【中医基礎理論 第21講】 - 陰陽学説 陰陽互根 - 高齢者の診療に必須の法則!
前回の記事では「陰陽対立」を学んだ。
ポイントは3つ。
陰陽は対立し、互いに制約している
制約の中で、動的平衡を保っている。
陰陽の異常は「過多」と「不足」しかない。
陰陽対立を学んでみて、中医学はとてもシンプルに感じられたのではないだろうか。
今回は、陰陽の法則3つ目、「陰陽互根」を学んでいこう。
この法則は、高齢者を診る時に役立つとても重要な法則だ。
日本は超高齢社会で、鍼灸師も高齢者を診る機会がどんどん増えている。
適切な治療ができるように、しっかりと陰陽互根を学ぼう。
陰陽互根
陰陽互根は、「対立する陰と陽が互いに補完し、相互に依存する関係」を指す。陰陽互根の形式は、陰陽が互いに根本的な存在であるという前提のもとで発揮される。互いに不可分な存在なのだ。
どのように不可分なのかをみていこう。
陰陽互根は2つの内容からなる。
陰陽互蔵
陰陽互根
1. 陰陽互蔵
陰陽互蔵は、「対立する陰陽のどちらもが互いを含む」という概念だ。
すなわち陰には陽が、陽には陰が含まれているということだ。
すべての事物には、陰と陽、自分とは異なる属性の成分が含まれている。陽の事物には陰の成分が、陰の事物には陽の成分が含まれているのだ。
天地間での水の循環
たとえば、天地の場合、天は陽であり、地は陰だ。「地気上為雲,天気下為雨(地気は上昇して雲となり、天気は下降して雨となる)」とあるように、天は地気が上昇して形成される。もし地気が純粋な陰だけで構成されていればどうなるか考えてみてほしい。陰の性質は「下降」なので、地気は上昇することはできない。上昇するには「陽」の性質が必要なのだ。地気(陰)は、その中に陽を含んでいるから上昇して雲となれるのである。雲はそのまま天を構成する一部となる。そのため、天の中には地気=陰が含まれているのだ。
反対に、地は天気が下降して形成される。もし天気が純粋な陽だけで構成されていればどうなるか考えてみてほしい。陽の性質は「上昇」なので、天気は下降することはできない。下降するには「陰」の性質が必要なのだ。天気(陽)は、その中に陰を含んでいるから下降して雨になれるのである。雨はそのまま地面へ降り、地を構成する一部となる。そのため、地の中には天気=陽が含まれているのだ。
《類経・運気類》で、「天本陽也,然陽中有陰;地本陰也,然陰中有陽,此陰陽互蔵之道。(天は本来陽でありながら、その中には陰も含まれている。地は本来陰でありながら、その中には陽も含まれている。陰陽は互いを含んでいるのである。)」と書かれている通りである。
この様に、天地は互いの性質を含んでいることで、交わり、水も絶えず循環できるのである。
人体における天地の交わり
人体の場合、心は上にあり、五行において火に属す。対照的に、腎は下にあり、五行において水に属す。心火(陽)は腎に下降して腎陽を温め、腎水(陰)が過度に冷えないようにする。腎水(陰)は心に上昇して心陰を滋養し、心火(陽)が過度に高まらないようにする。これにより、心と肾=水と火の調和が実現される。《馮氏錦囊秘録・雑証大小合参》には、「水火互藏其根,故心能下交,腎能上摄。(水と火は互いを含んでいる。そのため、心は下に向かい交わり、腎は上に向かい養うことができる。)」とある。
この関係が崩れたものが心腎不交証だ。
*下半身(特に足)は冷えているのに、上半身(特に頭や顔)はのぼせているといった「上熱下寒」の状態がみられる。
2. 陰陽互根
陰陽互根は、陰と陽が相互に依存する関係を指す。陽は陰にとって根本であり、陰は陽にとって根本である。つまり、双方は互いに存在するための前提条件となっている。
