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【鍼灸処方学 第1講】 - 概論 -

処方は鍼灸治療において重要なステップである。処方の構成が合理的であるかどうかは治療効果に直接影響する。そのため、処方は中医学の基本理論と治療原則に基づいて、経絡の循行分布、交差交会および腧穴の分布と機能に従い、病気に関わる臓腑や病状の程度を考慮して厳密に組み合わせる必要がある。

つまり、理、法、方、穴、術の有機的な結合を実現することが求められる。
*有機的:多くの部分が集まり強く結びついて一個の全体を形作り、その各部分の間に緊密な統一と連関があること。

今回の記事では「処方の分類」「選穴の原則」について紹介する。



第一節 処方分類

現在、鍼灸処方の分類には統一された見解はない。これは今後の研究課題となっている。このnoteの鍼灸処方学では、以下の二つのカテゴリーに分ける。腧穴の数量分類と腧穴の病位からの距離による遠近分類である。


一、数量分類

《素問・至真要大論》には「治有緩急,方有大小。(治には緩急があり、方には大小がある。)」とある。

治療の方法は病状の緩急に基づいて、異なる規模の薬物を配方すべきである。この概念は中医学理論において非常に重要であり、病状の軽重緩急に応じた適切な方剤の選択に関わる。

  1. 治療には緩急の区別がある
    治療の戦略を病状の緊急度に基づいて決定する必要があることを意味する。例えば、急性の病状に対しては、症状を迅速に緩和するための迅速な対応が必要であり、慢性の病状に対しては、より長期的な治療と調整が必要である。

  2. 方剤には大小の区別がある
    方剤の大小は、薬物配方の規模と複雑さを指す。中医学では、病状に応じて方剤の大小を調整することができます。たとえば、重篤な病気に対しては、多種類の薬物を含む複方を使用することが必要であり、軽度の病状に対しては、簡単な薬物の組み合わせで十分な場合がある。

これは中薬の処方について述べられているが、鍼灸処方にも応用することができる。

大小、つまり使用する腧穴の数量に関する分類では、処方を単穴方、双穴方、多穴方の三種類に分けられる。


1、単穴方

一つの腧穴で構成される鍼灸処方を単穴方という。単穴方は古くから存在し、多くの記録が残っている。

症状に応じた方、病因に応じた方、病変部位に応じた方などがある。以下に例をあげる。

《素問・骨空論》
「従風憎風,刺眉頭。(風邪による悪風には攅竹を刺す。)」

《霊枢・雑病》
「膝中痛取犢鼻,以員利刺発而間之。针大如牦,刺膝無疑。(膝関節の痛みには、犊鼻穴を選び、員利針を用いて治療する。刺鍼後、少し時間を置いてから再度刺鍼する。員利針は牛の尾の毛ほどの太さであり、これを用いて膝部を刺鍼するのが最も適している。)」
*腧穴だけでなく特定の鍼を用いて治療する方法が記されている。

《霊枢・邪気臓腑病形》
「胆病者,善太息,口苦,嘔宿汁,心下澹澹,恐人将捕之,嗌中聴聴然,数唾,……其寒熱者,取陽陵泉。(胆の病には陽陵泉を取る)」

《素問・骨空論》
「風従外入,令人振寒汗出,頭痛,身重悪寒,治在風府,調其陰陽,不足則補,有余則瀉。(風邪が外から侵入すると、寒気がし汗が出て、頭痛、体の重だるさ、悪寒を感じる。治療穴は風府で、陰陽を調整する。不足なら補い、有余なら瀉す。)」

単穴方は一つの穴を取るだけであり、患者の痛みが少なく、受け入れやすいことから、現代の鍼灸臨床でも高く評価されている。

単穴運用の専門書も多く存在し、その効果については複数穴を使用する場合とほぼ同じこともある。


2、双穴方

二つの腧穴で構成される鍼灸処方を双穴方、または対穴方という。2つの腧穴を組合わせることで治療効果が補完され、治療効果が増し、より迅速で理想的な治療効果が得られる。以下に例をあげる。

