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【中医基礎理論 第20講】 - 陰陽学説 陰陽対立 -

前回の記事では「陰陽交感」を学んだ。

ポイントは1つ。

陰陽が交わることで全ては生まれる(始まる)

陰陽交感は全ての始まりで、陰陽離決は全ての終わりである。

シンプルだけど、最も重要な法則だ。

今回は、陰陽の法則2つ目、「陰陽対立」を学んでいこう。



陰陽対立

陰陽の法則2つ目は「陰陽対立」だ。

対立は「相反する」という意味である。

陰陽学説では、対立・相反が陰陽の基本的な属性であると考えられている。宇宙にある事物や現象はすべて、対立・相反する二つの側面を持っている。例えば、天と地、日と月、水と火、男と女、寒と暖(熱)、動と静、上と下、左と右などである。

陰陽は対立していると同時に、互いを制約もしている。

つまり、陰陽対立・制約としたほうがこの先の内容を理解しやすい。

そして、意味としては「陰と陽は相反する性質を持っていて、互いを制御し合っている」ということになる。

鍼灸や中医薬で治療をする際、多くの場合この相反する性質を使って治療を行う。

例えば、寒性(陰)症状には、熱性(陽)を使って治療する(要は温める)。


中医学における陰陽対立

中医学では、陰陽の対立を人間の生命活動を解釈するために応用している。《素問・宝命全形論》には 「人生有形,不離陰陽(人は形有りて生じ、陰陽離れず。)」とある。人は形を持って生まれる。その形状においても、陰陽に分けることができる。

上半身は陽であり、下半身は陰である。同じ様に、体表は陽で体内は陰、背中は陽で腹部は陰、四肢外側は陽で、四肢内側は陰となる。

臓腑に関しても同じだ。五臓は裏に属し、精気を貯蔵し排泄しないため陰(陰の性質を持っている)であり、六腑は表に属し、飲食物を伝化(移動しながら変化させること)し貯蔵しないため陽となる。

他にも、外向、拡散、推進、温煦、興奮、昇挙などの特性を持つ物質や機能は陽に属し、内守、凝縮、寧静、涼潤、抑制、沈降などの特性を持つ物質や機能は陰に属す。人間を構成する基本物質も、動的で精微な気は陽に属し、見て観察できる精、血、津液は陰に属すのである。


制御されながらも、同時に相手を制御している

陰陽の機能は、陰陽の相互制約を通して発揮される。制約とは、相手に好き勝手させないように「調整、コントロール」することである。《管子・心術上》には「陰則能制陽矣,静則能制動矣(陰なれば則ちよく陽を制し、静なれば則ちよく動を制す。)」 とあるように、陰は陽を、陽は陰を制約している。

例えば、春、夏、秋、冬には温かい、暑い、涼しい、寒いといった気候の変化がある。春夏が温暖なのは、春夏の陽気が秋冬の寒冷な気を抑制しているためである。そして、秋冬が寒冷なのは、秋冬の陰気が春夏の温かさを抑制しているためである。

ここで大切なのは、一方的な抑制ではないということた。夏よ陽気が寒冷の気を抑制しているが、それだけでは陽気がどんどん強くなり猛暑になってしまう。そうならないように抑制されながらも、寒冷の気も陽気を制御しているのである。実によくできた関係だと思う。


陰陽の相互制約とサーカディアンリズム

このように、陰陽の相互制約は四季の変化の源であるが、それだけではない。

人体の正常な生理活動は興奮と抑制の二つの状態を持っている。興奮は陽に、抑制は陰に属す。昼間は陽が陰を制約するので、人は興奮が優位(交感神経優位)の覚醒状態にある。そのため元気に活動することができる。一方、夜間は陰が陽を制約するので、安静が優位(副交感神経優位)となる。つまり、睡眠状態に入るのだ。

このように、陰陽対立による相互制約は、覚醒と睡眠という異なる生理表現に表れる。陰陽制約は体の正常なリズム=サーカディアンリズムを維持するために重要なのだ。

「夜に眠れない。日中に眠くなる。」という人は多いが、一部の病気を除き、多くは陰陽制約が乱れているからだと思う。その多くは昼間の活動量不足や、寝る前のスマホや夜食が原因である。


