見出し画像

素手で鶏からあげを揚げる人

 タイのテレビで、素手で鶏のからあげを作るおじさんが映っていた。本当にトリックはないのか、実際に生で見てこようと、チェンマイまで行ってきた話だ。

画像1

 この人物はタイのテレビだけでなく、日本や諸外国のテレビに結構出ている有名な人だ。場所が全然わからなかったが、現地で聞き込みをしたら5分でみつかった。それほど知られた人物だ。

 ところが、当のおじさんは店に全然現れない。娘さんが店頭にいたので電話してもらったが、約束をしても来ない日が続き、最終的にチェンマイから帰る日、フライトのギリギリに会うことができた。

 変な特技を売りにしただけの、ちょっとした鶏からあげ店なのだろうと思ったところ、普通にからあげはおいしい。むしろ、これほどおいしいガイ・トート(鶏からあげ)をボクは食べたことがない。それくらいにおいしい。

画像2

 とにかく約束に全然現れないので毎日店に通ったためにわかったことだが、客は多く、行列はなかったものの常に人が訪れ、からあげを買っていく。次から次に揚げていき、次から次に売れていく。これだけ売れるからあげ店はバンコクにだってない。あくまでもおじさんの素手揚げはあくまで余興のようだ。

 そのからあげのうまさの秘訣は衣だ。聞いた話ではチェンマイなのかタイ北部は鶏からあげの衣にサムンプライ(タイ・ハーブ)を多用するという。ここのから揚げもそうで、衣に風味があって、ややピリ辛な感じがおいしかった。チェンマイ人はもち米をたくさん食べるそうだが、もち米にぴったりの味わいだった。

 そして、やっと会えたおじさんはカンさんというお名前だった。

画像3

 話を伺うと、最初から手で揚げていたわけではなく、2004年に起こった事故で偶然、自分の特異体質に気がつき、始めたのだとか。

 その事故とは、木の下でからあげを揚げていたところに太い枝が折れ、ぐらぐらと煮えたぎった油の中に落ちてきたことだ。カンさんの顔や身体に高温の油が大量にかかってしまう。目にも入ったそうで、失明を覚悟したもののなんともなかった。しかも、目だけでなく、顔も身体も痛みがなかった。どこも火傷していなかったのだ。

 これがきっかけでカンさんは自分の特異体質に気づき、なぜか彼は試しに素手を油に突っ込んでみた。そして、まったく問題ないことを知り、ときどきショー的に素手でからあげを揚げて見せ、それがテレビ関係者の目に留まったというわけだ。

 そして、いよいよ実際に素手で揚げてもらった。さすがに長時間手を突っ込むとカンさんの手が揚がってしまうのでちょこちょこと触る程度だが、やせ我慢というように見えない。実際にその油をボクも触ってみたが、本当に熱かった。やせ我慢できるレベルではない。

画像4

画像5

画像6

 というよりも、高温の油を手にかけたって皮膚がただれたり、やけどの症状が一切出てこない。聞くと、氷などを長時間押しつけていてもなんともないらしい。痛覚とかそのあたりが鈍感になっているのだろうか。

画像7

 ボクが会ったのは2012年の話なので、もうかなり前になる。店自体は今もちゃんと営業している。朝から夕方まで。「ガイ・トート・テクニック・ナーイ・カン」という店名だ。ミスター・カンの技術の鶏から揚げといった意味合いか。相変わらず店頭にいないようだが、なによりここの鶏からはおいしい。チェンマイに行ったらまた食べてみたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?