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【中医基礎理論 第28講】 - 陰陽学説 診断に与えた影響 - 先ず陰陽を区別する

前回は、陰陽が病気に応用されたことで、全ての病気が4パターンに分類できるようになったことを学んだ。

今回は、診断と治療における陰陽学説の影響をみていこう。



診断する時は先ず陰陽を区別する

中医学では診断をする時に、まず「この病気は陽証かな?陰証かな?」と、陰か陽に大きく分けて病気を捉える。

実熱証を例にしよう。
実熱証の病気のメカニズム(以下、病機)は、

①実熱証は、
②陽が盛んになることで、
③熱が強くなって、
④「高熱、顔が赤い、脈が速い」等の症状がみられる
という流れで把握する。

一方、診断はこれを逆方向から分析していく。
つまり、
①「高熱、顔が赤い、脈が速い」等の症状から、
②熱が強くなっている、
③つまり陽が盛んになった、
④「実熱証」である
と診断していく。

「高熱、顔が赤い、脈が速い」といった「熱」の所見をみれば、なんとなくでも「陽(陽証)っぽいなぁ」と分かると思う。

「陽証っぽいなぁ」と判断をするために、まず、四診で集める所見を「陰陽」に区別したい。そこで陰証と陽証それぞれの特徴をみていこう。


陽の所見の一例

陽の所見の特徴をみてみよう。陽は熱の性質を持っているので、熱をイメージするとよい。

  • 色(顔や分泌物の色味):黄・赤・鮮明
    例:熱があれば顔が鮮明に赤くなる。炎症(炎症は熱である)があれば鼻水は黄色くなる(膿である)。

  • 声息(声):高亢宏亮(高くて大きい)
    例:カッカしている人や怒っている人は声が大きい(怒りは熱である)。
    また虚実の実は陽に属す。つまりエネルギー過多(元気すぎる)状態も陽の所見である。

  • 呼吸:有力・声高気粗(力強い・太くて低い・荒い)
    例:興奮している人は息が荒い(興奮は熱である)。実の所見でもある。

  • 症状:熱・燥・動
    例:発熱・乾燥・煩悶など。熱の影響で動作や気持ちが正常より過度に働いてしまう。また、熱で水分が減少して乾燥する。

  • 脈象:数(脈拍が速い)
    例:熱により代謝が亢進し脈拍が速まる。運動時と同じである。

  • 疾病部位:表・外・上(表と外は体表・上は上半身、特に頭面部)
    例:表・外・上は陽に属す。つまり陽の病変は表・外・上に現れやすい。

このような所見は「陽」の所見である。

高熱の時や、怒って興奮している人をイメージしよう


陰の所見の一例

陰の所見をみてみよう。

  • 色(顔や分泌物の色味):青・白・黒・晦暗(晦暗:かいあん=暗い)
    例:寒があれば顔色が青白くなる。痰濁(余分な水分で陰に属す邪気)が貯まると顔色が黒く暗くなる。

  • 声息(声):低微無力(低くて弱い)
    例:陰は静の性質がある。陰が強いと元気がなく大人しく静かな様子がみられる。

  • 呼吸:微弱・声低気怯(小さく弱々しい)
    例:陰は静の性質があり、虚も陰の所見である。陰が強いと元気がなく大人しく静かな様子がみられる。

  • 症状:寒・潤・静
    例:冷え・湿潤・動きが鈍いなど。:気持ちが萎えるなど、動作や気持ちが正常より静かになってしまう。

  • 脈象:遅(脈拍が遅い)
    例:陰は静の性質がある。また寒冷により血流が低下し脈拍が遅くなる。
    一息四回未満(一呼吸で4回に満たない)、每分60回以下の脈拍で、徐脈にあたる。

  • 疾病部位:裏・内・下(裏と内は体内・上は下半身)
    例:裏・内・下は陰に属す。つまり陰の病変は裏・内・下に現れやすい。

このような所見は「陰」の所見である。

冷え性や、落ち込んで元気がない人をイメージしよう



陽証?陰証?