《霊枢・厥病》
「服心痛,色蒼蒼如死状,終日不得太息,肝心痛也,取之行間,太衝。(心痛があり、顔色が蒼白で一日中ため息が出ないのは肝心痛であり、行間、太衝を取る。)」
「厥心痛,腹脹胸病,心尤痛甚,胃心痛也,取之大都,太白。(厥心痛があり、腹が膨らみ胸が痛むのは胃心痛であり、大都、太白を取る。)」

《標幽賦》
「頭風頭痛,刺申脈与金門。(頭風や頭痛には申脈と金門を刺す。)」

近代の鍼灸学界では双穴方の研究にも非常に力を入れていて、対穴についての専門書も出版されている。臨床でよく用いられる表裏配穴法、原絡配穴法、八脈交会穴配穴法なども双穴方で構成されていて、対応する病症の治療に使用されている。


3、多穴方

3つ以上の腧穴で構成される鍼灸処方を多穴方という。病気の多様性と複雑性により、病気によっては鍼灸治療に複数の腧穴の組み合わせが必要となる。多穴方は臨床で最も一般的に使用される処方であり、多くの鍼灸医籍では多穴方が主に取り上げられている。いくつもの多穴方は、古今の特定の病症の治療に効果的な処方となっている。

《黄帝明盤灸経》には中風による半身不随や言語障害の灸法について、「宜于七処一斉下火,各灸三壮,如風在左灸右,在右灸左。(七つの部位に同時に火を下し、それぞれ三壮ずつ灸をする。風が左にあれば右を灸し、右にあれば左を灸する。)」と記されている。これらの七つの腧穴とは、百会、耳前髪際(曲鬢)、肩井、風市、足三里、絶骨、曲池である。


二、遠近分類

腧穴の位置と病位の位置に基づいて、局部処方、遠端処方、および遠近結合処方の三種類に分類することができる。

1. 局部処方

病位の局部または近隣の腧穴で構成される処方を局部処方という。たとえば、咳や喘息の場合、肺俞、風門、天突、膻中で構成される処方がこれにあたる。

《百症賦》には「咳嗽連声、肺兪須迎天突穴。(咳嗽が続く場合、肺兪と天突穴で治療するべきである。)」と記されている。

局部処方は、局部の痛みに対して適応されることが多い。たとえば、腰椎捻挫で圧痛点や自覚痛点に毫鍼を用いた運動鍼を施す場合や、腱鞘囊腫に対して局部に火鍼を用いて点刺(速刺)する場合などである。

一方、局部処方は全身の病気の治療にも使用されることもある。中統、梁門、脾兪、胃兪で構成される処方は胃痛の治療だけでなく、脾胃機能の不調からくる様々な病気の治療にも効果がある。


2. 遠端処方

ある病変部位に対し、経絡と臓腑の関連に基づき、局部の腧穴を選ばず、病位から遠く離れた腧穴を選んで処方を構成するものを遠端処方という。

たとえば、咳や喘息の場合、尺沢、魚際、列缺、合谷、曲池のみを選んで治療効果を得ることができる。《玉龍歌》には「寒痰咳嗽更兼風,列缺二穴最可攻,先把太淵一穴瀉,多加艾火即収功。(寒痰咳嗽にさらに風邪が加わった場合、列缺の二穴が最も効果的である(列缺透太淵)。まず太淵穴を瀉し、多くの艾火(艾灸)を加えることで効果が得られる。)」と記されている。


3. 遠近結合処方

ある病変部位に対し、病患部の局部や近隣の腧穴を選ぶだけでなく、経絡と臓腑の関連に基づいて病位から遠く離れた腧穴も選んで処方を構成するものを遠近結合処方という。この処方は最も一般的である。