互根は「依存」、互用は「促進・助長・資生(自分が相手のための資源となり相手を生かす)」という意味である。つまり、陰陽は、相互に成長、促進、助長する役割を持つ。《素問·陰陽応象大論》には、「陰在内,陽之守也;陽在外,陰之使也。(陰は内部に存在し、陽を保持する役割を果たし;陽は外部に存在し、陰を活性化する役割を果たす。)」とあり、陰と陽の相互依存不可分な関係を記している。
陰精は内部を主り、陽気は外部を主る。陰精が、陽気に安定を提供し、反対に、陽気が陰精の生成と機能を提供している。陰と陽の調和が取れていると、臓器や経絡の機能が正常となり、気血が正常に循環し、形神気血のバランスがとれ、人体は健康な状態を維持することができる。
いろいろな助け合い
陰陽は相手を助けることで、自分も正常に機能することができる。
例えば、気と血の関係だ。
気は陽で、血は陰である。
気は、自分だけだと温められた空気のように勢いよく拡散してしまう。一方、血は液体なので、自分ではその場から動くことができない。そこで、気と血は助け合う。
気は血にくっつくことで、拡散せず体内を巡ることができる。血は気をくっつけることで、気の推動作用(勢いよく流す力)により全身を巡ることができる。
このように、気血は助け合うことで正常に機能しているのだ。
陰陽互藏互根の意義は、陰と陽が常に一体となっていて、どちらも相手の存在を前提とし、相互に分離することなく一体となって存在することが必要であるということだ。
暑い?寒い?
20℃は暑いだろうか?それとも寒い?
もし、この世の気温が20℃で一定だったら、そこには「暑い」も「寒い」も存在しない。もしそこに、0℃が存在したらどうだろうか?20℃はその瞬間「暑い」という存在になり、0℃は「寒い」という存在になる。つまり、比較する相手がいて、初めて自分が何者なのか分かるのである。
季節でいえば、春夏は陽であり、秋冬は陰だ。春夏がなければ秋冬も存在しないし、秋冬がなければ春夏も存在しない。寒さは陰、暖かさは陽であり、寒さがなければ暖かさも存在しないし、その逆も然りである。
陰は陽なしには存在できず、陽も陰なしには存在できない。陰と陽は不可分な関係なのである。
陰陽互蔵互根の関係が何らかの要因によって崩れると、疾患を発症する。例えば、陰または陽のどちらかが虚になると、「無陰則陽無以生,無陽則陰無以化(陰がないと陽は生まれず、陽がないと陰は現れない)」(王冰注《素問·四気調神大論》)となり、長期にわたると相手の不足を引き起こし、「陰損及陽(陰の損傷が陽に及ぶ)」または「陽損及陰(陽の損傷が陰に及ぶ)」の病変が発生する。
陰陽が相互に依存できず分離・分裂すると「陰があって陽がない、あるいは陽があって陰がない状態」となる。そして、「孤陰不生,独陽不長(陰だけでは生じず、陽だけでは成長しない)」、すなわち「陰陽離決,精気乃竭(陰陽が分離すると、精気が尽きる)」となり、生命は終わりを迎えるのである。
身体が衰えると互いを助けることができない
ある程度健康な状態であれば、陰や陽が減っても、相手を生み、正常な状態に戻すことができる。
ところが、高齢者や体力が低下しているときは、相手を助けることができなくなる。それどころか、相手の影響を受けて、自分も弱ってしまうということが起きる。
例えば、陰が減少したとき、その影響が陽にも及び、陽も減少してしまうことがある。
これを「陰損及陽:陰の損傷が陽に及ぶ」という。
そして、この陰陽両方が不足した状態を弁証(診断)すると「陰陽両虚証」となる。
逆もまたしかりだ。
陽の減少が陰の減少を招くことを「陽損及陰:陽の損傷が陰に及ぶ」といい、弁証は「陰陽両虚証」となる。
これは互根が失調した状態で、高齢者に多くみられる。
同じ弁証でも治療が異なる!?