所見を集めたら「陽証」か「陰証」に区別します。

陽の所見が多ければ「陽証」、陰の所見が多ければ「陰証」と、病気を大まかに区別ができる。
*症状が全て必ずどちらかに偏るわけではない。あくまで「傾向」である。

陰陽学説が応用されたことで、あらゆる病気を「陰」か「陽」に区別することができるようになった。


治療をするには八綱弁証が必要

「陽証だから熱があるってことか?それなら冷やせばいいのか?でも、どこを?どのくらい冷やせばいいんだ?」

このように、陰証か陽証だけではどのように治療していいかはっきり分からない。

そこで、集めた所見をさらに「虚実・寒熱・表裏」という要綱に分けて分析する必要がある。

つまり、「八綱弁証」だ。

例をあげてみよう。

「急に少し悪寒を感じた後、発熱した。関節や頭が強く痛む。舌苔薄黄で浮数脈がみられる。」

この症例を陰陽で分けると「陽証」となる。

だが、それだけではどう治療してよいか分からない。

そこで、所見をさらに分析する。

  • 少し悪寒を感じた後、発熱した。
    病性は「熱」である。

  • 急に発症。
    病位は「表」であり、邪気も自分もまだ元気があるので「実」である。

  • 関節や頭が強く痛む。
    関節の痛みは経絡の気血の流れが邪気に阻害されるため生じる。経絡は表にあるので病位は「表」。また、頭部は「上」なので陽の所見にあてはまる。また、強く痛むことから「実」である。

  • 舌苔薄黄
    黄色は「陽(熱)」の所見である。

  • 浮数脈
    脈が浮くのは、気血を邪気がいる「体表」に送るためである。数脈は熱の影響で脈拍が速くなっているためにみられる。

所見をまとめると、「表実熱証」と弁証できる。

「表実熱証だから強い熱邪が体表にあるってことだ。それなら解表泄熱すればいい。合谷、風池、風門、魚際、肺兪を使おう。実証だから瀉法でいこう。」

八綱弁証ができれば、それに基づいて論治し、治療を行うことができのだ。

*実証に瀉法は基本的には正しいが、虚弱、刺激に敏感、子供などにはむやみに行ってはいけない。患者に合わせて慎重に行う必要がある。

表実熱証の症例


虚実・寒熱・表裏と「陰陽」の関係


弁証に用いる虚実・寒熱・表裏。これらと陰陽の関係をみてみよう。

あらゆるものが陰陽に分けられるように、虚実・寒熱・表裏も「陰陽」に分けることができる。

  • 陽:実・熱・表

  • 陰:虚・寒・裏

陽証であれば「実・熱・表」の所見がみられやすく、陰証であれば「虚・寒・裏」の所見がみられやすい。

反対に「実・熱・表」の所見があれば「陽証」に、「虚・寒・裏」の所見があれば「陰証」と推測することもできる。

これらはあくまで傾向だが、診断の一助となる。

八鋼の陰陽分類


さて、弁証ができれば論治ができる。

当然、論治にも陰陽が応用されている。


治療における陰陽の応用

弁証に陰陽が応用されたのなら、論治にも陰陽が応用されている。

病気の状態とは「陰陽平衡が崩れた状態」だ。

陰陽平衡が崩れるのは「陰」か「陽」の「過多」か「不足」の4パターンであるが、陰と陽は性質が違うだけの話しなので、「過多」と「不足」の2パターンに絞ってみていこう。

