お酒のことならわかる自分が、地域のためにできることは何か。伊藤さんが天然記念物の梅を使った梅酒を完成できた理由
世界一チャレンジしやすいまち、宮崎県新富町。
ここでどんな人が、どんなチャレンジをしているかを紹介します。
今回は、伊藤酒屋の伊藤寛人さんです。
※こゆ財団の人材育成塾「児湯シータートル大学」で研修中の伊藤さん。
伊藤寛人さんは、町内で明治創業の「伊藤酒屋」を営む、酒店の五代目の店主です。
店頭には彼が訪ねて回った全国の酒蔵のお酒が並んでいるのですが、その中に1本だけ、地元・新富町に貢献しようと自らが製造に携わったお酒があります。天然記念物の梅の実でつくった、座論梅(ざろんばい)梅酒です。
伊藤さんは、こゆ財団が2017年に主催した人材育成塾「児湯シータートル大学」の1期生。新富町を含む児湯郡や隣町の宮崎市などから地域課題を解決するソーシャルビジネスを生み出そうと集まった受講生たちと、彼は3ヶ月にわたってビジネスの手法を学びました。
そして、最終回として行われたビジネスプレゼンテーションで、彼は座論梅梅酒のプランを発表します。めぼしいお土産のない新富町で、お酒に詳しい自分にできることは何かと、受講前からあたためていたプランだったそうです。
新富町には航空自衛隊新田原基地があるのですが、その第305飛行隊が通称「梅組」と呼ばれており、プレゼンでは退官や転勤する自衛隊員向けの記念品としてもいいのでは、というアイデアも披露してくれました。
※こゆ財団が2017年に開校した「児湯シータートル大学」第一回講座の様子
プレゼンを最後にプランも終了、というケースはよく見聞きしますが、伊藤さんはプレゼン後に町役場と相談し、許可を得た上で翌年の春に梅の実を集め、近隣の町の酒造に依頼して梅酒を仕込みました。プランをアイデアのままで終わらせず、行動を起こしたのです。
自分が地元に貢献できることはなんだろうか、と考えた伊藤さんは2018年5月に梅の実を収穫後、同じ県内の大山食品(宮崎県綾町)に製造を依頼し、2019年春に座論梅梅酒が完成しました。プランの発表から約1年半をかけて、座論梅を使った梅酒が本当にできあがったのです。
※幹が地を這うように伸びる「臥龍梅」として知られる座論梅。新富町では地元の小学校で梅シロップをつくる体験に使われてきた以外に、実が活用される機会はありませんでした。
座論梅梅酒プロジェクトについてはこちらの記事もぜひお読みください。
なぜ彼はチャレンジできたのか。
「一つの地域に長く暮らしていると、馴染みの顔が多いのはありがたいことですが、一方で新しい刺激は自ら求めていかなくては出会えません。そういう意味で同じ地域にいながら、異なる分野で活動している仲間と人材育成塾で出会えたことは大きな刺激になったし、自分でも新しいことにまだまだチャレンジができることを知るきっかけになりました」と、伊藤さんは仲間の存在が大きかったことを振り返ってくれています。
2017年の児湯シータートル大学は、わずか3ヶ月程度の短い期間でしたが、そこには農業や小売、製造など多様な分野から受講生が集まっただけではなく、講座終了後もお互いのチャレンジを応援しあう関係ができました。従来のつながりとは異なるコミュニティがつくられたことが、伊藤さんのチャレンジを後押ししたようです。
※児湯シータートル大学(2017)の受講生たち。今もさまざまなフィールドで活躍しています。
2020年4月、座論梅梅酒は2年目の仕込みを終え、再び完成しました。すでに事前予約のみで完売しているとのことですが、伊藤さんは一方で地元のお米を使った甘酒をつくるというチャレンジも始めているとのこと。近々、その甘酒を味わえる日がやってきそうです。
ちなみに伊藤さんは、ずっと苦手だと話していた情報発信にもチャレンジ。全国の酒蔵を訪ね歩く中で出会ったお酒たちを、noteで紹介しています。おいしいお酒に目がない人、必読ですよ。
note「伊藤酒屋 店主」
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