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【中医基礎理論 第30講】 - 五行学説 - 五行学説の形成と木・火・土・金・水の性質

これまで精気学説と陰陽学説を学んできた。

今回の記事からは、五行学説を学んでいく。

五行学説は、精気学説や陰陽学説と同じく、中国の古代哲学の一つだ。

気一元論も合わさり中医学の基盤が完成しました


五行学説は、よく陰陽学説と合わせて「陰陽五行論」といわれるが、陰陽学説と五行学説は独立した2つの学説である。前漢の時代までは分けていたが、それ以降は陰陽五行論とまとめて言われるようになった。

この2つがまとめて扱われるのは、中医学において2つの学説を複合的に使うことで、より深く人体を解明することが可能になるからである。

五行学説は、中医学において人体の生理、病理および環境との相互関係を「系統的観点」から明らかにする役割を担っている学説だ。

五行学説は臨床においてとても重要な概念なので、しっかり学んで身につけよう。

※系統的観点:木には木の系統があり、そこには肝胆や筋や爪などが属している。木・火・土・金・水それぞれが独自の系統を持っている。それぞれの系統が関連しあい、人体という一つの系統=システムを構築している。



五行学説の形成と五行の基本概念

五行学説は、中国の古代哲学に属す。木、火、土、金、水の相生相克制化の法則は、宇宙の中であらゆる物事が普遍的につながり、協調と平衡を取るための基本的な法則である。

中医学では、この法則を用いて、人体や外部環境との統一性や、生命、健康、疾患について系統的な観点から説明している。


五行の概念と分類

(一)概念の形成

五行は「五材」と関連している。そのため、木・火・土・金・水の五つの基本的な物質を指す。《左伝・襄公二十七年》には、「天生五材、民并用之、廃一不可(天は木・火・土・金・水の五材を作り、人民はそれを用いてきたのだから、一つも 欠かすことはできない。)」とある。

木・火・土・金・水は、人々の日常生活において最も一般的で不可欠な基本物質です。《尚書正義》には、「水火者、百姓之所飲食也;金木者、百姓之所興作也;土者、万物之所資生、是為人用(水と火は百姓(庶民)が飲食するのに必要なものである。金と木は労働に必要である。土は万物が生じるために必要である。人々はこれらを用いて生活をしている。)」とある。
*五行の概念の形成には、「五方」「五時」「五星」などとも一定の関連があるとされている。
*「五方」:東・南・中央・西・北
*「五時」:春・夏・長夏・秋・冬
*「五星」:辰星(水星)・太白(金星)・熒惑(火星)・歳星(木星)・鎮星(土星)

五行のもとは五材


「五行」という言葉が最初に現れたのは春秋時代の《尚書》である。《尚書・周書・洪範》には、「鯀堙洪水、汨陳其五行(鯀(こん)が洪水を治めようとした際に、木・火・土・金・水の五行の順序を乱した)」とある。さらに《尚書》には五行の性質が次のようにまとめられている。

「水曰潤下、火曰炎上、木曰曲直、金曰従革、土爰稼穡(水を潤下と曰い、火を炎上と曰い、木を曲直と曰い、金を従革と曰い、土は爰に稼穡す)」

《尚書》の記載は、五行が哲学的概念として形成されたことを示している。この時の五行は、木・火・土・金・水という五つの具体的な物質から抽象化され、哲学の次元にまで高められた。そして、五行の性質は哲学的な視点から抽象的にまとめられていくのである。

人々が自然現象を観察し推論する過程で、木・火・土・金・水の五つの物質が「相生」と「相勝」の関係を持つことに気付いた。《管子》は、最初に五行の相生を完全に記録した文献であり、《左伝》は最初に五行の相勝の順序を完全に記録した文献です。戦国時代後期には五行の生克理論が完成し、五行学説が形成された。
*相生は「相手を生み出すこと」、相勝は「相手を制御すること」です。


みんなお世話になっている

五行の木・火・土・金・水は我々の生活にも密接に関わっていて、誰もがお世話になっている。

その最もたるものは「曜日」だろう。

陰陽学説の陰陽を「日」と「月」として五行と合わせれば、「日・月・火・水・木・金・土」と曜日になる。

太陽系の惑星も深く関係している。

「日・水・金・(地球)・月・木・土」と、陰陽学説と五行学説に則って太陽から土星まで名付けられている。
*土までしかないのは、当時の観測技術で確認できたのが土星までだったからである。

