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タイのコンビニ・ハンバーガーは出産の味

 タイのコンビニは日進月歩で品揃えがよくなっているが、それは最近のことで、ボクが初めて来た1998年から2014年くらいまではそう大して進歩はなかった。今でこそコンビニ弁当の棚が充実してきたけれど、以前は見るだけにすら値しないレベルだった。

 その中ではレンジで温めるハンバーガーはよかった。当初はひどいなと思ったけれども、今はある事情と思い出もあって、たまに食べたくなる。

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 ボクにとってのタイの思い出の食べものといえば、たとえばグリーンカレーだ。初めてタイに来て、初めて食べたちゃんとした料理がグリーンカレーだったので、この味は今も忘れられない。

 それから、カオ・ガパオだ。いわゆるガパオライスである。カオサン通りの裏にあるランブトリーに90年代後半から2000年代の頭くらいまでバックパッカー向けの屋台があって、そこにあった3姉妹がやっていた屋台のガパオライスがおいしくて、この味もまた思い出になっている。

 あとはメコン・ウィスキーかな。1999年にタイ料理店でバイトし始め、そのときに店で働くタイ人らに連れていかれた新宿のタイ・カラオケで飲んだのがこのウィスキーだった。ウィスキーというのは名ばかりで、実際にはラム酒なのだが、これをコーラで割って飲んだ。品質はひどい。翌日は頭が痛くなるし、目も霞む。でも、この味が好きで、たまに自宅で飲んだりする。さすがに日本人同士の集まりには持っていけないけれど。

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 コンビニのハンバーガーの思い出は2011年7月のことだ。会社を辞めてライターになったものの、東日本大震災で当てにしていた仕事が来なくなって、これ以上にないほどの無職状態だった。

 しかも、この7月というのは息子が生まれたときのことだ。完全無職なのにふたりめの子どもが生まれ、本当にまずい状態になった。しかし、生まれてくることは待ってもらえない。いよいよ病院に入り、出産の日がやってきた。

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 タイというか主にバンコクでは大きな総合病院に出産用の入院パッケージがある。たしか、自然分娩だと2泊3日だったかな。帝王切開は3泊4日とか。もしかしたらそれぞれもう1日プラスだったかもしれない。

 このパッケージは結構よくて、ちゃんと個室があてがわれる。娘のときはシーロム通りの病院だったけれども古い病院だったし、2006年ということもあって、部屋にはなにもなかった。息子のときは郊外の新しい病院だったので、部屋には電子レンジがあったり。

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 このときに食べたのがコンビニのハンバーガーだった。さすがにタイとはいえ、病院やガソリンスタンド内のコンビニは一般路面店とは品揃えが違う。アルコールがないなどのほか、若干違うわけで。

 病院の食堂は高いし、あまりいいものがなかった。固定客がいない飲食店はタイの場合はかなりの確率でおいしくない。今でこそ和食なども置くようになったけれど、2011年のころのこの病院の食堂は行くに値しなかった。

 それでコンビニで買えるものがせいぜいハンバーガーしかなかった。出産はひとりめが帝王切開だったこともあって、息子も帝王切開。そうすると昼でも夜中でも、妻がトイレに行くとかなれば手伝う必要があって、ぐっすりと眠ることもできないし、どこかに行って食事をというわけにもいかない。それで選べるのがハンバーガーだった。

 ちなみに娘のときは都心だったこともあって、病院近くに山小屋ラーメンができたので行ってきた。ただ、ボクはラーメンの細麺が好きではなくて、残念ながら思い出の味にはならなかった。

 ハンバーガーは全然おいしくないのだけれども(あくまでも個人的な感想)、今となってはこのときの思い出があって、タイ・ウィスキー同様にたまに口にしたくなる。おいしいとは相変わらず思わないけれど、食べているとふたりめが無事生まれた気持ちを思い出して、なんか嬉しくなるのだ。同時に無職状態の焦りも蘇ってくるけれども。

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