新型コロナ対策と法の不備
先日、PAL研究会で「withコロナ時代の企業法務」と題して講演をしました。
企画段階では、ここまでの感染拡大は想定していませんでしたが、休業要請に従い休業する場合の労務上の留意点など大変リアリティのある内容となってしまいました。
その中で、新型コロナ対策に関連する法律の問題点や改正の見通しについてもお話ししました。
岐阜・愛知にも緊急事態宣言発出の可能性
12月の感染状況からして、いずれは緊急事態宣言が出るとは予想していましたが、1都3県に限定してとはいえ、1月8日0時に発出されるとは誰も思っていなかったでしょう。
そして、1都3県以外にも、大阪・兵庫・京都、そして、愛知・岐阜も近日中には対象地域となりそうな情勢です。九州も対象となるかもしれません。
すでに岐阜県は、独自の非常事態宣言を出しました。
この、緊急事態宣言などを定めているのが、新型インフルエンザ等対策特別措置法です。
新型インフルエンザ等対策特別措置法とは?
「新型インフルエンザ等」という名前の通り、元々は新型インフルエンザに備えたものです。
当初、政府は、新型コロナを指定感染症として扱ってしまい、新型インフルエンザ等対策特別措置法をストレートに使うことができませんでした。
そこで、3月に慌てて、2年限定で特措法の対象とする法改正をしたのは記憶に新しいところです。
緊急事態宣言と緊急事態措置
どういうときに緊急事態宣言を出すのかというと、全国的かつ急速な蔓延により、国民生活・国民経済に甚大な影響を及ぼすとき又はそのおそれがあるとき、これを緊急事態といいますが、実施すべき期間・区域を定めて宣言を出すという立て付けとなっています。
そのような緊急事態において、具体的に講じることができる措置を、緊急事態措置といいます。
法律に書かれている措置は、ほとんどが「要請」です。「命令」ではありません。
現在、新型インフルエンザ等特措法改正の議論がありますが、現行法では、休業要請に対する経済的不利益に対する補償は一切ありません。
また、罰則は一部のみであり、施設使用制限・イベントの開催制限に応じない場合について公表という対応はありますが、罰則はありません。もちろん、休業要請に応じないことに対する罰則もありません。
「要請」すなわちお願いベース
行政法の観点から見ると、「要請」というのは、行政指導の一種です。
任意の協力によってのみ実現できるものであり、あくまでお願いベースです。
特措法の「要請」は、新型インフルエンザ等緊急事態でしか行うことができません。
12月より、岐阜県等では、特措法24条9項を根拠に時短要請をしていますが、24条9項を根拠としてそのような措置を講じることは新型インフルエンザ等対策特措法の解釈としては間違っていると考えられます。
あくまで法律の根拠のない、独自の要請と考えるべきでしょう。
どのようなときに緊急事態となり宣言や措置を講じるのかは不明
特措法を読んでも、どのようなときに緊急事態とすべきかは、よくわかりません。
今回もなぜ緊急事態宣言を出すのか、具体的な基準は、法律からは読み解くことができません。
緊急事態だと判断するのが遅れてしまうと、感染防止のための実効性のある措置を講じることができない危険があります。
逆に、どういうときに緊急事態宣言が出るか分からない、予測がつかないということになると、国民に多大な不利益をもたらします。
すでに、与野党間では、2月にかけて特措法の改正をすることになっています。
現行法で取りうるもののほとんどが「要請」というお願いベースのものです。とはいえ、「要請」に従わないから直ちに罰則を適用させるのはおかしいでしょう。
ですから、「要請」に応じない場合に、より強力な「指示」「命令」といったものを出すというように、段階を踏んで、それでも従わない場合に罰則を適用する、という仕組みにせざるを得ないと思います。
新聞報道等では、刑罰ではなく、行政罰(過料)を課すという話が出ています。
今後、どのような改正がなされるのか注視していく必要があります。
入管難民法による上陸制限の問題点
法の不備は、入国制限・上陸拒否にも見られます。
出入国管理及び難民認定法では、外国人の上陸を拒否できる場合を定めています。
しかし、感染防止のため幅広く外国人の上陸を拒否することは想定外であり、本来は現行の法律ではできないと考えるのが素直です。
ところが、実際には、外国に滞在歴のある外国人たちをみんな、日本の国益や公安を害する行為を行う恐れがあると認めるに足りる相当の理由がある者とした上で、特段の事情がない限り上陸拒否しています。
これは外国人をテロリストとして扱うに等しいものであり,法解釈としては無理があります。ところが、未だ法改正がされていません。
感染症法も改正へ
感染症法の改正もありそうです。
入院に応じない場合の罰則を設ける、軽症者らに対しては、宿泊・自宅療養を義務化する、保健所の調査を拒否した場合の罰則を設けるといった内容が考えられているようです。
入院を勧告したり強制的に入院させることも検討されているようです。
しかしながら、実際には、医療体制が逼迫し入院先も確保できないような状態にまで感染が拡大してしまうと、入院勧告や強制入院は行うことができないでしょう。
感染症法の改正についても注視していく必要がありそうです。
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