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【鍼灸処方学 第2講】 - 概論のつづき 配穴の方法と組方のルール編 -

前回は「処方の分類」と「選穴の原則」について学んだ。

今回は「配穴の方法」と「組方のルール」について学んでいく。



第三節 配穴方法

配穴方法とは、選穴の基礎に基づき、異なる病症に応じて協同作用を持つ二つ以上の腧穴を組み合わせる方法だ。

配穴方法は多くの種類があるが、この記事では一般的に使用される配穴方法を紹介する。


一、局部配穴

局部配穴は、病位の局部に二つ以上の腧穴を組合わせる方法だ。この方法は局部の治療効果を強化することを目的としている。

たとえば、胃脘痛の治療には中脘と梁門を組み合わせる、頭痛やめまい、精神不安には四神聡と百会を透刺する方法がこれにあたる。


二、遠近配穴

遠近配穴は、病変局部と遠位部の腧穴を組み合わせる方法だ。局部は頭部、胸腹、背腰などの体幹部に多く、遠位部は四肢の肘や膝以下の部位に多く取る。

たとえば、外感頭痛に太陽と列缺を取る。目の疾患に睛明と合谷を取る。寒邪犯胃による胃痛には中脘や梁丘を取る方法がこれにあたる。

遠近配穴法は、標本根結理論の応用であり、歴代の医家によって重視されてきた。

たとえば《霊枢・四時気》には「腹中腸鳴,気上衝胸,喘不能久立,邪在大腸,刺肓之原、巨虚上廉、三里。(腹が鳴り、気が胸に上衝し、呼吸が苦しく立っていられない場合、邪は大腸にあるので、気海、上巨虚、足三里を刺す。)」とある。

また、《百症賦》には「項強多悪風,束骨相連于天柱。(項が強張り悪風があれば、束骨と天柱を連ねる。)」とある。

さらに、《席弘賦》には「睛明治眼未效時,合谷光明安可缺。(睛明で目を治しても効果がない場合、合谷と光明を選穴する。)」とある。

*標本根結:
四肢体幹を流れる経脈の循行分布と気血の運行に基づき、経気の上下・内外の対応関係、つまり局所と遠位部との対応関係を説明する理論である。
四肢部は「根」や「本」、頭身部は「結」や「標」という。四肢を「根」として「四根」とも称し、頭、胸、腹を「結」とし「三結」とも称す。腧穴の場合、「根」は四肢末端の井穴を指し、「結」は頭面や躯幹の関連部位を指す。これは経絡学説の一部を成し、鍼灸臨床において重要な意義を持っている。


三、対応配穴

対応配穴は、左右、前後などの相互に対応する腧穴を組合わせる方法だ。

対応配穴については《内経》に関連する論述がある。巨刺、繆刺(びゅうし)、偶刺などである。

1. 左右配穴

左右配穴は、左側の腧穴と右側の腧穴を組み合わせる方法だ。

右は陰、左は陽である。左右陰陽の調節は、全身の気血の運行や気機に大きな影響を与える。左右配穴の目的は、左右陰陽の平衡実現にある。

左右は、患側と健側と言い換えることもできる。顔面神経麻痺の場合、患側の腧穴と健側の腧穴を組み合わせることで良好な効果が得られることがある。また、右足関節の捻挫には、健側と患側の丘墟を同時に用い、右肘の痛みには、健側と患側の曲池を同時に用いることがある。

2. 前後配穴

前後配穴は、体幹部の前の腧穴と後の腧穴を組み合わせる方法だ。

たとえば、乳痛の治療には乳根と天宗を取る。

胃病には胃倉と梁門を取る。

肝病で痙攣や驚厥が見られる場合には筋縮と期門を取る。

《霊枢・官針》では、前後配穴を「偶刺」と呼んでいる。兪募配穴は前後配穴の典型例である。


第四節 組方のルール

弁証に基づき治療原則を確定したら、腧穴を有機的かつ合理的に組み合わせ、適切な補瀉と操作順序を施すことが組方のルールだ。ここでは、局部と全体の兼顧、腧穴の主副の区別、施術の順序、刺灸方法の違いなどを紹介する。

一、局部と全体の兼顧(考慮)

鍼灸治療では、局部治療と全体治療を結びつける必要がある。それが局部と全体の兼顧である。身体の特定部位の病症は、全体的な病気の一部であることが多い。

たとえば、咽喉の痛みは、咽喉の局部だけでなく、肺、大腸、胃、脾、心、腎、三焦など多くの臓腑の病気が関与していることがある。

また、四肢の関節痛は、局部の経絡の通りが悪く気血が滞っているだけでなく、脾、腎、三焦の水湿運化の失調という内在的な要因が反映されている可能性がある。

局部と全体の両方から病態を捉えることが重要である。

二、腧穴の主副の区別

一つの完成された処方には、主穴と副穴の区別がある。

主穴とは、その処方の主要な目的を達成するための腧穴だ。

副穴(配穴ともいう)とは、主穴を補助して治療の目的を達成するための腧穴であり、あるいは兼症(副次的な症状)に対応するために選ばれる腧穴である。

急性症状の治療には標(表面的な症状)を治す腧穴が主穴となり、慢性症状の治療には本(根本的な原因)を治す腧穴が主穴となる。標本兼治が必要な場合には、標と本の両方を治療する腧穴が主穴となる。

たとえば、暈厥の治療では、意識を醒ますことを目的に、水溝、中衝、湧泉などを主穴として選ぶ。虚証の場合は関元、気海、百会を副穴として加え、実証の場合は合谷、太衝を副穴として加える。

