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【中医基礎理論 第40講】 - 五行学説 - 虚すれば其の母を補う!難経六十九難は五行で理解する!

前回は、五行の病理関係について学んだ。

異常の関係性には「相乗」、「相侮」、「母子相及」がある。

相乗、相侮は相克の異常、母子相及は相生の異常である。

異常があれば治療しないといけない。

その方法を教えてくれるのが「難経六十九難」だ。

今回は、「母子相及」の「虚証」に対し、「相生」を利用する難経六十九難の治療法を学んでいく。



難経六十九難は国家試験の鉄板問題・・・だった?

五行の母子関係に異常が生じた場合(母子相及)、それを治療する原則が古典《難経》の「六十九難」に記載されている。

《難経》は『黄帝八十一難経』の略称で、『八十一難経』ともいわれる。

各編を「難」と呼び、一難から八十一難まである。

六十九難とは「第六十九編」ということだ。

難経六十九難は国家試験でも毎年必ず出題される鉄板問題・・・だった。

ところが、2022年度の第30回鍼灸国家試験では出題されなかったのだ、驚

教員としてこれにはビックリしたのを覚えている。

その後はまた出題されるようになったので、やはり鉄板問題としてしっかりと理解しておく必要がある。

臨床でも使える治療原則なので、しっかり学んでおこう。


難経六十九難は「虚証」と「実証」の2パターンがある


難経六十九難の補法


難経六十九難は、五行のある臓腑が虚した時(エネルギー不足)と、実した時(エネルギー過多)の治療原則が記載されている。

その治療原則は「虚則補其母」と「実則瀉其子」である。

今回は、虚証の治療原則である「虚則補其母」をみていこう。


虚則補其母(虚すれば則ち其の母を補う)

虚証の治療原則は、「虚則補其母(虚すれば則ち其の母を補う)」である。

これは「ある臓が虚証にあるとき、 その臓を補い、またその母臓を補う」治療原則だ。

子供が弱ったら、自分を生んでくれる母親のエネルギーを貰って元気を取り戻す的な原則だ。

もっと具体的にみていこう。

例えば肝が虚した場合

母親からパワーをもらう!


肝が虚したとき、この法則にあてはめると「肝を補い、またその母臓である腎を補う」となる。

しかし、鍼灸治療をするにも、これだけではどの経穴を使えばよいのか分からない。

そこで、どの経穴を使用するかを具体的に示す、さらなる原則がある。

それが、「自経の母穴と、母経の母穴を補う」だ。

この原則にはキーワードが3つある。

①「自経」、②「母経」③「母穴」

これらの意味をしっかりおさえよう。

自経とは「問題がある臓腑自身の経脈」のことである。肝が虚しているなら問題は肝にあるので、自経は肝自身の経脈、つまり「肝経」となる。

母経とは「問題がある臓腑の母の経脈」のことである。肝が虚しているなら、問題がある肝の母である腎の経脈、つまり「腎経」となる。

ここまでは問題ないだろうか?続けて母穴の意味をみていこう。

母穴とは、「自分の母の性質を持つ経穴」のことだ。

各経脈には五行の性質を持つ要穴、「五行穴」がある(主に日本で使われている)。

木穴、火穴、土穴、金穴、土穴の5つだ。

肝は五行で木に属す。木の母は水だ。つまり、肝の「母穴」とは、木の母の性質を持つ「水穴」を指すのだ。

このことから、自経の母穴=肝経の水穴となる。

最後は、「母経の母穴」だ。

肝経の母経は腎経である。そして、肝の母穴は水穴である。

つまり、母経の母穴=腎経の水穴となる。

選穴の方法は分かっただろうか?