ここからは、治療法の話しをする。
治療法は、中医の応用科目で習うので、ここでは理解できなくても問題はない。「やり方が違うんだなぁ」くらいに思ってもらえれば大丈夫だ。
中医学では、同じ弁証なら、同じ治療法を用いることができる。
ところが、陰陽両虚証は、陽が先に減ったか(陽虚が先か)、陰が先に減ったか(陰虚が先か)で治療法が少し異なるのだ。
「陰と陽が両方減っているから、両方足せばいいんじゃないの?」と想像がつくのではないだろうか。
そのとおりである。両方足すのは正しい。
しかし、「足し方」が異なるのである。
互根の失調による陰陽両虚証は、互根を利用して治療する。
陰が先に減った場合
陰が先に減り、その後、陽も減った陰陽両虚証は「大量の滋陰」+「補陽」をする。
あえて補陽もすることで互根を働かせて、大きく減った陰を増やすのだ。
互根が働けば、陽が陰を生みだすから、より多くの陰を補うことができる。
この、陽に陰を生んでもらう=陽の中に陰を求めることを「陽中求陰」という。
この「陽中求陰」が、陰が先に減った場合の陰陽両虚証に対する治療のポイントだ。
ちなみに、「陽中求陰」の代表穴は腎兪穴である。
陽が先に減った場合
陽が先に減り、その後、陰も減った陰陽両虚証は「大量の補陽」+「滋陰」をする。
あえて滋陰もすることで互根を働かせて、大きく減った陽を増やすのだ。
互根が働けば、陰が陽を生みだし、より多くの陽を補うことができるのだ。
この、陰に陽を生んでもらう=陰の中に陽を求めることを「陰中求陽」という。
この「陰中求陽」が、陽が先に減った場合の陰陽両虚証に対する治療のポイントだ。
ちなみに、「陰中求陽」の代表穴は関元穴である。
陰陽互根と夫婦関係
陰陽互根も、他の陰陽法則と同様、夫婦関係に似ていると思う。
妻がいるから夫は元気に生きていける。
夫がいるから妻は元気に生きていける。
*夫が先立つと妻の余命は延びるという報告もある。
これは陰陽互根ならぬ夫婦互根である。
「そんな夫婦ばかりじゃない!」という反論は、ここではご遠慮願いたい、笑
陰陽両虚証と老老介護とレスパイトケア
陰陽両虚証は高齢者に多い。
先ほどの治療のポイントは、臨床家なら必ずおさえてもらいたい。
そんな、陰陽両虚証は老老介護に似ていると思っている(私はいろんなものに例えるのが好きなのだ)。
高齢の夫(陽)に介護が必要になったとき(つまり陽虚)、妻(陰)が介護をしたとしよう。妻も高齢であれば、老老介護である。妻も高齢だ。本来は夫を助けるはずが、介護が長引けば疲れ弱ってしまい(つまり陰虚)、最悪な場合、共倒れになってしまう(つまり陰陽両虚証)。
先に陽が減少した陰陽両虚証の場合、治療のポイントは「陰中及陽」だ。
つまり、「大量の補陽」+「滋陰」です。
これを、先ほどの夫婦にあてはめると、「夫への質の高いリハビリと介護サービ」+「妻へのレスパイトケア」になると思う。
レスパイトケアとは、「介護をおこなう方が一時的に介護から離れ、休息やリフレッシュするために実施される介護サービスのことで、介護おこなう方のためのケア」である。
夫のリハビリや介護サービスはもちろん(大量の補陽)、妻もレスパイトケアを受けることで(滋陰)、気持ちが前向きになり、より前向きに夫の介護に取り組むことが期待できる。
そうすれば、夫の状態もより良くなることが期待できる(陰中求陽)。
実際に、私が以前勤めていたリハビリ施設でも、夫がリハビリをする2時間をご自身もリフレッシュや、鍼灸治療をうけて身体をケアすることで、前向きに、積極的に夫をリハビリに連れてくるようになった奥様がいた。
この時、鍼灸師は患者の治療はもちろんだが、ご家族のケアもできる素晴らしい職業だなぁと実感したのだ。
話しがズレたが、「陰陽両虚証」や「陰中求陽・陽中求陰」をイメージするときは、老老介護やレスパイトケアをイメージしてみてはいかがだろうか。
まとめ
今回は「陰陽互根」を学んだ。
ポイントは3つ。
陰陽は互いをの性質を含むことで、交わり、機能している
陰陽は、相互に依存している関係をもつ
陰陽は互いに資生するが、共に弱まることがある
次回は法則の4つ目、「陰陽消長」を学んでいく。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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