たとえば咳嗽の場合、肺兪、風門、天突、膻中という肺に近い腧穴に、魚際というを肺から離れた腧穴を合わせることで遠近結合処方とする。*魚際は手太陰肺経の腧穴で、肺に関係する遠位腧穴である。

《雑病歌》には「咳嗽列缺与経経渠。須用百壮灸肺兪、尺沢、魚際、少沢、前谷、解渓、崑崙隈、膻中七壮不可少,再兼三里実相宜。(咳嗽には列缺と経渠を用いる。肺兪、尺沢、魚際、少沢、前谷、解渓、崑崙に百壮の灸を行い、膻中には七壮の灸を欠かさずに行うべし。さらに三里も併用すると良い。)」と記されている。この処方は遠近の組合わせだけでなく、多穴方、同部位、同経絡、前後配穴など様々な処方を組合せている。


第二節 選穴原則

選穴原則は、腧穴を選ぶ基本法則であり、これは配穴処方の第一歩である。歴代の医家は腧穴の選択を非常に重視してきた。

《席弘賦》には「凡欲行針須審穴。(鍼を行うには必ず穴位を慎重に選定しなければならない。)」、《百症賦》には「百症兪穴、再三用心。(あらゆ症状に対して用いる兪穴は、慎重に選定しなければならない。)」と、臨床での選穴の重要性を記している。

一般的に使用される選穴原則には、近部選穴、遠部選穴、対症法穴などがある。


一、近部選穴

近部選穴は、病症の局部や隣接する部位にある腧穴を選んで治療する方法である。これは腧穴の近治作用(腧穴が持つ、その所在局所および隣接する臓腑、組織、器官の病証を治療できる作用を指す)に基づいて制定された基本的な選穴方法である。

たとえば、鼻の病気には素髎や迎香、目の病気には睛明、瞳子髎、球後、攅竹、顔面神経麻痺には頬車や地倉、脱肛には会陰や長強、胃痛には中脘や梁門などを選穴する。

また、「以痛為腧(痛を以て腧と為す)」の原則に基づいて、局部に圧痛点を見つけ、その圧痛点に施術を行うこともできる。近部選穴は病痛の局部にある腧穴を選んで治療することができるため、「腧穴所在、主治所在。(腧穴が在る所が主治が在る所である)」の規律を反映している。たとえば、頭痛には百会や太陽を施術点として選ぶことができる。この方法は全身性の疾病にもよく用いられ、兪募穴を用いた全身性疾病の治療がその典型例である。


二、遠部選穴

遠部選穴は、病変部位から遠く離れた部位にある腧穴を選んで治療する方法である。《内経》ではこれを「遠道刺」と称している。この方法は腧穴の遠治作用に基づいて制定された選穴方法であり、経絡の循行と密接に関連している。

遠部選穴は「経絡所過、主治所在(経絡の過ぎる所が、主治が在る所である)」の治療規律を反映している。たとえば、四肢の肘や膝関節以下の腧穴は、頭面、五官、躯幹、内臓の病証を治療するのに優れている。

歴代の医家は豊富な経験を積んでおり、《霊枢・終始》篇には「病は上にありて下を取る、病は下にありて上を取る、病は頭にありて足を取る、病は足にありて頭を取る」と記されている。

また、《素問・五常政大論》には「病在上,取之下;病在下,取之上;病在中,傍取之(病は上にありて下を取る、病は下にありて上を取る、病は中にありて傍を取る。)」とある。疾病が人体の内部「中」に発生した場合、治療は人体の外部「傍」から行うべきである。ここでの「傍」は四周や周囲を意味し、直接病変部位に対処するだけでなく、病変部位の周囲や対側の部位からも治療を行うことを指す。

《針灸聚英・肘後歌》には「頭面之疾尋至陰,腿脚之疾風府尋,心胸有疾少府瀉,臍腹有疾曲泉鍼。(頭面の疾には至陰を尋ね、腿脚の疾には風府を尋ね、心胸の疾には少府を瀉し、臍腹の疾には曲泉を針す。)」とある。

