも安いし、日本と同じように純度などを測定器で調べてからになるので、タイ製品を日本で買ってもらうのと同じように時間を要する。

タイ人はどのように資産運用をしているのか

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 タイではファッションとして金のネックレスなどのアクセサリーが人気だった。しかし、今は23Kの色味だとかデザイン的に流行らなくなっている。資産運用としても人気はあまり高くない。

 というのは、タイにおける金投資はリスクが高すぎるという点が挙げられる。現物を所有することで盗難などに遭う可能性が高まるからだ。実際、ひったくりや強盗も多いし、最近は金行そのものに強盗に入るケースもある。

 これまでは商業施設内の金行は防犯カメラや施設そのもののセキュリティーもあって強盗に入られるリスクが低かった。ところが、今年に入ってから特に施設内金行の強盗被害が増えている。コロナに関係なく、タイは不況だと言われているので、生活困窮者が増えたからだろう。金製品のリスクがより高くなっているのだ。

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 一方で、そんな現物の危険性を排除するサービスも始まっている。タイ3大金行のひとつである和成興大金行がオンラインでの売買を行い、現物は金行が預かっておくというサービスを数年前に開始した。もし現物を保有したければ金行窓口で受け取れるし、預けた金の売買はオンライン、電話、窓口で行うことができる。まだ40代前半の3代目CEOのタナラット氏はここを継ぐまではIT関係の企業を経営していた。そのノウハウを活かし、地金は金行に預けたままオンラインで現物取引ができるシステムを開発したのだ。

 タイにおける金投資は外国籍者にはちょっと難しい。タイで金製品を購入しても、タイ国外で売買することも困難だ。それでもこれからしばらくは金相場が高騰すると見られているので、今はすでに高止まりではあるものの毎日相場は変動しているので、ちょっとした小遣い稼ぎはできそうではある。

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