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【中医基礎理論 第33講】 - 五行学説 - 五行色体表まとめ 人体の五行編

前回は、「自然界の五行」を学んだ。

今回は、「人体の五行」をみていこう。

人体の五行は臨床でとても重要である。

各項目と五臓の関係をイメージしながら、しっかりと覚えていこう。



五行色体表

改めて、五行は木・火・土・金・水である(前提)。

それでは、五行に分類された各項目をみていこう。

人体の五行

五臓(肝・心・脾・肺・腎)

五臓は人体で最も重要な5つの臓器である。

  • 肝:昇発の特性を持つので木に属す。

  • 心:心陽の温煦作用は炎熱の特性を持つので火に属す。

  • 脾:脾は生化の源とよばれ、飲食物から身体にとって重要な物質を生み出す特性を持つので土に属す。

  • 肺:粛降の特性を持つので金に属す。

  • 腎:腎陰は滋潤・濡養という水の特性を持つので水に属す。

人体の五行にでてくる項目は、五臓と大きく関わる。


五腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱)

五腑の属性は五臓と表裏関係にあり、同じ属性である。

  • 胆 ⇔ 肝:木に属す。

  • 小腸 ⇔ 心:火に属す。

  • 胃 ⇔ 脾:土に属す。

  • 大腸 ⇔ 肺:金に属す。

  • 膀胱 ⇔ 腎:水に属す。

五臓六腑の「六腑」は、五腑に「三焦」という中医学特有の臓腑を加えたものである。

五臓六腑だと、三焦の表裏関係の五臓がない。

そこで、「六臓六腑」といって、五臓に「心包」を加える考えもある(心包は心膜の様なものである)。心包は火に属すので、表裏関係の三焦も火に属すという考えだ。

六臓六腑の概念は、十二経絡をあつかう「経絡学説」で重要となるが、あくまで中医学の基本は「五臓六腑」である。


五華(爪・面・唇・毛・髪)

五華は五臓の状態が外見に現れる部位である。

  • 爪:肝は筋に血を送り養っている。爪は「筋の余り」といわれ、筋と同じく肝の血で養われているのである。そのため肝(木)に属す。
    もし肝血が不足すると爪が薄くなる、割れるなどの変化がみられる。爪を観察することで、肝血の過不足を知ることができるのである。

  • 面:心は血脈を主る。全身の気血は全て面(顔)に注ぐ。
    もし心血が不足したり、運行が低下すると顔色が悪くなる。顔色を観察することで、心の気血の盛衰を知ることができる。

  • 唇:脾は昇清作用(飲食物から得た水穀の精微物質を上に送る働き)がある。
    唇は「脾の余り」といわれ、脾の機能が低下すると、唇を養えず色味が悪くなる。唇を観察することで、脾の病変を知ることができる。

  • 毛:毛は全身の「体毛」を指す。肺は皮毛を主る。肺の宣発で水穀の精微物質を体表に送り皮膚を養う。
    もし肺気が不足し、皮膚に精微物質を送れなくなると、皮膚は乾燥したり弾力性を失う。結果、体毛も潤いを失う。毛(体毛)を観察することで、肺気の盛衰を知ることができる。

  • 髪:腎精から髄(骨髄)が作られ、髄から血が生成される。
    髪は「血の余り」といわれ、腎精が不足すると血が不足し髪の光沢や艶がなくなる。髪を観察することで、腎精の盛衰を知ることができる。


五官(目・舌・口・鼻・耳)

五官は五臓が主る感覚器のことで、感覚(五感)と対応している。

目は視覚、舌は触覚と味覚、口は味覚、鼻は嗅覚、耳は聴覚である。

  • 目:目は肝の竅(あな)である。肝の異常は、目の充血やドライアイ、視力低下など、目の異常として現れる。

  • 舌:舌は心の竅である。心の異常は、味覚の低下や発話異常として現れる。

  • 口:口は脾の竅である。脾の異常は、味を感じにくくなるといった味覚の低下として現れる。

  • 鼻:鼻は肺の竅である。肺の異常は、臭いを感じにくくなるといった嗅覚の低下として現れる。

  • 耳:耳は腎の竅である。腎の異常は、聴力低下、耳鳴りなど、耳の異常として現れる。

五官九籔

五官は人体の穴(竅:きょう)である。

そのため、二陰(外尿道口と肛門)をあわせて「九竅」ともよばれる。

舌は穴?