陰陽対立・制約は夫婦関係に似ている

自然界では、水は火が燃えすぎないように制御すること(消すこと)ができる。

これを夫婦関係に例えるなら、妻が夫を制御するということだ。

個人的に対立制約は、夫婦関係をイメージすると分かりやすいと思う。それも、一昔前の夫婦だ。

まずは、対立。これは「夫がいて妻がいる、妻がいて夫がいる」ということだ。

そして、制約。これは夫婦のパワーバランスである。

夫(陽)は放っておくと飲みに行ったりパチンコに行ったり趣味に走ったり好き勝手する。

そんな夫が暴走しないように、妻(陰)は夫をしっかり見張り制御・管理する。

妻(陰)は家で家事や育児を行う。夫は妻が家に籠りっきりにならないよう、外食やレジャー、旅行に連れ出す。

*ちなみにこれは、私の親戚の夫婦関係である。

夫婦がバランスよく相手を制御して50:50の関係を築けていれば家庭は円 → 人であれば健康な状態となる。

この関係が崩れると夫婦は崩壊 → 人体であれば病気になる。

これが対立制約である、笑


陰の方が陽より大事

陰陽でどちらが大事かといえば、陰である(学術的にどちらが大事ということはない。あくまで私個人の意見である。)。

自動車の運転は、「ブレーキ」が重要だ。

人間も筋肉にブレーキがうまくかけられているからスムーズに動くことができる。

ブレーキが外れた状態、俗にいう「火事場の馬鹿力」が通常の状態になれば、すぐに身体は壊れてしまうだろう。

こういったことからも、やはり陰の方が大事なのである。

妻に感謝です。

我が家のパワーバランス


対立制約に異常が生じると病気になる

陰陽対立・制約の意義は、陰陽のどちらかが過剰になりすぎず、調和とバランスを維持することだ。

陰陽は、常に相反する動きの中で、相手を制約しつつ、どちらも過不足なく存在している。それにより、物事や現象の動的平衡が実現し、持続可能なものが生まれるのだ。

陰陽のどちらかが過剰になるか、または不足するか。対立制約の関係が崩れると、陰陽の調和が崩れ、病気の発生につながる。

例えば、「陽」が弱くなると陰が相対的に強くなる。その結果、身体は寒さを感じるようになる。

これが、「冷え性」だ。

反対に、「陽」が強くなると、陰を制御し過ぎて傷つけてしまう。陰は陽にとって「ブレーキ」の役割を持っているから、陰が傷つくと陽は暴走してしう(特に上に昇る)。

その結果、頭に血が上りやすくなったり、ひどい場合は脳出血を引き起こす。

人が健康であるには、陰陽がちょうど良い力加減で相手を制御することが必要なのだ。

それはまさに持ちつ持たれつの夫婦関係のようである。

強すぎても弱すぎてもダメ


病気の時の陰陽対立・制約

陰陽対立・制約が崩れたとき、人は病気になるのだが、対立制約の異常は「過多」か「不足」だけである。

まずは「過多」からみていこう。

*陰と陽の症状を、ここではイメージをしやすくするため「寒い・熱い」と表現する。


制約過多

制約過多は陰、または陽が通常より亢進し、相手を強く制御してしまう状態である。

偏盛は正常より気が多いので「実証」である(◯盛則◯の状態)

