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枯れ寂びライカ Hokkaido

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突風で駅舎がぐらっと揺れ、それまでのぽかぽか陽気が一転、気温が急降下した。ぶるっと体が犬みたいに震えた。根室ちかくの花咲駅。最果ての無人駅であった。
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#美唄

 賀正  氷点下12℃ 増毛

留萌で乗客がどっと降り列車のなかは4~5人となった。 白波がたつ日本海沿いの停車場ごとにひとり、ふたりと客が消える。 夕暮れどき、雪がはげしく舞いあがる無人の終着駅・増毛にたどりつく。 降りたのは、おばあちゃんと僕のふたりであった。 今から10年まえであった。 氷点下12度。 2月の町は雪に埋もれていた。 いつもの倍も積もったという。 昭和8年築の観光案内所は閉まっていたが、 雑貨、寿司屋の明かりがぽつりぽつり。 雪道に足をとられ歩きつづけると、 凍えた手先と足の指

彫刻家 安田侃

パリ、シャンゼリゼ通り 両側にずらりと並んだ 現代彫刻作家の作品のなかで 安田侃の彫刻が ひときわオーラを放っていた 道ゆくひとびとが 作品の窪みをのぞきこみ 吸いこまれていく 北イタリア 古代ローマ時代からの 石切り場カッラーラの大理石に かのミケランジェロはノミを打ちこみ とても大理石の塊から彫ったと思えない キリストをいだく聖母マリア・ピエタを生んだ 安田も同じ産の純白な大理石をつかい 近くのピエトラサンタにアトリエを構える 安田は炭鉱の町・美唄で生まれ育った