基本的に足し算と引き算

過多であれば増えた分を減らし、不足であれば減った分を足し、陰陽平衡に戻せば良いのである。

いたってシンプル。

足し算と引き算ができれば理解することができる。


扶正(足し算)か祛邪(引き算)か

扶正とは「正気を扶(たす)ける」、祛邪とは「邪気を取り去る」という意味である。

つまり、「不足」には「扶正」を行い、「過多」には「祛邪」を行えば、プラスマイナスゼロとなり、晴れて陰陽平衡となるのだ。


「不足」には「扶正」

「不足」とは正常よりも陰気や陽気が減っている状態である。

具体的に何が減っているかというと、人体に必要な基本物質である精・気・血・津液である。

精・気・血・津液の総合的な働きによって人体は邪気に抵抗している。

この、邪気に抵抗する働きを、邪気に対して「正気」という。

*国でいうなら国力である。国力があれば諸外国(邪気)に侵略されない。

つまり、扶正とは「減ってしまった正気(精・気・血・津液)を扶ける」という意味になる。

ちなみに陽の不足といえば「(陽)気の不足」、陰の不足といえば「精・血・津液」の不足(特に津液)を指す。

このように、「不足」には「扶正」を行うのだ。


「過多」には「祛邪」

「過多」とは陰、または陽の性質を持った邪気の力が加わわった状態である。

その原因の多くは六淫や内生五邪、病理産物といった邪気によるものだ。
※今は菌やウィルス、余分な水分や血栓などをイメージできれば十分である。六淫や内生五邪、病理産物は、「病因病機」を学ぶ時に詳しく説明する。

強い陰や陽の力を持った邪気に襲われると、正常範囲を超えて「過多」になる。

そのため、「過多」には対しては、増えた邪気を取り去る「祛邪」を行うのだ。

扶正の正は正気の正


補其不足:その不足は補おう

「不足」を言い変えると「虚」である。

なので、虚すれば則ちそれを補うのだ。これを漢字四つで表すと「虚則補之」となる。

陽虚証は陽を足そう

陽虚証は陽が不足した状態である。

したがって、治療は陽を足すことで扶正を行う。

陽を足すことを「補陽」または「扶陽」という。

それにより、陰陽を平衡にするのである。

陰虚証は陰を足そう

陽虚証は陰が不足した状態である。

したがって、治療は陰を足して扶正を行う。

陰を足すことを「滋陰」という。

それにより、陰陽を平衡にするのである。

不足には足し算。つまり、虚は補う。


損其有余:その有余は損なおう

「過多」を言い変えると「実」である。

なので、実すれば則ちそれを瀉すことで祛邪を行う。これをこれを漢字四つで表すと「実則瀉之」となる。
※瀉は「流す」という意味である。邪気を流して除去するというイメージだ。

実熱証は陽(熱)を瀉そう

実熱証は陽が増加した状態だ。

したがって、治療は陽(陽の邪気)を瀉して祛邪を行う。

陽を瀉すことを「清熱(熱を冷ます)」という。

それにより、陰陽を平衡にするのである。

ちなみに排尿や発汗は清熱効果がある(おしっこは結構温かい。排尿後「ブルッ」と震えるのは一時的な冷えによるものである。)

実寒証は陰(寒)を瀉そう

実寒証は陰が増加した状態だ。

したがって、治療は陰(陰の邪気)を瀉して祛邪を行う。

陰を瀉すことを「散寒(寒を散らす)」という。
*湿邪の場合は祛湿という。

それにより、陰陽を平衡にするのである。

ちなみに排便には散寒効果がある。



余談:去邪?祛邪?袪邪?

日本では「去邪」と記載されることが多いが、正式には「祛邪」である。

一方、中国では「袪邪」と記載されることがあるが、正式には「祛邪」である。

「袪」は袂(たもと)、つまり袖の下という意味だ。

「祛」は駆除、消散という意味で、元は祭事で厄災を駆除すること意味する。

そのため、駆除を意味する「祛」を用いるのが正解なのである。
※示:「 | 」は、最も高いところ、「 二 」は、天を表している。神は最も高いところに住んでいるという考えを表しているのだ。左右にある 「 八 」 は、神が天から下ろす福と禍を表していて、後になって付け足されたものである。