1.陰が強い場合

陰が強くなった(盛んになった)状態を「陰偏盛」という。

陰が強いということは「寒い」ということだ。

陰が強くて寒い状態を「陰盛則寒:陰が盛んなら則ち寒である」という。

例えば、風邪の引き始めにゾクゾクと寒気を感じている状態は陰偏盛である。この時は「強くなった分の寒を取り去る治療」をする。陰の引き算が必要だ。

陰が強い状態が続くと、徐々に陽が傷ついて減っていく。この状態を「陰勝則陽病:陰が勝って陽が病む」という。

これは、遭難して長時間身体を冷やしたことで低体温症になった場合が当てはまる。

こうなると、強くなった分の寒さを取り去るだけでは不十分で、「減った陽を足す治療」も加えなくてはならない。陽の足し算が必要だ。


2.陽が強い場合

陽が強くなった状態を、「陽偏盛」という。

陽が強いということは「熱い」ということだ。

陽が強くて熱い状態を「陽盛則熱:陽が盛んなら則ち熱である」という。

例えば、子供の高熱は陽偏盛である。この時は「強くなった分の熱を取り去る治療」をする。陽の引き算が必要だ。

陽が強い状態が続くと、徐々に陰が傷ついて減っていく。

この状態を「陽勝則陰病:陽が勝って陰が病む」という。

これは、高熱に伴う脱水症状や、熱中症が当てはまる。

どちらも身体から水分(水は陰です)が減少した状態だ。

こうなると、強くなった分の熱さを取り去るだけでは不十分で、「減った陰(水分)を足す治療」も加えなくてはならない。陰の足し算が必要だ。

制約過多は、先ず陰陽とちらかの偏盛がおきるが、その後すぐに治癒しなければ相手の不足を生じる。


制約不足

制約不足は陰、または陽が通常より弱くなり、相手を制御できなくなってしまう状態である。

偏衰は正常より気が少ないので「虚証」である(◯虚則内◯の状態)

1.陰が弱い場合

陰が弱くなった(不足した)状態を「陰偏衰」という。

陰が弱いということは、相対的に陽が強くなるので「熱い」ということだ。
*陰は「冷やす力」を持つので、冷やす力が減ると身体が熱く感じる。

陰が不足し、身体が熱い状態を「陰虚則内熱:陰が不足すれば則ち体内で熱が生じる」という。

更年期障害の初期(顔が火照る、咽が渇く)は「陰偏衰」である。

この時は「不足した陰を足す治療」をする。陰の足し算が必要だ。

陰が不足した状態が続くと制御力が低下し、陽が徐々に旺盛になる。

この状態を「陰虚陽盛(陽亢):陰が虚して陽が亢進する」という。

これは、更年期障害(顔が火照る、咽が渇くに加え、イライラする、怒りやすいまど)にみられる状態だ。

こうなると、減った陰を足す治療だけでは不十分で、強くなった分の熱さを取り去る治療も加えなくてはならない。陽の引き算が必要だ。


2.陽が弱い場合

陽が弱くなった(不足した)状態を、「陽偏衰」という。

陽が弱いということは、相対的に陰が強くなるので「寒い」ということだ。
※陽は「温める力」を持つので、温める力が減ると身体が寒く感じる。

陽が不足し、身体が寒い状態を「陽虚則内寒:陽が不足すれば則ち体内で寒が生じる」という。

例えば、冷え性は、典型的な「陽偏衰」だ。

この時は「不足した陽を足す治療」をする。陽の足し算が必要だ。

陽が不足した状態が続くと、制御力が低下し、陰が徐々に旺盛になる。

この状態を「陽虚陰盛:陽が虚して陰が盛んになる」という。

これは、冷え性に加え、水分代謝が落ちて浮腫を生じた場合(身体に余計な水分=陰が増える)にみられる状態だ。

こうなると、減った陽を足す治療だけでは不十分で、多くなった分の陰(浮腫なら水)を取り去る治療も加えなくてはならない。陰の引き算が必要だ。


陰陽対立・制約のパターンをみてきたが、陰陽を自分とパートナーや、誰でもよいので対人関係に置き換えてしてイメージしてほしい。

人間関係におけるパワーバランスの重要性を再認識できるのではないだろうか。


中医学はシンプルである

慣れない内は難しく感じるが、陰陽の異常は「過多」か「不足」の2パターンしかない。

陰と陽の過多と不足なので、合計で4パターンだ。

ほとんどの病気はこの4パターンのどれかにあてはまる。

*「ほとんど」と書いているのは、過多と不足が両方同時に存在する「陰陽両虚」という状態(それも陰の方が陽より不足している場合とその逆の2パターンある)を入れると6パターンになるからだ。でも、たった6パターンである。

すごくシンプルではないだろうか?

そして、治療もシンプルだ。

過多なら捨てて、不足なら足せばいい。
*どの程度足し引きするかを、正確に見極められるのが腕の見せ所である。

こう考えると、中医学って本当に便利だと思う。

シンプルだなぁ


まとめ

今回は「陰陽対立」を学んだ。

ポイントは3つ。

  1. 陰陽は対立し、互いに制約している

  2. 制約の中で、動的平衡を保っている。

  3. 陰陽の異常は「過多」と「不足」しかない。

次回は法則の3つ目、「陰陽互根」を学んでいく。


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