見出し画像

withコロナの時代に向けた、従業員の「心の健康」への対応 その1

岐阜県内では20日間連続感染者ゼロが続くなど、新型コロナウイルス感染症の感染拡大は落ち着いたかのように見えます。

企業経営者としては、これまでは、労働者の健康安全については、感染拡大防止策を中心に考えていたかと思いますが、今後は、第2波、第3波に警戒しつつ、労働者の精神衛生面にも目を配る必要がありそうです。

今回は、電通事件東芝事件、さらには、平成26年と平成30年の労働安全衛生法改正も振り返りつつ、withコロナの時代に企業がメンタルヘルス対策を講ずる必要性についてまとめました。

[1]コロナ禍による「心の健康」の危機が懸念されています

新型コロナウイルス感染症の感染拡大やこれに伴う社会経済的な混乱は、人々の精神面にも大きな影響をもたらしていると考えられています。

Reutersの報道によると、WHOの精神衛生部門の専門家も、コロナ禍がもたらす精神衛生への影響を指摘しています。

WHOの精神衛生部門責任者のデボラ・ケステル氏は、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)と精神衛生に関する国連の報告と政策指針を発表。「隔離と恐怖、不透明感、経済混乱により、精神的苦痛が生じている、または生じる可能性がある」と会見で述べた。(5月14日付・ロイター)

日本産業衛生学会の産業精神衛生研究会は、新型コロナウィルス感染の拡大およびそれに関連した社会情勢がもたらす労働者の心理面への影響に関して、産業保健職が留意すべき事項〜産業精神衛生研究会からの提言を公表しており、新型コロナウイルス感染症に伴う異常事態が長引くと、労働者の精神健康面への影響も懸念されるとしています。

その提言の中では、感染症対策による業務のやりにくさ、在宅勤務に伴うストレス要因、生活習慣の変化等のストレス要因が指摘されています。

[2]企業にとってメンタルヘルス対策が必要不可欠な理由

新型コロナウイルス感染症の感染拡大の前から、企業がメンタルヘルス対策を講ずる必要性は強く謳われてきました。

まず、企業は、法律上、メンタルヘルス対策を講ずる義務を負っています。また、経営面や法務面でのリスクを低減させるためにも、メンタルヘルス対策を講ずることは必要不可欠です。

以下、具体的に見ていきましょう。

[3]メンタルヘルス不調の予防や、健康状態の把握・不調への適切な対応は企業の義務です

企業には、従業員の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう必要な配慮をする義務を負っています。

労働契約法
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

最高裁(電通事件:平成12年3月24日最高裁判所第二小法廷判決)は、

使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して義務を負うと解するのが相当であ(る)

とし、

(上司が)恒常的に著しく長時間にわたり業務に従事していること及びその健康状態が悪化していることを認識しながら、その負担を軽減させるための措置を採らなかったことにつき過失がある

として、労働者が長時間労働に従事し健康状態が悪化しているのを認識しながら、負担軽減措置を講じない使用者については安全配慮義務違反となるとしています。

さらに、その電通事件の最高裁判決の14年後の東芝事件(平成26年3月24日 最高裁判所第二小法廷)では、

使用者は,必ずしも労働者からの申告がなくても,その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っているところ,上記のように労働者にとって過重な業務が続く中でその体調の悪化が看取される場合には,上記のような情報(註:自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報)については労働者本人からの積極的な申告が 期待し難いことを前提とした上で,必要に応じてその業務を軽減するなど労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるものというべきである。

とし、労働者が使用者に対して自身のメンタルヘルスに関する情報を告げなかったとしても、使用者が労働者のうつ病に気づく可能性があったような場合には、損害賠償額を減額することはできないと結論づけています。

このように、企業としては、安全配慮義務の具体的な内容として、精神疾患の原因となる事象の発生を予防することや、従業員の健康状態を把握し、問題が生じている場合には適切に対応することが求められています。

なお、精神疾患の原因となりやすい長時間労働対策については、働き方改革の一環として、平成30年の労働安全衛生法が改正され、長時間労働対策が義務づけられるなどしています。その主なものは次のとおりです。

長時間労働者に対する医師による面接指導の拡充
タイムカードやパソコン等による労働時間の状況把握義務
長時間労働者に対し労働時間の状況を通知する義務
産業医への情報提供義務
産業医の権限強化

[4]経営面や法務面でのリスク低減のためにも不可欠です

また、業務に起因する精神面の不調であれ、業務以外の出来事に起因する精神面の不調であれ、そのような不調を抱える人が増えることは経営に大きな影響を及ぼしかねません。

さらに、精神に不調をきたした従業員への対応は、適切に行わないと、様々な法的なトラブルを生じさせる危険があります。

経営面や法務面でのリスクを低減させるためにも、メンタルヘルス対策を講ずることが必要不可欠なのです。

[5]ストレスチェックによりメンタルヘルスの不調の早期発見を

従業員の健康状態を把握するものとして、ストレスチェックがあります。

労働者数50人未満の事業所では当分の間努力義務となっていますが、平成26年の労働安全衛生法の改正により、1年以内ごとに1回、ストレスチェックを行う義務が課せられています。

労働安全衛生法
(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
2 (略)

もちろん、年1回のストレスチェックさえやれば十分というものではありません。

従業員のメンタルヘルスの不調には目を配っておく必要があります。

次回は、メンタルヘルスの不調が発生した場合の対応と留意点について紹介していきます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?