舌は穴なのか?と疑問に思う人も多い。

昔の人は「舌は声を出す穴」と考えた。舌が正常に動くことで、正しい発音をすることができる。このことから、舌は「声を出す穴」と考えられていたのだ。

*《黄帝内経・素問》では「心は耳に開竅する」と、耳を心に対応させ、二陰を腎に対応させる篇がある。
*九竅に関しては、心は「舌」で、腎が「耳・二陰」とするものが多い。


五液(涙・汗・涎・涕・唾)

読み方:るい・かん・えん・てい・だ

五液は体外に出る液体のことである。
*涎と唾は一般的に「唾液」として同一のものとされるが、中医学では別の液体としてあつかう。

  • 涙(泪):肝は涙を主り、目に開竅する。目を潤し保護する涙は、肝精や肝血が化生してできる。
    肝が正常であれば、適量が分泌され、溢れることもない。目を酷使すると肝血を消耗する。すると涙の生成が減少して、目が乾燥してしまう(ドライアイ)。

  • 汗:心は汗を主る。汗の原料は血に含まれる津液(人体の正常な水分)である。
    汗も血も津液を原料とすることを「汗血同源」という。そのため、汗を沢山かくと津液が減少して血液が減少する。反対に、血が不足すると、血を作るのに津液が大量に使われるため汗が減少してしまう。汗と血はとても深い関係があり、その血を主るのは心である。汗は心の状態を反映しやすいことから「汗は心の液」といわれるのだ。
    *心の汗は運動でかく汗ではなく、緊張や不安でかく精神発汗と自汗(ジッとしていてもかいてしまう汗)を指す。

  • 涎:唾液にはネバネバした唾液と、サラサラした唾液がある。唾はネバネバ、涎はサラサラした唾液を指す(耳下腺由来かな?)。涎は口腔粘膜を保護し、口腔を潤す働きがある。また、食事をとると涎の分泌が増え、消化吸収を助けてくれる。この点は西洋医学の唾液と同じである。
    脾が正常だと、涎は口から漏れることはない。赤ちゃんや高齢者の方の口から涎が垂れているのを見たことはないだろうか?あれは、赤ちゃんであれば脾の機能が未熟であり、高齢者であれば脾の機能が低下しているからである。ちなみに、脾経は咽頭より舌根に連なり舌下に散じている。つまり、涎は脾経を通って口腔へ分泌されるのである。

  • 涕:本来、涕(てい)は「なみだ」という意味だ。涕は肺の液である。では、肺が流す涙とは何か?それは鼻水である。そのため涕は鼻水という意味で使われているのだ。

  • 唾:唾はネバネバした唾液のことだ(舌下腺由来かな?)。唾は腎精から作られる。なので、唾を吐くのは腎精を捨てる=寿命を縮める行為である。唾は飲み込むもので、中医学では飲唾(どんだ)という養生法もある。


五味(酸・苦・甘・辛・鹹)

読み方:さん・く・かん・しん・かん

五味は、人が感じる5つの味だ。

五味は適度に摂取すると、対応する五臓を栄養する。

しかし、摂取する量やタイミングを間違えると、相乗関係にある五臓に悪影響を及ぼす(五禁という)。

  • 酸:酸は酸味(すっぱい)である。適度に摂取すると肝や筋を養う。脾が病のときは酸味の過食により、肌肉の胝皺(ちしゅう:厚く硬くなり皺となること)や、唇がめくれ上がることがあるので注意が必要。

  • 苦:苦は苦みである。適度に摂取すると心や血を養いう。肺が病のときは苦味の過食により、皮膚の槁(枯れたような状態)や、体毛が抜け落ちることがあるので注意が必要。

