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枯れ寂びライカ Hokkaido

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突風で駅舎がぐらっと揺れ、それまでのぽかぽか陽気が一転、気温が急降下した。ぶるっと体が犬みたいに震えた。根室ちかくの花咲駅。最果ての無人駅であった。
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#無人駅

 賀正  氷点下12℃ 増毛

留萌で乗客がどっと降り列車のなかは4~5人となった。 白波がたつ日本海沿いの停車場ごとにひとり、ふたりと客が消える。 夕暮れどき、雪がはげしく舞いあがる無人の終着駅・増毛にたどりつく。 降りたのは、おばあちゃんと僕のふたりであった。 今から10年まえであった。 氷点下12度。 2月の町は雪に埋もれていた。 いつもの倍も積もったという。 昭和8年築の観光案内所は閉まっていたが、 雑貨、寿司屋の明かりがぽつりぽつり。 雪道に足をとられ歩きつづけると、 凍えた手先と足の指

枯れ寂び

突風で駅舎がぐらっと揺れ、 それまでのぽかぽか陽気が一転、 気温が急降下した。 ぶるっと体が犬みたいに震えた。 根室ちかくの花咲駅。 最果ての無人駅であった。 まわりに家もない、人っ子ひとりいない。 冷たい雨が額にぽつり、空模様がくるくる変わる。 元車掌車の駅に潜むこと3時間。 上りも下りも列車1本来ない。 牛が草を食み、何さまかと、じっとこっちを見つめている。 馬に話しかけたニーチェのごとく牛に話しかける気もおきない。 狂ってもいないし、哲学者でもないから思索にふ