これらはすべて遠部選穴である。

臨床での具体的な応用方法は、本経選穴、表裏経選穴、同名経選穴などに分けられる。


1. 本経選穴

本経選穴は、病変がある経脈上の腧穴を選ぶ方法だ。この方法は肢体の病気にも内臓の病気にも適用される。

頭痛の本経選穴

頭痛の場合、各陽経脈が頭部を循行しているが、その具体的な分布は異なる。臨床では痛みの部位に基づいて、どの経脈の病変であるかを特定し、腧穴を選ぶ。

  • 陽明頭痛(前頭痛):手陽明経筋および足陽明経脈は前額部に至るため、前頭痛は「陽明頭痛」に分類される。本経選穴としては合谷や解渓を取ることができる。

  • 少陽頭痛(側頭痛):少陽経脈が頭部の両側に分布しているため、側頭痛は「少陽頭痛」に分類される。本経選穴としては中渚や侠渓を取ることができる。

  • 太陽頭痛(後頭痛):太陽経脈が頭の後部に分布しているため、後頭痛は「太陽頭痛」に分類される。本経選穴としては後渓や申脈を取ることができる。

  • 厥陰頭痛(頭頂痛):足厥陰経脈と督脈が頭頂部で会合するため、頭頂痛は「厥陰頭痛」に分類される。本経選穴としては太衝を取ることができる。

  • 少陰頭痛(脳内痛):腎は骨を主り、髄を生じ、脳に通じるため、脳内痛は「少陰頭痛」に分類されます。本経選穴としては湧泉や太渓を取ることができる。

腰腿痛の本経選穴

腰腿痛の場合、足三陽経が下肢に分布しているため、臨床ではこれら経絡の分布と病変の部位に基づいて腧穴を選ぶ。

  • 足太陽経の痛み:腰部および下肢の後面に分布しており、腰骶部(仙骨部)、臀部、大腿、外踝後部に痛みがある場合、足太陽経の経気不調とみなす。本経選穴としては秩辺、承扶、殷門、委中、承山、飛揚、崑崙などを取る。

  • 足少陽経の痛み:腰背痛が髖部、股外側、小腿外側、外踝部にある場合、足少陽経の経気不調とみなす。本経選穴としては環跳、風市、陽陵泉、懸鐘、丘墟などを取る。

  • 足陽明経の痛み:腰痛が鼠径部、大腿前外側、脛骨前縁、足背ある場合、陽明経の経気不調とみなす。本経選穴としては気衝、伏兎、足三里、解渓などを取る。

内臓病の本経選穴

  • 肺病:太淵、魚際を取る。

  • 脾病:太白、三陰交を取る。

  • 胃病:足三里を取る。

これらの選穴は、内臓病治療の本経遠部選穴の典型例である。


2. 表里経選穴

表里経選穴は、特定の経脈またはその所属する臓腑組織や器官に病変が生じた場合に、その表里関係にある経脈上の腧穴を選んで治療する方法である。

これは表里経が相通じているという原則に基づく。表里経の腧穴を選ぶことは、《内経》にも記載がある。

たとえば、《霊枢・厥病》には「厥心痛,腹脹胸満,心尤痛甚,胃心痛也,取之大都、太白。(厥心痛,腹脹胸満,心尤痛甚,胃心痛には大都、太白を取る。)」とある。

臨床応用では、本経と表里経を組み合わせて使用することが多い。たとえば、《素問・蔵気法時論》には「肝病者,两脇下痛引少腹,令人善怒,虚則日疏脳無所見,耳無所聞,善恐,如人将捕之,取其,厥阴与少陽。(肝の病気の場合、両脇の下から少腹にかけて引痛があり、怒りっぽくなる。虚の状態では、頭がぼんやりしてよく見えず、耳もよく聞こえなくなり、恐れやすくなる。まるで誰かに捕らえられるような感じがする。このような場合、厥陰と少陽を治療するべきである。)」と記されている。