それでは経穴をあてはめていこう。

肝経の木穴は太敦、火穴は行間、土穴は太衝、金穴は中封、土穴は曲泉である。

腎経の木穴は湧泉、火穴は然谷、土穴は太谿、金穴は復溜、土穴は陰谷である。

肝が虚した時は、自経である肝経と、母経である腎経の母穴=水穴を補えばよいので、「曲泉と陰谷に補法をする」という治療方法になるのだ。

他の臓腑も考え方は同じである。

最初は難しく感じると思うが、慣れるとすぐにできるようになるので、諦めずに繰り返し考えてみてほしい。


シンプルにまとめると

五臓の場合

もっとシンプルにまとめてみよう。

問題:

肝虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 肝が虚した。

  2. 自分(肝経)と母の経脈(腎経)の母穴を補う。

  3. 肝=木だから木の母穴は水穴。

  4. 肝経と腎経の水穴を補う(曲泉と陰谷)。

終了

たったこれだけである、笑


問題:

心虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 心が虚した。

  2. 自分(心経)と母の経脈(肝経)の母穴を補う。

  3. 心=火だから火の母穴は木穴。

  4. 心経と肝経の木穴を補う(少衝と太敦)。
    ※心包も五行で火に属すので、少衝の代わりに中衝を使っても良い。
    ※心包虚の場合も中衝の代わりに少衝を使っても良い。


問題:

脾虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 脾が虚した。

  2. 自分(脾経)と母の経脈(心経)の母穴を補う。

  3. 脾=土だから土の母穴は火穴。

  4. 脾経と心経の火穴を補う(大都と少府)。
    ※心経の代わりに心包経の労宮を使っても良い。


問題:

肺虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 肺が虚した。

  2. 自分(肺経)と母の経脈(脾経)の母穴を補う。

  3. 肺=金だから金の母穴は土穴。

  4. 肺経と脾経の土穴を補う(太淵と太白)。


問題:

腎虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 腎が虚した。

  2. 自分(腎経)と母の経脈(肺経)の母穴を補う。

  3. 腎=水だから水の母穴は金穴。

  4. 腎経と肺経の金穴を補う(復溜と経渠)。


このパターンを覚えればどの臓腑が虚しても対応できる(ただし、経穴をちゃんと覚えておくこと!)。


六腑の場合

六腑の場合も考えは同じだ。

問題:

胆虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 胆が虚した。

  2. 自分(胆経)と母の経脈(膀胱経)の母穴を補う。

  3. 胆=木だから木の母穴は水穴。

  4. 胆経と膀胱経の水穴を補う(侠渓と足通谷)。


問題:

小腸虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 小腸が虚した。

  2. 自分(小腸経)と母の経脈(胆経)の母穴を補う。

  3. 小腸=火だから火の母穴は木穴。

  4. 小腸経と胆経の木穴を補う(後渓と足臨泣)。


問題:

胃虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 胃が虚した。

  2. 自分(胃経)と母の経脈(小腸経)の母穴を補う。

  3. 胃=土だから土の母穴は火穴。

  4. 胃経と小腸経の火穴を補う(解渓と陽谷)。


問題:

大腸虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 大腸が虚した。

  2. 自分(大腸経)と母の経脈(胃経)の母穴を補う。

  3. 大腸=金だから金の母穴は土穴。

  4. 大腸経と胃経の土穴を補う(曲池と足三里)。


問題:

膀胱虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 膀胱が虚した。

  2. 自分(膀胱経)と母の経脈(大腸経)の母穴を補う。

  3. 膀胱=水だから水の母穴は金穴。

  4. 膀胱経と大腸経の金穴を補う(至陰と商陽)。


問題:

三焦虚の時に使う経穴は?

考え方:

  1. 三焦が虚した。

  2. 自分(三焦経)と母の経脈(胆経)の母穴を補う。

  3. 三焦=火だから火の母穴は木穴。

  4. 三焦経と胆経の木穴を補う(中渚と足臨泣)。


難経六十九難は五行で考える


心(心包む)は、心包(心)の経穴を使ってもよい

難経六十九難は五行を応用した治療原則である。

よく、五行穴ではなく五輸穴で考えてしまう方が多い。特に難経が苦手な方の多くはその傾向があるように思う。五輸穴で考えても、五臓なら問題はないが、六腑では混乱をきたす。