陰陽の治療原則まとめ

最後に陰陽の治療原則をまとめよう。

偏盛の治療原則

邪気により陰陽が偏盛した時は、「損其有余:その有余を損なう」に則り「祛邪」を行うのが治療原則になる。

「損其有余」は、虚実で言い換えると「実則瀉之:実すれば則ち之(これ)を瀉す」となる。


陽偏盛と陰偏盛の治療原則

陰陽の偏盛には「陽偏盛」と「陰偏盛」がある。

実熱証は陽が増加した「陽偏盛」だ。

したがって、治療は陽(陽の邪気)を瀉して祛邪を行うのだが、具体的にどう瀉すのかを表しているのが「熱者寒之」という治療原則だ。

「陽偏盛」の治療原則は「熱者寒之:熱はこれを寒す」。

「陰偏盛」の治療原則は「寒者熱之:寒はこれを熱す」。

つまり、「陰陽が偏盛したときは、反対の性質を使って盛んになった陰陽を制御する(瀉す)こと」が治療原則になる。


陰陽対立の応用です。


偏衰の治療原則

正気が減少し陰陽が偏衰した時は、「補其不足:その不足を補う」に則り「扶正」を行うのが治療原則になる。

「補其不足」は、虚実に言い換えると「虚則補之:虚すれば則ち之(これ)を補す」となる。

陽偏衰と陰偏衰の治療原則

陰陽の偏衰には「陽偏衰」と「陰偏衰」がある。

陽偏衰の治療原則

陽虚証は陽が不足した「陽偏衰」の状態だ。

そのため陽偏衰の治療は、陽を補うことで扶正を行うのだが、具体的にどう補うのかを表しているのが「益火之源、以消陰翳」という治療原則だ。

「陽偏衰」の治療原則は「益火之源、以消陰翳:火の源を益し、以て陰翳(いんえい)を消す」だ(詩なのか?)。

陽が不足すると温める力が弱り、冷え(虚寒)が生じる。

なので、「温める力(陽)を補って(益火之源)、冷えを消すこと(以消陰翳)」が治療原則になるということだ。
※元の意味では、火の源は腎陽(命門の火)を指し、陰翳とは陰証(虚寒)を指すのだが、陽の不足は腎以外の五臓でも起きる。そのため、臨床では陽が不足した臓腑の陽を補う。

陰偏衰の治療原則

「陰偏衰」の治療原則は「壮水之主、以制陽光:壮水の主、以て陽光を制す」だ。

なぜ虚証だけ詩っぽいのだろう。

陰が不足すると、制御を失った陽が亢進して熱を生じる。

壮水(そうすい)とは津液を強めること(つまり足すこと)であり、陽光とは陽気の亢進を意味する(だって、人体の陰のほとんどは津液なのだ)。

なので、「陰が不足すれば津液を補うことで陽気の亢進を抑える」が治療原則となる。

陰は津液だけではない。精や血も陰の物質である。

それらも含めて考えると、「陰陽が偏衰したときは、不足した性質を持つ物質を補って制約の力を取り戻す」となる。

陰陽対立の応用です。


まとめ

今回は陰陽学説が「診断と治療」に与えた影響を学んだ。

ポイントは3つ。

  1. 診断する時は先ず陰陽を区別する。

  2. 陰陽の病気は4つに分類することができる。

  3. 陰の不足は「寒証」+「津液不足」、陽の不足は「寒証」+「気虚証」。

ここまで理解できれば、最低限の治療はできるようになる。


迷ったときは八綱弁証に還ろう

さまざまな弁証を学ぶにつれて、どの弁証を使っていいか分からなくなり、迷子になる学生は多い。

そんな時は八綱弁証に還ること。そして、まずは陰陽から区別すること。そこから診断を組み立てていけが、迷いを減らすことができる。

迷子にならないためにも、陰陽についてはしっかりと理解しておきましょう。


次回は陰陽学説の最後、養生や予防に対する陰陽の影響を学んでいく。

陰陽学説も次回で終わりです。

最後までどうぞお付き合いください。


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