「戦場のメリークリスマス」と僕

今から書くことは少し鼻が伸びたようなことだと自覚しつつ。


戦場のメリークリスマス
あの名曲を過去に一度だけ人前で弾いたことがある。


小学生からピアノを”習っていた”自分。
習っていたというべきか、ピアノ教室に通っていただけというか、
そんな日々を高校に上がるまで送っていた。

無論技術的には皆無、後悔はもちろんしている。

辞めるということができなかった自分の性格から
ひたすらに通うという動作は辞めなかった。
(先生には感謝以上の言葉があれば、今でも伝えたい)


最後の発表会に選んだ曲が
「戦場のメリークリスマス」。

なぜこの曲を選んだのか、全く記憶にないが
おそらく楽譜をたまたま持っていたから、かもしれない。
もちろん映画さえも見たことがなかった。


しかし、今考えるとこの曲を選んで本当に良かった。



この発表会の前に、学校の音楽の授業で
バンド演奏という課題があった。
和気藹々と音を奏でる、はずだった。

しかし習っている年数と見栄で、ろくに練習もせず、
大恥をかいたことがあった。
ピアノの先生にはその時初めてぐうの音も出ないほど、叱られた。
音楽を愛していないとも。


しかし、これがきっかけで、
最後こそ本当に練習しようと、とてつもなく戦場のメリークリスマスを
練習した(はずだ)。


発表会、当日。
これがまた長年練習してこなかったせいなのか
どうにも細かいミスを数回した記憶もある。

しかし、なぜか晴れやかな気持ちになっていた。



今でも、舞台袖から歩き、
椅子に座し、ファーストタッチの震え、空気の痛さ
全て覚えている。


Merry Christmas Mr. Lawrence


全体的には難易度が高い曲とはいえないだろう。
しかし、黒鍵を使うことの多さに苦労した記憶。
10年は通っていたのに、本当に練習をしてこなかったのだから。


練習していると、少し指が動くようになった。
暗譜もした。 楽譜通りに。

するとどうか、坂本龍一がどういう弾き方をしているのか気になってきた。


すると狂ったように一曲を聴きまくる。
曲線というか、メロディが川の流れのように綺麗。

さらには、何か、表情のようなものを想像する。
最初は顔を俯かせ、指は細くなり、しかし骨太。
半目で、どこを見ているかすらわからない。

すると、ちょっと肉付きがよくなり、
自信があるような顔になっていく。

一つ弾きづらいところを乗り越えると、まるでピアニスト。
世界で一番輝いている明るさと力強さを兼ね備える。

最後は少しだけ弱くなりつつ、音が残る。



そんな感じを何度も聞くうちに勝手な理解をしていった。


後にのだめやピアニストに関する番組や映画を見て
プロも似たようなことをやっていることを知って嬉しくなったな。
(比べていいものなのか?、と思いつつ。)


曲を聞き、練習を重ねると、あーここはこうしたいな
こう弾きたいと思い弾くように。


作曲者の解釈もへったくれもない!
そんな感覚で楽しむことを知った。


細かい技術なんかどうでもいいと思いながら。笑



発表会本番。

先にも書いた通り、全て覚えている。


曲は短い。5分ないものだ。

小さな地元の公民館なのか、ホールと呼んでもいいものか。
そんなところで人前で弾いた。


最初、呼吸をした時に、ここまで肺が押さえつけられるのか
と思いながら、鍵盤を確認。多分ここで合ってる音が鳴る。


最初の震えは、一章節で収まり、
そこからは、あの”表情”を思い描きながら。



弾いていると、鍵盤の先にどこか広い世界を感じた。
客席も広く見えた。遠くまで、果てしなく。



あーもうそろそろ終わるな


そんなことを考えながら最後の一音。
余韻。スローな世界。全てが美しく、ここで死んでもいいとさえ。






今思い返すと、初めて人にモノを表現したんだと思う。
伝わっているかわからないが、自分の中では、
哀れな意固地と、音楽を愛するということと、
感謝と。それだけは指の力に乗せていたと思う。


この世界というものは、なぜか現実ではない世界が存在している気がする。

素晴らしく美しい、異世界。


今、目指すところは
そんなトリップ。
若干いやらしく聞こえるが、あのイキきった快感をまた感じたい。


そんな小さな感情を追い求めて、「夢」という形に納めて
生きていくのもいいんじゃないかな。
そう思いながら、馬鹿馬鹿しいと言われつつ
表現の場に身を置いて生きている。



今の生きる糧をくれたのは、全てあの曲のおかげ。
大切な曲を産んでくれてありがとうございます。


いつか、僕の感覚が合っているのか
お話聞かせてください。大きくなってからそちらに向かいます。




Merry Christmas, Mr. Lawrence   .

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