どのような病気にも基本的な処方があり、異なる兼症に応じて配穴が追加される。この基本的な処方の腧穴が主穴であり、兼症に応じた配穴が副穴となる。

たとえば、中脘、足三里、内関、胃兪は全ての胃脘痛の基本処方である。そのため、これらが主穴となる。そして弁証に基づき、兼症に応じた配穴(つまり副穴)を選ぶのだ。

飲食停滞には下脘、天枢を加え、肝気犯胃の場合は太衝を加え、気滞血瘀の場合は膈兪、公孫を配穴する。

脾胃虚弱の場合は脾兪を加える、脾胃虚寒が甚だしい場合は気海、関元を加え、胃陰不足による虚火上炎の場合は内庭を加える。

三、施術の順序

腧穴の処方を構成する際には、施術の順序も考慮する必要がある。一般的に、腧穴処方の施術順序は、背部から腹部、上部から下部、病のある経絡の腧穴を取り、次に表裏経の腧穴を取る。

たとえば、急性の痛みの場合、経絡の循行に基づいて遠端の腧穴や顕著な効果のある奇穴、阿是穴を先に取る。痛みが緩和された後に局部の腧穴を取る。

急性腰部捻挫の場合、まず人中、後渓、または養老、腰痛点を選び、患者に腰を動かさせる(運動鍼である)。ある程度腰の痛みが緩和された後に、腰部の腧穴または圧痛点を取る。急性胃腸痙攣の場合、まず梁丘、足三里を取る。ある程度胃痛が緩和された後に、腹部の中脘、梁門などの腧穴を取る。

慢性的な痛みの場合、まず痛みのある局部の腧穴を取る。次に、病変が属する経絡に基づいて遠端の腧穴を選ぶ。たとえば腰筋労損の場合、まず腰部の圧痛点を取る。または腎兪、大腸兪、腰兪などを取り、次に委中、崑崙などを取る。

明代の楊継洲の《針灸大成・治症総要》に記載された多くの処方は、病症に応じて先に刺すか後に刺すか順序が異なっている。

「第八,中风,左擁右痪:三里、陽溪、合谷、中渚、陽輔、崑崙、行間。問曰:数穴針之不效,何也? 答曰:風痰灌注経絡,気血相搏,再受風寒湿气入内,凝滞不散,故刺不效,復刺後穴。先針無病手足,後針有病手足。風市、丘墟、陽陵泉。(第八、中風、左擁右痪:三里、陽渓、合谷、中渚、陽輔、崑崙、行間。数穴を刺しても効果がないのはなぜか?答え:風痰が経絡に灌注し気血が相搏して発症した。再び風寒湿気を受け入れてしまい、凝滞して散らないため刺しても効果がない。まず病のない手足を刺鍼し、その後に病のある手足を刺針する。先ほどの腧穴を刺し、その後で風市、丘墟、陽陵泉を刺す。)」

この例では、中風による肢体麻痺の治療に対し、まず病のない手足を刺し、その後に病のある手足を刺している。そして、先に基本的な腧穴を刺し、効果がなければ補助的な腧穴を刺すとしている。

処方における腧穴の施術の順序には、通常のものと変化するものがある。臨床での応用するには通常を知り変化を知ることが大切だ。そうして初めて、処方の治療目的を真に達成することができるのである。

四、刺灸方法の違い

鍼灸の処方を確立する際には、選択する刺灸方法の違いも考慮する必要がある。刺灸方法は様々あるが、治療の基本原理は同じである。陰陽平衡を保ち、臓腑を調整し、経絡を疏通することだ。

刺灸方法にはそれぞれの特徴と、適した腧穴がある。したがって、処方をする際には、「術」との連携が重要になる。


刺法

毫鍼刺法は、鍼灸臨床で最も広く使用される刺法である。ほとんどの腧穴に適用できる。しかし、手法の多様性と補瀉の違いにより、処方を組む際には期待する治療効果を達成するために、腧穴に適した補瀉手法を選択する必要がある。

たとえば、循経感伝(経絡現象)を出すには行気手法が必要であり、罹患した経脈の原穴を選ぶことが適している。行気手法を原穴に用いることでその経脈の気の流れを促進し、病所に気を到達させて治療効果を高めることができる。

もし、病状に応じて焼山火や透天凉などの手法を必要とする場合、選択する腧穴が筋肉の厚い部位であることを考慮する必要がある。そうでなければ、これらの手法を実施するのは難しい。


灸法

灸法は寒証、熱証のいずれにも使用できるが、灸法の使用には時間がかかり、空気を汚染するという欠点がある。臨床では虚寒病症、慢性病症、頑固な病症に多く使用される。また、これらの病症に対する鍼法の治療効果を補完することもできる。灸法を使用する場合、その処方には補益作用が強い腧穴を選択することが多い。たとえば、神闕、気海、関元、命門、足三里などの腧穴である。これらは全身の補益する作用が強い。


その他の刺法として、電気鍼法は経絡や神経幹に沿った感伝性の疾患に多く使用される。埋線法は背部兪穴や脊髄神経節に応じた腧穴に多く使用される。火針法は患部局所の腧穴に多く使用される。注射法は背兪穴や病理反応点に多く使用される。

これらの異なる鍼法の特徴は、処方を組む際に十分考慮されるべきである。そして、適切な留鍼、行鍼、抜鍼の方法も処方に反映させよう。


今回の記事では「配穴の方法」と「組方のルール」について学んだ。

次回は「特定穴(要穴)」を学ぶ。


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