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現場でのカメラマンの思考順序。RECを押すまでの10の工程。

絞りとは何か?など、カメラの基礎を学ぶチュートリアルは数多くある。

だけどビギナーにとっては、現場でどういう思考回路で各パラメーターを設定していくのかわからない人も多いはず。

「絞り?シャッタースピード?フレームレート?互いに影響し合っている...?ふぎゃーーーーーー!!」

と、覚えるごとにいじるパラメーターが増えて混乱してしまう。

でも実はシンプルで、流れさえ身につければそんなに難しくない。自然と覚えていく。ただ、そういうのを解説した情報があまりないと思うので、

今回は僕が現場でカメラマンが考えている思考回路と設定の順番を解説します!

基本的には映像・動画撮影に限定。また初中級者向けに書いてますが、絞りやシャッタースピード、ISOの特性は学んだ上で読んでください。じゃないとワケワカメです、きっと...。



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0. 演出意図

まずはこれ。ワンマンで撮影しようとも、ディレクターと一緒に複数人で撮影しようとも、必ず演出意図が存在する。

現場に入る前に必ず、何を表現するのか、何を伝えるためなのか、ディレクター(もしくは自分、クライアント)が求めているものはなにか、把握していることが大前提である。



1. 収録設定

現場に入ってカメラを起動すると、まずはどういうサイズ、フレームレート、形式で収録するのか設定する。当たり前のこと言っているが、ここを間違えると大変なことになるので念入りに確認した方がいい(僕は一度間違えて、泣きそうになったことがある)。

そして、これらは撮影の途中で変えることが基本的にない。(特殊な演出意図を除き)



2. 具体的なイメージ

ショットを撮るとき、もうすでに頭の中ではそのビジョンが見えていないといけない。

今から何を撮るのか?何を表現するのか?

具体的なそのビジョンが頭の中でイメージできてきて、それをカメラやレンズなどの道具を使って具現化していくのがカメラマンの仕事だ。

そして、実際に撮影していくと、そのビジョンと100%合致することは少ないが、限りなくそこに近づけれるように考えていく。



3. ホワイトバランス設定

ここからは具体的なカメラのパラメーターの設定だ。まずはホワイトバランスだ。基本中の基本。

一度設定したら、同一シーン内では基本変えない。(編集で色がつながらないため)



4. ISO(感度)設定

そのあとはISO、感度の設定だ。

一眼レフ動画なら基本最小でいいんじゃないかーとは個人的には思う。理由としては、ノイズが少なくなるからだ。そして明るさが足りないときに最後の手段としてISOを上げる、ということになる。

でも、これは正解のようで実はそうではない。

その理由として、少し解説してみる↓(けど、難しいのでなんとなくそういうのもあるんだーくらいで良いです。)

【補足】
BMPCCなどシネマ系のカメラになると、基準感度というものが存在する。

詳しくはググってもらうこととして、簡単にいうと、基準感度で撮影するときがダイナミックレンジなどが最も広く、色調豊かに描くことができる。

なので基本は基準感度で固定

もしどうしても暗すぎる場合や、明るすぎる場合に調整する。(ちなみに、初代BMPCCでは基準感度は800だった)

暗くてISOを上げる場合はノイズが増えるというのはみんな知っているが、明るくてISOを下げる場合も、実はダイナミックレンジが狭くなったりデメリットも存在する、こともある。

どちらにせよ、一度設定したら、同一シーン内では変えない方がいい。質感が微妙に異なるので、編集でつながりに違和感が出てしまう。



5. シャッタースピード設定

次にシャッタースピード。写真ではシャッタースピードは自由に変化させて撮ってもいいが、映像・動画ではある程度数値が決まっている。

1/48, 1/50, 1/60 あたりが基本だ。そういう数値になっているのには、実は求める計算式がある。

1 / フレームレート × 2

例えば、24pで撮影しているなら、24×2=48 → 1/48のように。一眼レフでは1/48がないので、それに近い1/50を選択する。ハイスピードで120pで撮影するなら、1/250。

この公式が基本なのは、人間が実際に見ている光景に最も近い見た目になるからだ。

ここでは詳しい解説は省くが、モーションブラーという残像の残り方が、最も自然に見える。ただ、演出意図によってもちろん変化させることもあるので、あくまで基本の数値だ。

ここも一度設定したら、同一シーン内では基本変えない。(編集でつなげると違和感が出るため)

例外的に、フリッカー対策で多少変えることもある。

なお、シネマ系のカメラでは「シャッタースピード」ではなく「シャッターアングル」と呼ぶ。(概念もちょっと違うのでまたの機会に解説)


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ちなみに、これまで説明した3~5は順番が入れ替わっても特に支障はない。



6. レンズと画角

さて、いよいよレンズの選択だ。

広くダイナミックな絵を実現したいなら広角レンズ、印象的に人物の表情を捉えたいなら85mmなど。でもここにはルールは存在しない。求めている表現を実現するために、最適なレンズを選択する。