その他の例として、鼻病には少商、合谷、胃病には足三里、公孫、腹脹には公孫、太白、足三里、上巨虚などを取る。


3. 同名経選穴

同名経選穴は、特定の経脈またはその所属する臓腑組織や器官に病変が生じた場合に、その経絡の名称と同じ経脈上の腧穴を選んで治療する方法である。

これは同じ名称の経絡が相通じているという原則に基づく。手足の同名の陽経は頭部で相接し、手足の同名の陰経は胸部で相接する。

たとえば、足陽明胃経の条口を用いて手陽明大腸経の肩の痛みを治療する場合などである。同名経選穴は本経選穴と組み合わせて使用することが多く、《内経》にも明確に記載されている。

《霊枢・熱病》には「熱病而汗出,及脈順可汗者,取之魚際、太淵、太白、大都、瀉之則熱去,補之則汗出,汗出太甚,取内踝上横脈止之。(熱病において汗が出た後、脈象が安静である場合は、陽証が陽脈を得た状態を示し、脈証が一致しているため、発汗を続けることができる。手太陰肺経の魚際、太淵、大都、太白を針刺し、瀉法を用いると熱が去り、補法を用いると発汗が続く。もし、汗が出すぎた場合は、内踝上の三陰交を鍼刺し、瀉法を用いて汗を止める。)」とある。

この方法は臨床で広く応用されている。頭項痛や背痛には崑崙、申脈、足通谷、後渓を取り、胃脘痛には足三里、合谷を取る。脇痛には陽陵泉、支溝を選び、咳嗽や喘息には太淵、太白を取る。


三、対症選穴

対症選穴は、症状に基づいて効果的な腧穴を選び治療する方法である。症状は病気の病理反応であり、一つの病気で複数の症状が現れることも、一つの症状が複数の病気に共通して現れることもある。複雑な症状を分析し、明確な診断を行った後に、患者の苦痛を軽減するために特定の症状に対して有効な腧穴を選ぶことが対症選穴だ。

例えば、

  • 発熱には大椎または曲池を選ぶ。

  • 痰が多い場合には豊隆または中脘を選ぶ。

  • 貧血には膈兪または足三里を選ぶ。

  • 低血圧には素髎または内関を選ぶ。

  • 不眠には神門または三陰交を選ぶ。

  • よだれが多い場合には水溝、頬車、合谷を選ぶ。

  • 舌が強ばる場合には啞門、廉泉、通里を選ぶ。

  • 疳積には四縫を選ぶ。

  • 崩漏には隠白を選ぶ。

  • 陰部の痒みには蠡溝を選ぶ。

対症選穴は一時的な症状の緩和を目的とした治療法であり、症状の緩和は根本的な治療に有利な条件を作ることができる。この方法は、臓腑経絡学説と腧穴の特異性に基づいて生まれた。適用する際には、病情の緩急や症状の軽重に応じて対症選穴を適切に選ぶことが重要である。


四、按穴名選穴

按穴名选穴法とは、腧穴の名称の意味に基づいて腧穴を選ぶ方法である。腧穴の命名原則は《腧穴学》で論じられている。主に腧穴の機能、臓腑、気血、経脈流注などに関連している。

三陰交穴

  • 名称の意味: 「三」は三条(三本)の経脈を指し、「交」は交会を意味する。この穴は足太陰脾経に属し、足厥陰肝経と足少陰腎経が交会する腧穴である。したがって、三陰交と命名された。

  • 主治作用:

    • 肝、脾、腎の機能: 脾は統血、生血、肝は蔵血、腎は蔵精する。この腧穴は肝、脾、腎三経の交会穴であるため、三陰交は「精血之穴」であり、精血の不足による病症に用いられる。たとえば、眩暈、耳鳴、耳聾、心悸、失眠、健忘、脇肋の痛みなどだ。

