僕はここから動かない(露地のある家)

僕はここから動かない
だから家を思い浮かべる
理想の家だ
露地に茂る緑の毛布
音を奏でて波打つ庭
暖まる空気はそこに居座り続ける
僕みたいに
ここから離れたくないから

僕はここから動かない
何もないことが
今はとても楽しめるから
陽の光が強まるのと同時に
心臓に添えた手のひらは
より濃く陰りを増していく
赤ん坊を讃えられるお腹なら
僕は素直に命を喜べたのに

僕の庭は狭いから
朝の粒も、真昼の滴りも、夕刻の尖りも
迷い入り、戸惑う
それを見て、僕は笑う
その動きが愉快なんだ
この声は僕にしか聞こえない

僕の家はこんなだから
朝の上澄みも、真昼の淀みも、夕刻の苦みも
蓋で閉じてしまえば
同じ味に混じり入る
僕は、確かにここにいるが
本当は僕は、ここにはいない

僕はここから動かない
だから家を思い浮かべる
理想の家だ
皆を溶かして、密かに閉じ込める
理想の居場所だ

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