1つtipsを挙げるとするなら、ここのnoteでも紹介しているディレクターズファインダーのアプリを使うと、スマホでそのイメージを確認・共有できるので便利だ。

そしてレンズを選ぶということは、画角を切る(アングルを決める)、ということだ。どういう配置で、どういう動きで、どういう背景にして撮影するのか考え、決定する。

このカメラアングルを基準にして、照明や美術、出演者の立ち位置も調整していく。

そのため、人物や美術を先に配置する必要が必ずあるわけではない。カメラで画角を切ってから、それに合わせるように人物や美術を配置することもある。

複数人で撮影する場合は、カメラマンが画角を切らないと、他のスタッフが準備ができないので、ある意味プレッチャーになる...。笑

つまり「画角を切る」という行為は、現場の進行において一番大事な作業なのだ。



7. 絞りを決める

いよいよ、絞りを決める。絞りは明るさの調整の他に、被写界深度(ボケ味)やシャープさも操作できる。

明るさ(露出)の調整も大事だが、表現として後者の影響の方も大きい。

どのくらい深度が必要なのか、どのくらい情報を見せたいのか、どのくらい背景をボカしたいのか、どのくらいシャープさが必要なのか...

そういうのを優先し、明るさは後述するNDフィルターや照明で調整しても良い。

また、最初の頃はボケ味が楽しくて、なんでも開放で撮ってしまいがちになるが、適切な絞りを決めていく必要がある。

例えば、二人並んでいるショットを撮ろうと思っても、二人が前後50cmずれていたら、フォーカスが合わない。だからある程度絞って、二人のどちらにもフォーカスが合うようにする。みたいな判断が必要になる。

ちなみにシャープさに関しては、レンズには下記のような特性がある。一番そのレンズの能力(切れ味)を活かせるのはf4-5.6くらい。一応、スイートスポットと言うらしい。

開放近く(f1.4-2.8):ソフト
スイートスポット(f4-8):シャープ
絞り過ぎ(f11以上):ソフト

そして、絞りを決めたこの時点で明るさが足りない場合。

このときに初めて

・ISOを上げる
・シャッタースピードを下げる

これらの手段を検討する。または照明で光量を上げる。もちろんそれによるデメリットの方が大きければ、絞りの方を調整することもある。

そして、逆に明るすぎる場合は、次のNDフィルターを使う。



8. NDフィルターの選択

意図した絞りで撮影したいけど、屋外などで明るすぎる場合、NDフィルターを使う。

映像・動画での撮影は、シャッタースピードが固定になることが多いため、それによる明るさの調整ができない。

屋外は明るいので、絞りで調整すると絞りすぎとなってしまうし、仮にシャッタースピードで調整すると見た目に違和感が出る、、、となってしまう。

そんなとき、明るさ調整の代用としてNDフィルターを使う。

極端に言うと、ISOは最小(または標準)、シャッタースピードは固定、なるべくボカしたいから絞りは開放で固定、となるともう明るさを調整するパラメーターがない。

屋外の撮影では必須となるアイテムだ。逆に、暗い場所の撮影ではあまり使わない。



9. 微調整する

操作するパラメーターや考え方は以上。

ただ実際には、すんなり一発で設定を決めれるかというとそうでもない。

これらのパラメーターの中でバランスをうまくとりながら決めていく。照明や現場の状況との兼ね合いもある。

その中で自分が表現したいことに一番近づける選択肢は何か、、ときには何かを妥協して選択することもある。

明るくするためにシャッタースピードを下げる、被写界深度を深くしたいからISOを上げるなど。

でも実際は違和感がなければ小細工もOKで...。

例えば、ちょっと明るさ調整したい、でも時間ないしNDつけるのめんどくせーという場合、1/50と1/80のシャッタースピードの見え方の違いはそんなーにわからないから、そこでサクッと調整したりする。

だから100%そういうルールに従う必要はなく、、まあこの辺は違和感がなければOK、というので判断していく。

そして最終的に、ここがベストだ!という落とし所を見つけていく。



10. 撮影する

そして、準備が整ったらいよいよ撮影だ。

ようやくRECボタンを押す!!

でも実際撮影してみると、ちょっと違うな?とか深度が浅すぎた!とかいろいろ改善点が見つかる。

実現するビジョンに届かなければNG。再度調整して、もう一度挑む。そのビジョンに届けばOK。次のショットへ移る。

ここまでが、現場に入ってから、最初のショットを撮り終えるまでの一連の思考順序である。


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このあとは、冒頭の2に戻り、繰り返していく。

実際、3~5の設定は同一シーン内ではほとんど動かさないので、あとは画角・レンズ・絞りを決めていく、というシンプルな作業になる。

でも、それが、センスが問われるいちばん難しいもの、だったりする。


以上。参考になれば幸いです。

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Taka Tachibana
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