五輸穴で考えてみよう。例えば、肝虚の時は曲泉と陰谷を使う。五輸穴の合穴だ。

この考えで六腑を考えてみよう。胆虚の時の正解は「侠渓と足通谷」である。しかし、「陽陵泉と委中」と間違えてしまう人が多い。

五輸穴で考えたときに、五臓は合っているのに六腑で間違えるのは、五行穴の順番が五臓と六腑で異なるからだ。

五臓も六腑も五輸穴の順番は井・滎・輸・経・合である。

五臓の五行穴の順番は木・火・土・金・水なので、五輸穴と合わせると井木穴・滎火穴・輸土穴・経金穴・合水穴となる。

例えば、肝虚の時は水穴を使うが、合穴を使うと考えても正しい経穴を選ぶことができる。

ところが六腑の五行穴の順番は金・水・木・火・土となり、五輸穴と合わせると井金穴・滎水穴・輸木穴・経火穴・合土穴となる。

この場合、胆虚の時に五臓と同じ様に、五輸穴で考えて合穴を選んでしまうと、合土穴を選んでしまい「陽陵泉と委中」を選択するという間違いを犯してしまうのだ。

国家試験は、五臓の難経六十九難しか出題されていないので、五輸穴で考えても間違えることはないが、臨床で応用するのであれば、五行(五行穴)で理解する必要がある。


相生を生かした様々な治療法

難経六十九難は経絡経穴を利用した鍼灸の治療法でしたが、古代の医家たちは、この相生の法則を中薬の処方等でも運用して、様々な治療法を制定している。

最後に、以下の相生関係の代表的治療法をご紹介する。

  • 滋水涵木法

  • 培土生金法

  • 金水相生法

  • 益火扶土法


滋水涵木法(じすいかんもくほう)

滋水涵木法は腎陰を補うことにより、肝陰を養う方法だ。

肝陰が不足すると、肝陽が抑えられなくなり、肝陽が亢進してしまう。

これを肝陽亢進証(肝陽上亢証)という。

怒りやすくなったり(易怒:いど)、目眩(めがまわるめまい)や顔が火照るなどの症状が現れる。

治療には、虚した肝陰を補うために、母親の腎陰の力を使う。

腎を補う=滋水することで、肝を養う=涵木(木を潤す)する方法である。


培土生金法(ばいどせいきんほう)

培土生金法は脾気を補うことにより、肺気を補う方法だ。

肺気不足による慢性咳嗽に食欲不振や便糖、四肢無力などの脾気虚の所見が合わさった場合に用いられる。

脾気を補う=培土することで、肺の気も補う=生金する方法である。


金水相生法(じすいかんもくほう)

金水相生法は腎陰と肺陰を同時に補う方法だ。

肺は「水の上源」とも呼ばれ、通調水道(全身の水分代謝機能の一つ)を主っている。

腎は水を主る臓腑である。

このように、肺と腎は水分代謝と関係が深い臓腑だ。

また、肺は呼吸を、腎は納気を主っていて、呼吸とも関係が深い臓腑だ。

肺と腎は、同時に、同じ目的で機能することが多いため、病理上、同時に病むことが多い。

そのため、治療をするときは肺と腎を同時に治療することが多い。

肺と腎を同時に補うことで、相互資生(互いを生み出し合う)も生まれ、より肺と腎を補うことができるのだ。


ちょっと例外:益火扶土法(えきかふどほう)

益火扶土法は一見、心火を補うことで脾土を扶(たす)ける方法に思えるが、これは間違いである。

益火扶土法の火は腎陽(命門の火)を指す。

腎陽によって脾陽を扶け、正常な運化(消化吸収)が行われることを目的とした治療法なのだ。

腎陽はかまどの火、脾陽はかまどの上の鍋をイメージすると分かりやすい。

火が無ければ鍋で調理はできないのと同じ理屈だ。

実は、五行の相生関係で唯一、心と脾の母子関係の概念だけが、その後の臨床観察によって変更されている。

「脾を生むのは心ではなく、腎である」というのが、現在の考えである。

益火扶土法も元々は心と脾の母子関係を指していたものが、腎と脾に変更されたのかもしれない。


最後に

今回は難経六十九難の虚証に対する治療原則を学んだ。

ポイントは3つ。

  1. 難経六十九難で虚証の治療原則は「虚則補其母」である。

  2. 「自経の母穴」と、「母経の母穴」を補う。

  3. 五行穴で考える。五輸穴で考えてしまうと六腑で混乱する。

次回は、実証に対する治療原則を学んでいく。


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