陰陽学説も、五行学説も、最初は難しく感じてとっつきにくいが、身近なものだと知ったら、少し抵抗感が減るのではないだろうか(減るよね?)。

いつもお世話になってます


(二) 五行の基本概念

五行とは、木・火・土・金・水の五つの物質属性とその運動変化を指す。「五」は宇宙の本源の気から分化した万物を構成する木・火・土・金・水の五つの物質属性を指し、「行」は運動変化を指す。《尚書正義》には、「言五者,各有材干也。谓之行者,若在天, 則為五気流注;在地,世所行用也。(五つの要素それぞれに独自の性質がある。「行」は、天にあっては五気が流れ注ぎ、地にあっては世の中で使用される。)」とある。

五行学説は、木・火・土・金・水の五つの物質属性とその運動を通じて世界を認識し、宇宙の変化の法則を探求する世界観であり方法論だ。秦漢時代には、五行学説は天文、地理、暦法、気象、社会、経済、兵法などの各分野で広く応用され発展した。その中でも中医学が特に顕著である。古代の人々は五行学説を用いた上で、取象比類法や推演絡繹法を採用し、自然と社会の様々な物事や現象を五つのカテゴリーに分けた。そして、五行間の生克制化の関係を通じてこの世界の発生、発展、変化を説明したのである。
*取象比類法と推演絡繹法は次回の記事で紹介する。

五行による人体の生成・運動・変化の説明も可能になったことで、中医学はより高度に発展していく。


(三) 五行の性質と分類

五行の性質は、古代の人々が木・火・土・金・水という五つの基本物質を直接観察し、その認識に基づいて抽象化し、徐々に形成された理性的な概念だ。これを様々な物事や現象の五行属性を分類する基準とした。

五行は以下の性質を持つ《尚書・洪范》。

  • 木曰曲直(もくえつきょくちょく)

  • 火曰炎上(かえつえんじょう)

  • 土爰稼穡(どここかしょく)

  • 金曰従革(ごんえつじゅうかく)

  • 水曰潤下(すいえつじゅんか)

国家試験でもよく問われるので、しっかり覚えておこう。


1.五行の性質

木曰曲直

木はノビノビ

木の性質は「曲直(きょくちょく)」だ。

曲は「屈む」、「曲がる」を指し、直は「伸びる」ことを指す。

「曰」は「いわく:隠れた事情や理由」という意味だ。

つまり曲直は、樹木が成長する過程で、枝を張りながら上に向かって伸びていく性質を指す。*枝は常に真っ直ぐではなく、曲がりながら上に外に伸びる。

木の性質を基に、そこから連想される概念が派生する。例えば、生長、昇発、条達、舒暢などである。

  • 生長:生まれ育つこと

  • 昇発:発展する、高くなること

  • 条達:一条一条達せられる(毎年必ず大きくなる)こと

  • 舒暢(じょちょう):伸びる、気持ちがいいこと

このような、木から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「木」に関連付けられる。

例えば、日の出・東側・春などである。

日の出は、昇発という特徴を持つ。

そして、日が昇る「東側」も同じく木に属す。

春は、植物が芽を出し、草木が生い茂っていく季節だ。

春は生長、昇発、条達、舒暢といった、木に関する概念が全てあてはまることが分かる。

他にも木から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「木」の属性に分類される。


火曰炎上

火はボーボー

火の性質は「炎上」だ。

炎上は、火や炎など温熱な物質が上向する性質を指す。

火が炎上という性質を持つというのはイメージしやすいだろう。

火の性質を基に、そこから連想される概念が派生する。

例えば、

  • 温熱:あたたかく感じること・もの

  • 上騰(じょうとう):上がる・上昇すること

  • 光明:明るいこと

この様な、火から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、火に属す。

例えば、夏・南側・上昇などである。

夏は、暑いので温熱の性質を持つ。

一日で最も明るく(光明)、暑い(温熱)時間は、太陽が南の空に昇った時なので、南側は火に属す。

上昇は、上に勢いよく昇ること(上騰:じょうとう)なので、火に属す。

他にも火から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「火」の属性に分類される。


木と火はどちらも「上」と関係する

この違いは重要!臨床で役に立ちます。

木も火も「上に向かう」という同じ性質を持つ。

違いがわかるだろうか?


