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本当にあった大阪人の話

20年以上東京で暮らしていた僕にとって、大阪人のコミュ力は驚きでもあり、戸惑いの対象でもある。

東京にいた時にあちこちの日帰り温泉に行ったが、湯船で見ず知らずの人が話しかけてくるという事はまずない。東京の外れ、奥多摩であっても同じ。たとえガラガラで、湯船に二人きりしかいないという状況でも同じ。東京の人たちは《絶対に互いに喋りかけてはいけない》という暗黙のルールに従い、行動しているように見受けられる。

大阪では話が違う。湯船に浸かっていると、隣の人が「ええ湯やなぁ」と喋りかけてくることは普通にある。(もちろん、大阪の人全てがそういうわけでもなく、会話がなるべく発生しないように距離を取る人ももちろんいる)いずれにしても湯船での会話というのは、見ず知らずの相手同士とはいえ、至って自然なことではある。しかし…。

先日の日帰り温泉でのこと。
僕が露天風呂の湯船から出て、屋内に戻ろうとしていた時に、60代ぐらいのおっさんが、真正面から、ニコニコしながら話しかけてきたのである。
「ちょっと聞いてもええかな。あんたスマホ持ってはるん?」
(えぇー⁈ここでスマホの話してくるんか大阪人。😓)と戸惑いながら、「はい、持ってます」と僕。
他にも人が5、6人いる状況で、何故か僕に聞いてきたおっさん。露天風呂で二人がタオルで前を隠したまま、立ち話になってしまった。

「ガラケーからスマホに切り替えた時って大変やった?」
「もうだいぶ前やから忘れたけど、めんどくさかったような気がします。でもショップの人に頼めば上手くできると思いますよ」
「ガラケーがあと2年しか使えへんねん。スマホに替えんとしゃあないねんけど、あんたのスマホって、メールの文章とか音声で読み上げてくれる?」
「んーと、僕のスマホにそんな機能は付いてないです」
「ガラケーやとメールの文章を読んでくれるねん。うちの姉が目が悪くてそれで助かるねんけど。メールの字って小さくて見えにくいやん。姉のガラケーも替えなあかんし」
「まぁ、しょうがないですよね。わからなかったら、ケータイのショップで聞いてください」
…と、僕が屋内風呂に入ったら、しばらくしてまたおっさんがやってきた。(僕は湯船の中、おっさんは立った状態でタオルで前を隠して話しかけてくる)
「役所からも時々、ガー、ちゅうてメールが来るやん。あれも音声で言うてくれるんやけどな、スマホはそんなんないの?」
「役所?よくわからんけど、緊急地震速報みたいなやつですか?」
(おっさんはニコニコしながら頷いているが、実際のところそれを意味するのかどうかわからない)
「警戒音みたいなのは鳴りますけど、文章を読み上げるのはないですね」と僕。
おっさんは頷いて、サウナに入っていった。僕は湯船から上がり、頭を洗いに行った。シャンプーをしながら、僕は自分が話したことが気になる。
(もしかしたら、スマホにも文章を読み上げる機能があるんじゃないか?視覚障がい者向けの設定にすれば出来たような気がするな。ガラケーに出来てスマホに出来ないということがあるだろうか?いや…ない!)
おっさんに間違った情報を与えたままにしておくと、自分自身が後になって気がかりになってしまいそうで、僕は急いでシャンプーを中断して、サウナに向かった。
サウナは三段になっていて六人ほどが腰かけていて、白髪頭のおっさんは一段目の真ん中のテレビの前に座っていた。
「あのぅ、スマホの話ですが」
(あれ?違う人なのかなぁ)
おっさんはサウナの中ではニコニコ顔ではなく、雑巾を思いっきり絞っていそうな辛そうな顔をしていたので、別人に見えたのである。
(オレって、サウナで誰からかまわず声をかけるヤバいヤツに見えてないか⁈💦)

「もしかしたら、スマホにも文章を読み上げる機能があるかもしれないです。視覚障がい者向けの設定とかあるかもしれないので、ショップの人に相談してみてください」

「ありがとう」

白髪頭のおっさんは、ニコニコして、さっきのおっさんに戻り、僕は安心してサウナを出、温泉を後にしたのであった…。

PS. 後で調べたところ、AndroidにもiPhoneにも、やはり視覚障がい者向けの文章読み上げサービスやアプリはあるらしい。今の時代、当然と言えば当然か。おっさんに伝えておいて正解だった。

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