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枯れ寂びライカ Hokkaido

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突風で駅舎がぐらっと揺れ、それまでのぽかぽか陽気が一転、気温が急降下した。ぶるっと体が犬みたいに震えた。根室ちかくの花咲駅。最果ての無人駅であった。
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2023年1月の記事一覧

野付半島 となりは国後

北海道の端っこに行こうと、 冬の増毛、離島の焼尻の次に 道東のいちばん端、 野付半島に足を踏みいれた。 国後島をわずか16キロほどで 望むことができる。 鳥の嘴のような、 あるいは海老のような形の 全長26キロの細長い 野付半島のなかほど。 なにやら異様な木々の群がみえた。 足元が水に浸かりそうになって 冷や冷や歩いていくと、 立ち枯れた木々のナラワラが 眼前に現れた。 しかも、倒れて湿地に没した大木もある。 自然に戻っていくのだろう。 樹齢100年ほどのミズナ

牡蠣とウイスキー

昔、東京・銀座7丁目にあった立飲みバー「クール」。  え! これってヨードチンキの匂い? まさに病院くさい。 アイラ島のシングルモルト・ウィスキー、ラフロイグ。 バーテンダーの神様といわれた古川緑郎さんのおすすめで出会った 強烈な初体験であった。 アイラ島のシングルモルトにほれ、日本で酒を造ろうとロマンをいだいたひとりの男がいる。樋田恵一。 アイラと同じような風土を日本中探し求めてたどり着いたのが、 厚岸であった。 冷涼で海の霧がでる気候、ピート(泥炭)、清い水と三

仔羊とCafé

初秋、道北の離島、焼尻。 横なぐりの雨と風が荒れ狂う。 羊をさがしまわるがその姿ははるか彼方だ。 雨がパンツにしみこんできた。 駐在のおまわりさんに教えられてとびこんだCafé。 別世界がひろがっていた。 天井までぎっしり本がつまっている。 ムンクとかピカソの画集、文学、建築、デザインの本がずらり。 モーツァルトがひびき、おまけにスパイシーな香りがただよう。 鼻とお腹をしげきしたカレーは美味かった。 女主人が淹れてくれたコーヒーも抜群。 ねばること2時間半、す

 賀正  氷点下12℃ 増毛

留萌で乗客がどっと降り列車のなかは4~5人となった。 白波がたつ日本海沿いの停車場ごとにひとり、ふたりと客が消える。 夕暮れどき、雪がはげしく舞いあがる無人の終着駅・増毛にたどりつく。 降りたのは、おばあちゃんと僕のふたりであった。 今から10年まえであった。 氷点下12度。 2月の町は雪に埋もれていた。 いつもの倍も積もったという。 昭和8年築の観光案内所は閉まっていたが、 雑貨、寿司屋の明かりがぽつりぽつり。 雪道に足をとられ歩きつづけると、 凍えた手先と足の指

枯れ寂び

突風で駅舎がぐらっと揺れ、 それまでのぽかぽか陽気が一転、 気温が急降下した。 ぶるっと体が犬みたいに震えた。 根室ちかくの花咲駅。 最果ての無人駅であった。 まわりに家もない、人っ子ひとりいない。 冷たい雨が額にぽつり、空模様がくるくる変わる。 元車掌車の駅に潜むこと3時間。 上りも下りも列車1本来ない。 牛が草を食み、何さまかと、じっとこっちを見つめている。 馬に話しかけたニーチェのごとく牛に話しかける気もおきない。 狂ってもいないし、哲学者でもないから思索にふ