正解は「強さ(勢い)」だ。

火は急激に上に向かう。

急に伸びると気を消耗するので、身体に負担がかかる。

臨床でも、「心火亢盛証」や「肝火上炎証」の様に「火」が付く証は、急激に発症し、症状も激しいという特徴がある。

一方、木はゆっくり成長する。つまり、ゆっくり伸びて上に向かう。

ゆっくり伸びをすると気が流れ気持ちがよく、当然身体への負担もない。

このように同じ「上」でも、木と火では大きく異なるのである。

違いをしっかり押さえておこう。


土爰稼穡

母なる大地

土の性質は「稼穡(かしょく)」だ。

「爰(ここ)」は「曰」と同じ意味である。

稼は「種や苗を植えること」、穡は「収穫すること」を意味する。

つまり、稼穡とは「農業活動」そのものである。

土の性質を基に、そこから連想される概念が派生する。

例えば、

  • 受納:受けて納めること・受け入れること

  • 積載:積んで載せること(地面はあらゆるものを載せている)

  • 生化:生むこと・変化して生じること

この様な、土から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、土に属す。

例えば、胃・中央などである。

胃は、食べ物を受け入れて納める臓腑で、受納の性質を持つ。

また、土は「中土五行:土は五行の中央にある」といわれ、中央に位置するものと考えられている。

そのため中央は土に属す。土に属する脾胃も、人体の中央に位置している。*中央が土に属す理由は「土中五行」を学ぶ時に詳しく紹介する。

他にも土から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「土」の属性に分類される。


金曰従革

農具も大事

金の性質は「従革(じゅうかく)」だ。

従は「従順、服従、依存」、革は「変革」を意味し、金属でできた武器が持つ性質を表している。

金の性質を基に、そこから連想される概念が派生する。

例えば、

  • 沈降(ちんこう):沈んでいくこと

  • 粛殺(しゅくさつ):秋の冷たくきびしい空気が草木を枯らすこと

  • 収斂(しゅうれん):縮むこと・縮めること

この様な、金から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、金に属す。

例えば、日の入り、秋、西などである。

日の入りは太陽が沈んでいくので、沈降という性質を持つ。

そして、日が沈む「西側」も同じく金に属す。

秋は草木が枯れて小さくしぼんでいく季節なので、粛殺という性質を持つ。

他にも金から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「金」の属性に分類される。


なぜ五行に金があるのか?

五行の中の、木・火・土・水は我々が行きていくのに無くてはならない物質だと想像つくが、金(金属)は違う(もちろんあれば便利だが)。

それなのに何故、金が五行に含まれたのだろうか?

それは、古代中国では戦が盛んに行われていて、武器の材料である金属がとても重宝されていたからである。

古代中国では金属加工が早いうちから発展し、金(武器)を用いて周辺国と戦い支配していた。

革命や変革に不可欠の金が五行に含まれたのは、時代背景を考えると自然なことなのである。

金の持つ性質が「従革」となったのも、武器を用いて革命や変革を起こしてきた時代背景に由来する。


水曰潤下

上善は水のごとし by老子

水の性質は「潤下」だ。

潤下は、水が周囲を潤しながら山から海へ、下に下に流れる性質を表している。

水の性質を基に、そこから連想される概念が派生する。

例えば、

  • 滋潤:うるおうこと

  • 下降:下に降りる

  • 寒涼:冷える、冷たいこと

  • 閉蔵:閉ざし蔵めること

この様な、水から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、水に属す。

例えば、寒・冬・北側などである。

冬は寒い季節で、寒涼の性質を持つ。

そして、中国は北半球にある。そのため北側は寒く、寒涼の性質を持つ。

他にも水から派生した概念にあてはまる性質を持つ物事や現象は、「水」の属性に分類される。


水から派生した閉蔵とは?

閉蔵とは、閉ざし蔵(おさ)めることで、簡単に言えば「貯める」という意味である。

日本は水が豊富な国なので、割と水は手に入りやすいが、中国は土地が広く水不足が頻繁にあり、水の確保は死活問題だった。

そのため、中国では「水は貯めておくもの」という意識が強い。その証拠に、紫禁城など昔の中国の建物には、水を貯めておく瓶が多く存在する。

また、水が不足すれば農作物も育たず、食糧不足にもつながる。

このような背景から、「閉蔵」という概念がいかに重要であるか分かる。

水は命を育む

まとめ

今回は「五行学説の形成と木・火・土・金・水の性質」を学んだ。

ポイントは3つ。

  1. 五行学説は、木・火・土・金・水の五つの物質属性とその運動を通じて世界を認識し、宇宙の変化の法則を探求する世界観であり方法論である。

  2. 五行の性質は木曰曲直、火曰炎上、土爰稼穡、金曰従革、水曰潤下の5つがある。

  3. 五行の性質から派生する概念がある。

次回は、万物を五行に分類するための思考法、「取象比類法」と「推演絡繹法」を学ぶ。

五行色体表に関わる重要な思考法である。


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