見出し画像

2021年世界選手権予選 各種目でEスコアが最も高かった選手

2021年北九州世界選手権の予選の全演技の映像がFIGのyoutubeチャンネルにて公開されています。

今回はこの中から、予選の各種目でEスコアがトップだった選手たちの演技を紹介していきます。

体操競技におけるDスコア・Eスコアとは

Dスコアとは、「難度」を意味する"Difficulty"の頭文字をとっており、決められた数の技で作る演技構成の難しさを評価する得点です。
上限のない加点方式で、難しいとされている技を多く演技に入れるほど、このスコアが高くなります。

一方Eスコアとは、「実施」を意味する"Execution"の頭文字を取っており、演技の出来栄えや美しさ、正確さを評価する得点です。
10点満点の減点方式で、このスコアが高ければ高いほど、10点に近いほど、より正確で美しい演技と言えるというわけです。

今回注目するのは後者である「Eスコア」
男子は技を最大10まで入れることができます。
それぞれの技に対して0.1ずつの減点に抑えられればEスコアは9.0。
Eスコア9点台が出せれば完璧と言って良い演技です。
近年はEスコアが厳しくなっているので、8点台後半を出すのも難しくなっています。

体操競技の根幹を成す、各種目の「最も美しかった演技」を見ていきましょう。


ゆか/二コラ・バルトリニ(イタリア)

ゆかにおけるEスコアの主な評価ポイントは
・姿勢
・高さ
・ひねりの角度
・着地

特に減点の多い箇所はひねりの角度と着地です。
難しい技をするほど着地を止めるのは難しくなり、ひねり技は1/2単位でしっかりひねり切らなければなりません。
3回ひねりをやろうとして2と3/4回ひねりになってしまうことはもちろん、2.9回ひねりになっても減点が施されます。
例え着地が止まっていてもひねり切っていなければ減点です。

予選のゆかで最もEスコアが高かったのはイタリアの二コラ・バルトリニ。
今大会の種目別ゆかで金メダルを獲得した選手です。
着地が良く止まっている事はもちろん、宙返りの高さや空中姿勢も美しいです。それだけでなく、長い手足をぴんと伸ばして行う所作にも気品が感じられます。

画像1

この演技で見事予選を2位通過。
決勝ではEスコア8.600と少しスコアを落としましたが、見事金メダルに輝きました。
そういえば二コラが金メダルを獲るまでを追った記事をたまたま見つけたので見てみてください。
二コラ・バルトリニが金メダルを獲るまで


あん馬/翁浩(中国)

あん馬におけるEスコアの主な評価ポイントは
・脚がまっすぐ伸びているか
・演技に停滞がないか
・旋回の向きが正確か

特に最近は開脚旋回が流行っているので腰の高さなども重要な要素になっています。
旋回は横向きなのか、縦向きなのかがはっきりしていないといけません。
種目の特性ゆえ、旋回をずっとつずけなければならず、1回1回の旋回が減点の対象になります。

そんな難しい種目ですが、Eスコア9.000の大台に乗せたのが中国の翁浩です。足先まで体がまっすぐ伸びた姿勢を最後までキープ。
難しい演技構成を涼しい顔で通し切ります。

画像2

この演技で予選をトップ通過。
決勝では小さなミスが響いて銀メダルとなりました。


つり輪/蘭星宇(中国)

つり輪におけるEスコアの主な評価ポイントは
・力技の2秒の静止
・力技の姿勢の正確さ
・ケーブルの揺れ
・終末技の姿勢&着地

つり輪は目に見える減点としてケーブルの揺れがあります。
ケーブルが前後に揺れてしまうと減点の対象になります。
永くつり輪のチャンピオンとして君臨していたギリシャのペトロウニアスは、ケーブルの揺れを起こさないことで安定して高いEスコアを得ることが強みでした。

つり輪で高得点を出したのが中国の蘭星宇。
ゆったりとした力技で強さを表現するだけでなく、ケーブルの揺れを起こしません。
姿勢はというと、十字懸垂の肩の位置、中水平も輪の高さに収めています。
上水平の水平具合も素晴らしいです。
着地が大きく1歩後ろに出ましたが、それを差し引いてもEスコアトップというのは中技がいかに正確だったかという事がわかります。

画像3

予選決勝共にトップ。
見事完全勝利で金メダルを獲得しました。
東京オリンピックで金メダルを獲得した劉洋と共に2021年のつり輪は中国が制覇しました。


跳馬/二コラ・バルトリニ(イタリア)

跳馬におけるEスコアの主な評価ポイントは
・高さ
・飛距離
・姿勢
・着地

特に跳馬では着地が重要な要素になります。
ほかの種目とは違い、技を1つしかやらないので、Eスコアはほかの種目よりも高く出るのですが、着地が止まるか1歩動くかで演技全体の印象がガラッと変わります。
もちろん、着地が止まっても空中姿勢が乱れていたり高さが出なければEスコアは低くなります。
跳馬の得意な選手は安定してEスコア9点台を出してきます。