  • 甘:甘は甘みである。適度に摂取すると脾や肌肉を養う。腎が病のときは甘味の過食により、骨が痛んだり、髪が抜け落ちることがあるので注意が必要。

  • 辛:辛は辛みである。適度に摂取すると肺や気を養う。肝が病のときは辛味の過食により、筋が引きつったり、爪が脆くなることがあるので注意が必要。

  • 鹹(しん):鹹は塩辛さである。適度に摂取すると腎や骨を養う。心が病のときは鹹味の過食により、血が滞ったり、顔色が悪くなることがあるので注意が必要。

五味は同じ属性の五臓や五体に影響を及ぼしやすい。不足しているときは適度に摂取しよう。

過食すると対応する五臓だけではなく、相剋関係にある五臓にも悪影響を及ぼすのでで注意が必要である。


五体(筋・血脈・肌肉・皮・骨)

読み方:きん・けつみゃく・きにく・ひ・こる

五体は五臓と関連する身体の組織である。五臓が主るので五主ともいわれる。

臨床では五臓が失調すると、その影響が五体に及ぶ。組織に異常があれば、それ主る五臓に何か問題が起きていると考えることができる。

  • 筋:肝が主る筋と、脾が主る肌肉(筋肉)は異なる。肝が主る筋は、筋・腱のことである。腱があるのは関節部分だ。つまり、肝が主る筋は動的な筋肉を指す。肝が弱ると筋の働きが低下し、スムーズに身体を動かせなくなる。その結果、つまづいたり、転倒しやすくなるのだ。

  • 血脈:血脈は血管のことである。心が弱ると血脈の働きも悪くなる。其結果、血液循環が低下します。瘀血(血の塊)ができたり、神(精神)を養えない場合は精神症状がみられたりする。

  • 肌肉:脾の肌肉は筋肉だけではなく、脂肪などの皮下組織全体を含む。筋肉においては、筋肉量と関係が深い。つまり、肌肉は肝が主る動的な筋肉とは異なり、静的な筋肉を指す。脾が正常であれば、食べ物から筋肉が作られる。脾が弱ると食欲や消化機能が低下する。すると、筋肉が減少し手足が細くなったり、倦怠感(だるさ)を感じやすくなるのだ。見た目の腕が太くても、触るとほとんどが弛んだ皮で、筋肉自体は細い方がいる。一見ふくよかにみえるが、腕が太くても筋肉量が減少しているので脾虚である。

  • 皮(皮毛):肺が主る皮毛とは、皮膚と体表の毛のことである。肺が皮毛を主るのは、風邪をイメージすると分かりやすい。風邪の菌やウィルスは外からやってきて体表を襲う。この時、悪寒(ブルっとした寒気)に加え、咽の痛み、咳、鼻水など、呼吸器系=肺の症状がみられる。これは、体表と肺が繋がっているために起こる現象だ。中医学では、腠理(そうり=毛穴)の開閉や、身体を守る衛気を体表に送る働きを肺が担っている。肺と体表(皮毛)の関係性から、肺は皮毛を主ると考えられるのだ。ちなみに、体表には咽喉(気管)の粘膜も含まれる。

  • 骨:骨は何からできているかというと、「髄(骨髄)」である。中医学では、髄は「腎精」から作られる。そのため、腎は骨を主ると考える。高齢になるにつれて骨が弱くなるのは、腎虚により髄が減少することが主な原因である。

数パターンある五体

篇の違いにより「筋」ではなく「筋膜」とする説、「脈」ではなく「血脈」とする説があるが、いずれも大きな意味の違いはない。そのため臨床では、すべてを含めて応用する。

各篇の記載

  • 筋・脈・肉・皮毛・骨髄:《素問・金匱真言論篇第四》

  • 筋・脈・肉・皮毛・骨:《素問・陰陽応象大論篇第五》

  • 筋・血脈・肌・皮・骨:《素問・六節蔵象論篇第九》

  • 筋膜・血脈・肌肉・皮毛・骨髄:《素問・痿論篇第四十四》

  • 筋・血・肉・皮毛・骨髄:《素問・五常政大論篇第七十》

  • 筋・脈・肌・皮・骨:《霊枢・九鍼論篇第七十八》

五神(魂・神・意・魄・志)

五神は、元来人間に備わっている精神活動で、五臓が蔵える5種類の神気のことである。

神の大元は脳だ。そのため脳は「元神の府」とよばれる。

脳は神様みたいな存在で、人体で最も偉い存在だ。偉い方は自分で仕事をせず、部下に振る。脳の仕事を振られる部下とは、五臓のリーダー「心」である。そのため心は神志を主っているのだ。

