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イリアス・ジョルジオウ(キプロス)の平行棒/2021年世界選手権予選の演技

体操競技はオリンピックが終わる度にルール改正がなされます。
ロンドン五輪が終われば翌年からはルールが変わり、リオ五輪が終わればまたルールが変わり、そして東京五輪が終わった翌年、つまり2022年からもルールが変わります。
そのルール改正によって流行る技もあれば廃れる技もあり。

かつては誰もが使っていた技であっても、年を跨げば誰も使わなくなってしまった。そんな技がこれまでにもたくさんあります。
2012年のロンドンオリンピックの年まで頻繁に見られていた「棒下宙返り3/4ひねり倒立」という技がありました。

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この技は平行棒を得意とするスペシャリストやオールラウンダーの間でよく使われていました。
一見すると1回ひねっているように見えますが、棒下宙返り倒立をしながら3/4ひねって内向きの横向き単棒倒立をしているところまでがこの技で、残り1/4ひねって両棒倒立に戻っている局面はいわゆる「後処理」にすぎません。
棒下倒立系が得意な選手にとっては、E難度と高難度なことでDスコアを稼ぐのにうってつけの技でした。

しかし、ロンドン五輪が終わった後のルール変更で「棒下宙返り3/4ひねり倒立」の扱いが変わることとなります。

棒下ひねり

図の通り「棒下宙返り3/4ひねり倒立」は「棒下宙返り1/2ひねり倒立」と”同枠”の扱いとなったのです。

体操競技は、ひとつの種目に対して最大10の技を構成してひとつの演技を完成させます。
その中では、同じ技を繰り返して行う事はDスコアに一切反映されないどころか、ものによっては演技の印象を悪くするものになってしまいます。(あん馬の旋回や鉄棒の車輪は例外)
例えひねる回数が違っていても、ルール上、難度表の上で”同枠”とされている技は「同じ技」とみなされるのです。
ひねりも少なく後処理もない「棒下宙返り1/2ひねり倒立」はルール変更後も多くの選手に実施され、それと同じ技という扱いになった「棒下宙返り3/4ひねり」は次第に淘汰されていきました。

さらにリオ五輪が終わった後、2017年からのルール変更では、棒下倒立系の技は2回までと、数に対する制限が施されました。
実施例の多い棒下倒立系は肩身が狭くなり、「棒下宙返り3/4ひねり倒立」を使う選手は遂にいなくなりました。

ところが、2021年、忘れられた技を実施する選手が現れました。
それがキプロスのイリアス・ジョルジオウです。

種目別鉄棒でファイナリストになった選手ですが、平行棒の演技も耽美なものです。
前半の畳みかけるような勢いに攻撃的な面を見つつも、倒立の決めが良く堅実さ、周到さも同時に感じられます。バブサーでバーを掴む瞬間の体の水平具合、最後の着地まで完璧な演技です。
棒下宙返り倒立の直後、4技目に「棒下宙返り3/4ひねり倒立」を実施しています。

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イリアス・ジョルジオウ選手は前々回の記事でも取り上げているのでこちらもぜひ
2021年世界選手権予選 各種目でEスコアが最も高かった選手


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