そんな中でEスコア最高点を記録したのが、イタリアの二コラ・バルトリニです。ゆかに続いて2冠達成です。
種目別跳馬は2本の跳躍を揃える必要があるので、1本しか跳んでいない選手は種目別決勝には進めません。
二コラは2本の跳躍を揃えて予選に臨んでいるので、種目別予選の対象となります。
その2本の跳躍のEスコアの合計が最も高かったのです。

一瞬の演技ですが、着手時の脚の閉じ、高さ、空中姿勢、ひねり切り、着地に注目です。

画像4

画像5

画像6

1本目の技で行っている側転とびと呼ばれる跳び方。
この跳び方は多くの選手に使われていますが、台に着手する局面で脚を閉じている選手は少ないんです。
二コラはそこも意識して跳んでいるのが判ります。
しいて言うならば高さがあまりないところは減点されているでしょうか。

二コラが跳んだ技はメダルを獲れるほど難しい技ではなく、Dスコアが低かったので決定点では予選落ちとなりました。
そういえば二コラがゆかで金メダルを獲るまでを追った記事をたまたま見つけたので見てみてください。
二コラ・バルトリニが金メダルを獲るまで


平行棒/ハラルド・ウィビエ(ノルウェー)

平行棒におけるEスコアの主な評価ポイントは
・倒立への収め
・技の正確さ

平行棒の減点項目は、技の系統ごとに細かく設置されています。
とにかく技を正確に行えるかどうかが評価されるのです。
しかし、近年ではEスコアが高く出る傾向があり、15点台が出ればスペシャリスト級とされている現ルールにおいて、最も15点台を出しやすい種目になっています。

世界のトップクラスで個人総合を戦う選手たちは、平行棒で確実に15点台を出すために、Eスコアを磨いています。

そんな中、全選手中最もEスコアが高かったのは、ノルウェーのハラルド・ウィビエ選手。
無名の選手ですが、驚異のEスコア9.466という得点を出しています。

とにかく技終わりの倒立への収めがガッチリハマっていて、倒立姿勢も美しく、流れるような無駄のない演技で着地もほぼ止めました。
ディアミドフ1/2ひねりを終盤に入れていますが、この技を入れてこのEスコアを出せる選手は稀有な存在です。

画像7

Dスコアが高くないので、今大会では決勝へは進めませんでしたが、高難度技のマクーツを練習している様子をSNSに投稿していたりと、Dスコアアップに取り組んでいるようです。現状グループⅡの技がA難度なので、そこも含めて今後に期待です。


【鉄棒】イリアス・ジョルジオウ(キプロス)&リュ・ソンヒョン(韓国)

鉄棒におけるEスコアの主な評価ポイントは
・手離し技の空中姿勢
・手離し技を掴む位置&後処理
・ひねり技の倒立への収め

鉄棒は6種目中最もEスコアが厳しくなった種目と言っていいでしょう。
8点台前半を出せれば大健闘、8点台後半を出せたら完璧な演技と言っていい程です。
特にひねり技における減点の比重が高く、技終わりの倒立からの逸脱具合によって、ひどい時は0.5の減点がなされる事もあります。
選手はなるべくひねり技を少なくしようと手離し技を多く取り入れますが、手離し技を掴む位置が近くなって肘が曲がってしまったり、掴んだ後の車輪を上手く回せなかったりと苦労する選手が多いです。

鉄棒でのEスコアトップは8.433。予選で8点台後半を出す選手はいませんでした。
個人総合決勝では橋本大輝選手が8.633を出していましたが、それでもほかの種目に比べて厳しいことがわかります。

Eスコアトップを出したのはキプロスのイリアス・ジョルジオウと、東京オリンピックにも出場した韓国の若手リュ・ソンヒョンの2人。

イリアスはカッシーナやコールマンなど派手な手離し技を実施しての素晴らしいスコアで決勝進出を叶えています。

画像9

一方のソンヒョンはゆかのスペシャリストで、東京オリンピックでも今大会でもゆかで種目別決勝に進んでいます。
特別鉄棒が得意というわけではないソンヒョンですが、減点されにくいツォ・リミンや、難度の低い技を確実に実施していて好印象です。
着地もピタッと止めています。

画像9

ソンヒョンはDスコアが高くないので決勝には進めませんが、鉄棒でこれほどのEスコアを出せるのは立派なものです。
今はゆかで活躍していますが、近い将来個人総合でも活躍しそうです。


今大会は日本男子が金メダル数0の代わりに銀メダルを5つも獲得するというおもしろい結果となりました。
着地の1歩がメダルの色に響いたりする場面が多々あった中でここぞというときに強硬姿勢で勝負できる中国勢の強さに敬服する大会でもありました。

「難しい演技を美しく」今のルールに定められた大きなテーマですが、決して簡単なことではありません。
0.1を拾うためにどれだけの血と汗が流れるのか計り知れません。それはどこの国の選手でも同じことです。

Eスコアだけに焦点を当てるとウィビエ選手みたいに無名ながらおもしろい選手を発掘できたりもします。
皆さまも今後の体操観戦では「Eスコア」に注目してみてはいかがでしょうか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?