一方、心は五臓の中では最も偉い。そのため心は、自分が主る神(精神活動)の働きを、他の四蔵に振り分ける(お前もか!)。

その4つの精神活動が魂・意・魄・志である。

  • 魂:魂は、有意識・思惟(しい:心で深く考えること)・評価・判断に関わる精神活動である。絶えず学習することによって発展、強化される。正常に機能するには肝の疏泄により気機が調整されている必要がある。そのため、情志の失調により疏泄が失調すると、適切な判断や評価が行えなくなる。

  • 神:身体活動および精神活動を統率・制御する。神は主に血の滋養によって支えられているため、血を主る心の機能が失調すると精神機能が低下する。

  • 意:思考・記憶・推測・注意力に関わる精神活動である。意は脳が気血に滋養されることで維持されている。思い悩んだりして脾の機能が失調し、気血の生成が低下すると、思考が停止するなどの症状がみられる。

  • 魄:感覚・知覚・運動など、無意識や本能に関わる精神活動である。赤ちゃんが生まれた瞬間に泣くことで呼吸を始めるのも、おっぱいを吸うのも、教わっていないのにできる(本能的にできる)のは、魄の働きがあるからだ。ちなみに、霊幻道士に出てくるキョンシーは魂が抜けて魄(肉体:心の容器)だけになった状態である。なので、理性は無く、無意識に本能的に人を襲っているのだ。

  • 志:理性・志向(心がその物事を目指し、それに向かうこと)・記憶の維持に関わる精神活動である。この機能は、脳が精によって滋養されることで維持される。そのため腎精が不足すると、物事を根気強く継続して行うことができない、物忘れが激しいなどの症状がみられる。腎精の量が関係するため、失調は高齢者によくみられる。


五脈(弦・鈎・代・毛・石)

読み方:げん・こう・だい・せき

五脈は五臓と対応する脈のことである。

  • 弦:弦は、糸がぴんと張ったような脈である。臨床でみられる弦脈と違い、春に健康な人にみられる少し柔らかい弦脈は正常である。

  • 鈎:鈎(こう)は、拍動が来るとき(拡張期)が強く、去るとき(収縮期)が弱い脈である。別名、洪脈ともよばれ、健康な人では夏の陽気が盛んな季節にもみられる。

  • 代:代は、やわらかく弱い脈のことである。異常脈象の「代脈(不整脈の一種)」とは別ものである。別名、緩脈ともよばれ、湿証や脾胃が虚弱な人にみられるが、健康な人でもみられる。

  • 毛:毛は羽毛のように軽く浮いて力のない脈である。別名、浮脈ともよばれる。

  • 石:石は石のように硬く沈んだ脈である。別名、沈脈ともよばれます。

弦脈、鈎脈、代脈、毛脈、石脈も、本来はすべて異常な脈象であるが、対応する季節にみられる場合は正常とみなすのだ。

ただし、注意点がある。

《素問》平人気象論篇第十八は「春は微かに弦」 「夏は微かに鈎」 「長夏は微かに耎弱(ぜんじゃく)」 「秋は微かに毛」 「冬は微かに石」とあるように、季節の脈の特徴は「微かに」である。そうでなければ病や死に至るとしている。*耎弱:弱い・柔らかい・軟弱という意味である。


五志(怒・喜・思、憂・恐)

五志は対応する五臓を傷るとされる5種の情動(精神活動)である。

五志に「悲」と「驚」が加えると七情とよばれる。

国家試験でも五志と七情の違いを問う問題が出題されたことがあるので、しっかり押さえておこう。

  • 五志:《素問》陰陽応象大論篇には「肝志は怒、心志は喜、脾志は思、肺志は憂、腎志は恐」と記されている。五臓が正常だと、正常な情動が生まれます。

  • 七情:五志と同じく五臓が生み出す情動に「七情」がある。七情は、五志の情動に「悲」と「驚」を加えたものだ。つまり、「怒・喜・思・憂・悲・恐・驚」の七種である。七情も五臓が生む情動ですが、中医学では過剰になると五臓を傷つける病因(病気の原因)「内傷七情」として出てくる。《素問・举痛論》には「怒ると気が上がり、喜ぶと気が緩み、思うと気が結し、悲しむと気が消え、恐れると気が下がり、驚くと気が乱れる」とある。

憂と悲の違いは?