    • 生殖器の病症: 肝経は陰器を通り、足太陰の筋は陰器に集まり、足少陰の筋は太陰の筋と合して陰器に結ぶ。足三陰経は任脈の中極、関元に交会し、任脈は胞胎(男女生殖系統)を主ります。ゆえに男女ともに生殖治療の主治穴である。月経不調、痛経、帯下、遺精、陽痿、不妊、不育などの生殖系の病症にも用いられる。

    • 水腫や尿の問題: 腎は水を主り、脾は運化を主り、肝は疏泄を主る。したがって、水腫や尿の問題にもこの腧穴は用いられる。

他の例

  • 承霊: 神志病の治療に用いる。

  • 目窓、光明: 目の病気の治療に用いいる。

  • 背兪穴: 関連する臓腑の病気の治療に用いる。

  • 気海: 気を補うために用いる。

これらの例からもわかるように、穴名の意味に着目することで、腧穴の主治や作用を柔軟かつ深く理解し、治療に適用しやすくなるのだ。


五、解剖学に基づく選穴

解剖学に基づく選穴は、弁証論治を踏まえつつ、病情に応じて解剖部位を参考にして腧穴を選ぶ方法である。具体的には以下のような分類がある。


1. 局部解剖に基づく選穴

病変がある臓器や器官の近くにある腧穴を選ぶ方法だ。どの臓器や器官に病変があるかに応じて、その近くの腧穴を選ぶ。

  • 頭痛、頭晕、脳の病症:百会、四神聡、風池、風府など。

  • 眼病:睛明、攢竹、瞳子髎、球後など。

  • 耳病:耳門、聴宮、聴会、翳風など。

  • 哮喘、肺の病症:膻中、天突、肺兪など、肺に近い腧穴。

  • 下肢痿軟無力

    • 下肢に制限がある場合、大腿に病があれば伏兎、箕門、風市など。

    • 足下垂の場合、小腿の病があれば足三里、豊隆、陽交、外丘など。

この方法は局部選穴と似ている、中医学と西医学の解剖学的、病理学的な違いを強調する点が異なる。たとえば、心病は西医学では心臓病を指し、癲狂や失眠などは含まれない。失眠は大脳皮質の生理機能の不調に関連しているため、頭部の四神聡、百会などの腧穴を選ぶのだ。


2. 神経節に基づく選穴

神経節に基づく選穴は、脊髄神経の走行と分布に基づいて腧穴を選ぶ方法である。

  • 華佗夾脊穴:脊髄神経の異なる節に応じて様々な病症を治療する。

    • 頚1~頚4:頭部病症を治療。

    • 頚1~胸1:上肢の病症を治療。

    • 頚1~頚7:頚部の病症を治療。

    • 頚3~胸9:胸郭および胸腔内臓病症を治療。

    • 胸5~腰5:腹腔内臓病症を治療。

    • 胸11~骶2:腰骶病症(仙骨病症)を治療。


3. 神経幹の走向と分布に基づく選穴

神経幹は固定された分布を持つため、針灸臨床において証に基づきつつ、神経幹を刺激することで治療効果を得る方法である。特に神経系統の病症に効果がある。

  • 顔面神経麻痺:牽正、翳風などを用いて顔面神経幹を刺激。

  • 三叉神経痛:下関を用い、異なる刺針方向で三叉神経の第1、第2、第3枝をそれぞれ刺激。

  • 正中神経損傷、上肢麻痺、前腕神経痛:郄門、内関などを用いて正中神経を刺激。

これらの方法を用いることで、解剖学的知識を活用し、より効果的な鍼灸治療を実現することができる。


今回の記事では「処方の分類」と「選穴の原則」について学んだ。

次回は「配穴の方法」と「組方の規律」を学ぶ。


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