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負の数とは0より小さい数???

 「0より小さい数」という表現は、数学的には正しいのだが、やはり素朴には違和感がある。それは、たぶん数学における「量」と「数」の関係にあるからだ。

教科書を見てみよう

 負の数の定義や、その大小関係については、教科書を見てみると、結構違う。(A~Gは筆者のコーディングである。)

(東京書籍)

A温度計から+-のついた数→B1負の符号をつけた数を負の数と定義→C反対の性質を持つ量を正負の数で表現可能→D1数直線延長(順番は言及なし)→E数直線上の大小関係を保存→F正の数は0より大きく、負の数は0より小さい→G絶対値の定義

(数研出版)

A温度計から+-のついた数→BF0より小さい数を負の符号をつけて表現し、負の数と定義→C反対の性質を持つ量を正負の数で表現可能→D数直線延長→E数直線上の大小関係を保存→G絶対値の定義

(学校図書)

A温度計から+-のついた数→C2反対の性質を持つ量を符号のついた数で表現可能→BF0より小さい数を負の符号をつけて表現し、負の数と定義→D数直線延長→E数直線上の大小関係を保存→G絶対値の定義

(大日本)

A温度計から+-のついた数→C2反対の性質を持つ量を符号のついた数で表現可能→BF負の符号のついた数で表現されるのが0より小さい数であり、0より小さい数を負の数と定義→D数直線延長(順序について言及あり)→E2-5は0より5小さく、-3は0より3小さいので、-5はー3より小さいので、数直線上の大小関係が保存される→G絶対値の定義

(教育出版)

A温度計から+-のついた数→C2反対の性質を持つ量を符号のついた数で表現可能→BF0より小さい数を負の符号で表現し、0より小さい数を負の数と定義→D数直線延長(順序について言及あり)→E3(微妙だが)数直線上の大小関係の定義→G絶対値の定義

(日本文教)

A温度計から+-のついた数→C2反対の性質を持つ量を符号のついた数で表現可能→BF0より小さい数をマイナス記号のついた数で表現し、0より小さい数を負の数と定義→D数直線延長→G絶対値の定義→E3数直線上の大小関係の定義

(啓林館)

AB0℃より低い温度を0より小さい数を使ってあらわす&0より小さい数を負の数と定義→D数直線延長→C反対の性質を持つ量を正負の数で表現可能→G絶対値の定義→E数直線上の大小関係を保存

0より小さい数は実在する?

 ここで0より小さい数という部分を強調しておいた。教科書はほぼどれも、しれっと「0より小さい数を-をつけた数で表し、負の数という」ということにしている(東京書籍だけ、負の数を定義して数直線を導入した後、負の数は0よりも小さい、とする)。
 ところが、日常生活で「ないものより小さいもの」は存在しない。たぶん数学用語として、less than 0を直訳したものではないかと思う(ちょっと研究が必要か)

 「0より小さい数」ということばが機能するためには、日常から数学が飛躍する必要がある。日常用語とは別に、「0より小さい」とか負の数を含めた時の数の「大きい/小さい」をちゃんと定義しておいたほうがいいのではないか。少なくとも、負の数でも大小と言いたいので、そういう約束にするんだ、ということである。
 そもそも「0より小さい数などない!」ということが、負の数が17世紀になるまで西洋数学で認められてこなかった原因ではなかったのではないか?

数直線は突然に

 小学校で既習の数直線を、負の数を対応させるために0から左に伸ばす。しかし数の並べ方については「図のように」とごまかす教科書がほとんどである。(大日本は「各点にー1,-2,-3,-4,……を順に対応させると」教育出版は「0より左側に負の数ー1,-2,-3,……を順に対応させる」と文章でも説明している。)
 ここでも鶏と卵のようだが、数直線上の数が「大小関係」にしたがって並べているんだ、ということをいうのか、数直線を数の規則性を優先させてそのあとに「大小関係」を定義するのか、はっきりとは書かないのである。数直線上で大小関係を導入してしまうところ。数直線は「大きい数」をどんどん右に書いていくのではなかったか?

ついでに正の方向、負の方向

 教科書比較のついでに、数直線上の「正の方向/負の方向」という言葉について。啓林館以外は、正の方向(向き)/負の方向(向き)という言葉を定義して、そのあとの演算の説明にも用いている(東京書籍は使用していない)
 ただ、数の大小だけあれば、「大きくなる方向」「小さくなる方向」でいいような気がする。

啓林館:なし
東京書籍:方向太字:ただし、その後の説明で用語は不使用
学校図書:向き:加減の説明で使用
数研:方向太字:加法乗法の説明で使用
大日本:向き太字:加法の説明で使用
教出:方向太字:減法の説明で使用
日文:方向太字:加法乗法の説明で使用

結局

 そもそも「小さい」という表現でいいのか? 非負数の大小関係を拡張して、数直線上の左右関係を、対応する数の「大小関係」と表現する、ということなのか?
 数直線上に、このように負の数を並べたとき、2数を比較して右にある数を「大きい」という。たとえば、ー7とー2では、ー2のほうがー7よりも右にあるので、「-7よりもー2のほうが大きい(-2のほうが-7よりも大きい、-7のほうがー2よりも小さい、ー2よりもー7の方が小さい)」という。また、このことをー7<ー2(-7小なりー2)とあらわす。


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