憂と悲は似た感情で、過剰になればどちらも肺を傷つける。

似た感情なので一緒くたにしてしまい、結果的に五志に「悲」が含まれると間違って覚えてしまうことが多い。

臨床上、特に問題はないのが、学問的には分けて覚えておきたい。

「憂」と「悲」の違いは、悲は「すでに起こったことに対して生じる情動」で、憂は「これから起こること(または、まだ起こっていないこと)に対して生じる情動」である。

知らなかったという方も多いとおもいますが、「好きな人にフラれて悲しい」、「未来を憂う」など、ほとんどの方は無意識に正しく使い分けている。


五声(呼・笑・歌・哭・呻)

読み方:こ・しょう・か・こく・しん

五声は五臓と関連して人体から発せられる声のことである。

  • 呼:叫び声である。肝血が旺盛なとき、呼吸は力強く、偶然何かに怒ると、顔色は青くなり、拳を握って机を叩き、強く叫ぶのが正常な肝の声である。ストレスなどで気が滞り、化熱して肝陽上亢になると、めまいや耳鳴り、易怒が生じ、ひどい場合は狂ったように叫びだす。

  • 笑:笑い声である。心は血脈を主り、神を蔵す。血脈が充実しているとき、顔色は赤みを帯び、心情は快活でよく笑い声を発するのが正常な心の声である。しかし、強いストレスやショックをうけ、長期間にわたる鬱積により痰が生じ化熱しすると痰火が生じる。痰火が心を乱すと、絶えず笑う状態となる(「壊れた」と表現されることが多い)。

  • 歌:歌声である。脾胃が働き、中気が充実していると、歌を歌ったり笛を吹いたりする声は明瞭である。長期間の思慮で脾が傷き中気が不足すると、歌う力がなくなる。また、慢性的な脾虚になると、中気が下陥し、倦怠感が生じる。顔色が黄ばんで痩せ、息切れし、言葉が途切れ途切れになる。

  • 哭:泣き声である。肺は声の門であり、呼吸を司る。災難に遭遇し、悲しんで泣くのは正常な肺の声である。しかし、過度に悲しんでよく泣くと、肺気を耗し声がしわがれてしまう。さらに外邪が肺を侵し宣降が失調すると、鼻づまり、鼻水、咳や喘鳴が生じ、声が重く濁る。その声はまるで泣いているように聞こえる。

  • 呻:うめき声である。腎は声の根であり、骨を主り、精を蔵して髄を生じる。たとえば、転倒や骨折、脱臼などで痛みが激しいとき、力強く呻く声が正常な腎の声である。しかし、慢性病により精気が衰え、体が痩せ、顔色が暗くなり、動作が困難になると「腎呻低微」となる。これは、高齢者で重度の腎虚で寝たきりになると、「ア〜、ウ〜」と呻き声がみられる状態だ。


五病(語・噫・呑・咳・欠)

読み方:ご・あい・どん・がい・けつ

五病は五臓の病で生じる症状であり、五臓気ともいう。

  • 語:語は肝の病症でみられ「多弁、うわごと」を意味する。たとえば、肝の実熱では「狂言」や「譫語(せんご)」がみられる。
    *狂言:見たこともないものを語り、荒唐無稽な妄言をすること。
    *譫語:語声が高く力があるが、話の筋は通らないうわごとをいうこと。
    肝の病症で「語」の異常がみられるのは、足厥陰肝経が関係している。肝経は「横隔膜を貫いて側胸部に散布し、気管、喉頭の後を循り咽頭に出て・・・」とあるように咽喉部を流れる。そのため、肝に異常があると肝経を伝わって咽頭に影響を及ぼし「語」の異常が生じてしまうのです。

  • 噫:噫は「おくび、げっぷ」を意味する。ところで、げっぷは胃気上逆(胃の気が上にあがる)でみられるのだが、五行ではなぜ心の病症なのか?

    それは、五行で心の病症が噫になったのは、《黄帝内経・宣明五気篇》に「心は噫である」と書かれているからだ。現在、我々が知っている胃気上逆は《説文》という書物に書かれている「噫の多くは、胃気上逆により至る」からきている。

    では、黄帝内経に書かれている「噫」の機序は「太陰(脾経)の陰気が盛んになると陽明経(胃経)に気が流れる。さらに陽経経と連絡する心に気が上がり噫となる。」である。「脾経ー胃経ー心」という繋がりがあり、脾胃の気が盛んになると心に影響を及ぼしゲップが出ると考えられていたということだ。心の病でゲップが出るとイメージするのは難しいが、胃の大絡と虚里(心尖拍動)の関係や、胃→小腸→心という繋がりがあるなど、中医学において胃経と心は深い関係性を持っているのは確かである。

  • 呑:呑は「呑酸(どんさん)」、つまり胃酸の逆流である。呑酸は脾胃の気逆により生じる。
    呑酸の他にも、「呑涎」という意味があると考えられている。脾が悪くなると津液代謝が失調し、涎の産生が過多になることがある。たくさんの涎が口に溢れるので、頻繁に「呑み込む」という動作が増えてしまうのだ。これを「呑涎」という。

  • 咳:咳は肺気の上逆でみられる。イメージ通りである。

  • 欠:欠は「あくび」という意味だ。腎陰が下に溜まり、腎陽が上に向かうと、腎陰と腎陽が互いを引っ張りあう状態ができる。これによりあくびが生じる。

    もう一つの考え方として、「腎精が不足すると、脳を養えなくなりあくびが生じる」という考え方がある。こちらの方が分かりやすい。
    現代医学でもまだ解明されていないが、「あくびは脳の酸素不足や脳を覚醒させるために生じるのではないか」と考えられている。また、脳梗塞や低血糖など、脳に機能低下に伴いあくびがみられることも分かっている。このように、脳とあくびは深い関係性があるのだ。「脳を養う腎精が不足してあくびが出る」というのは納得しやすい理屈である。


五労(久行・久視・久坐・久臥・久立)

読み方:きゅうこう・きゅうし・きゅうざ・きゅうが・きゅうりつ

五労は病気の原因となる過剰な日常動作である。

《素問・宣明五気》には「久行傷筋、久視傷血、久臥傷気、久坐傷肉、久立傷骨」と記されている。久は「長く、ずっと」という意味だ。

  • 久行:長時間の歩行は筋を傷つけ、筋を主る肝を傷つける。

  • 久視:長時間の目を使用すると血を傷つけ、血を主る心を傷つける。臨床では、目を酷使すると肝血を消耗し、肝が傷つける。

  • 久坐:長時間の坐っていると肉を傷つけ、肉を主る脾が傷つける。実際に、長時間の坐位は、消化機能を低下させる。

  • 久臥:長時間、臥床すると気を傷つけ、気を主る肺を傷つける。実際に、長く横になっていると呼吸機能が低下する。

  • 久立:長時間の立位は骨を傷つけ、骨を主る腎を傷つける。


五動(握・憂・噦・咳・慄)

読み方:あく・ゆう・えつ・がい・りつ

五動は五臓の病変でみられる病症だ。

  • 握:肝は筋を主る。肝血が不足して筋を養えなくなったり、肝風が生じて筋へ影響がでると、筋が引きつって手を握り込む様子がみられる。

  • 憂:心は神志を主り、喜びの感情を生む。心が失調すると、喜びが消え憂鬱で塞ぎ込む状態となる。

  • 噦:噦は「しゃっくり」である。脾胃の失調により胃気が上逆すると、しゃっくりが生じる。

  • 咳:肺の気が上逆すると咳を生じる。

  • 慄:重度の腎陽虚(内寒)によって、寒く震えている状態だ。※内寒は身体の中で生じる寒さ


まとめ

理解度チェック

五行色体で相剋関係にある組合せはどれか。

  1. 筋 ーーー 唾

  2. 血脈 ーーー 涎

  3. 肌肉 ーーー 涕

  4. 皮毛 ーーー 汗


答え

正解は4。

皮毛は金、汗は火に属すので相剋関係になる。

それでは、1、2、3は何に属し、どんな関係でしょうか?

そこまで考えることで、たった1つの問題から、多くの知識を得ることができる。

ただ解くだけではもったいないので、しっかりと問題を吟味しよう。


今回の記事では「人体の五行」を学んだ。

次回は、「飲食物の五行」を学ぶ。


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