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2022年5月第二・三週の体操ニュース

国内ではNHK杯が終わり、体操界隈では嫌なニュースも飛び交います。
楽しく体操を見られるように、考えられるように僕も努力します。
先週と今週の2週間分のニュースです。

▼チュソビチナがパリ五輪を目指すと明言

ウズベキスタン女子代表のオクサナ・チュソビチナ選手(46)が2024年パリ五輪を目指す旨を明言しました。
とんでもない精神力ですね…。

insidegames:体操のチュソビチナ 史上9度目のオリンピック出場を目指す

当初は2021年の東京五輪で引退と発表していましたが、東京五輪終了後に2022年のアジア大会まではやると現役を続行。
しかし、アジア大会の1年延期が決定したことで、じゃあパリ五輪までやる!といった流れです。

もしも本当にパリ五輪に出場したら自身9回目のオリンピックになります。

1992年、17歳の時にバルセロナオリンピックでオリンピック初出場。
ソ連崩壊後の独立国家共同体として団体で金メダルを獲得しています。
その後は祖国ウズベキスタン代表、一時は国籍を移してドイツ代表としてもオリンピックに出場しています。
41歳で出場した2016年リオ五輪種目別跳馬では最高難度の「プロドノワ」を披露して観衆の度肝を抜きました。

49歳で迎えることになるであろうパリオリンピック、どんな演技をするのか楽しみです。

動画は1992年オリンピック初出場のチュソビチナ選手のゆかの演技です。
これから30年経ってもまだ現役なんですから驚きです。


ちなみに、オリンピック最多出場記録は馬術障害飛越の選手だったカナダのイアン・ミラーさんで10回。


▼イワン・クリアクが1年間の大会出場禁止処分

FIG(国際体操連盟)がロシアのイワン・クリアク選手の処分について声明を出しました。
3月の国際大会で胸にZマークをあしらい、ロシアによる軍事侵攻を支持したとするクリアクの処遇について、今後1年間FIG認定の大会に出場することが禁じられました。

FIG:ロシア選手に1年間の出場禁止処分

カタール・ドーハで行われた種目別ワールドカップシリーズ第2戦。
国際大会の際、ユニフォームの胸には本来自国の国旗を貼るのが規則ですが、ロシアは軍事侵攻の制裁として自国の国旗を使う事が禁じられていました。
クリアクはその代わりに、ロシアによる軍事侵攻のシンボルであるZマークを胸にあしらい大会に出場した事、さらにそのマークを付けたまま表彰式でウクライナ選手の横で表彰を受けた事も相まって「規律違反」として、このほど処分が決められたという事です。

そもそもロシアの選手は現状国際大会に出場できない状態ですが、もしも1年後の2023年5月17日にもロシア選手の出場停止処分が継続されていた場合は、この措置が解除されてから6カ月間はクリアクの出場禁止処分が続くそうです。
さらに、クリアクがドーハW杯で獲得した銅メダルと賞金は返還されるという事です。

▼ヨーロッパ選手権の出場国にロシア・ベラルーシの記載なし

今年のヨーロッパ選手権(8月)の出場国リストが公開されました。
ロシアとベラルーシの記載はもちろんありません。

欧州体操連盟:ミュンヘン2022の登録選手 総勢574名

会場は1972年のミュンヘンオリンピックと同じ体育館で行われます。
8月11日~14日に女子競技、18日~21日に男子競技。
今年は男女共にジュニアの競技も行われます。

▼東南アジア競技大会 カルロス・ユーロが5冠

ベトナム・ハノイで行われていた東南アジア競技大会が終了しました。
男子はフィリピンのカルロス・ユーロやベトナム勢、マレーシア勢も活躍しました。
女子はフィリピン・マレーシア・シンガポールとそれぞれエースが活躍しています。

東南アジア大会については別途記事を書こうと思います。
ここでは結果のみ。

東南アジア競技大会公式サイト

【団体】
男子
1.ベトナム 331.250
2.フィリピン 301.600
3.シンガポール 297.650

女子
1.フィリピン 184.500
2.ベトナム 183.800
3.シンガポール 182.550

【個人総合】
男子:カルロス・ユーロ(フィリピン) 85.150
女子:リフダ・イルファナルースフィ(シンガポール) 49.650

【種目別】
男子
ゆか:カルロス・ユーロ(フィリピン) 15.200
あん馬:ダン・ゴク・シュアン・ティエン(ベトナム) 14.400
つり輪:カルロス・ユーロ(フィリピン) 14.400
跳馬:カルロス・ユーロ(フィリピン) 14.700
平行棒:ディン・フォン・タン(ベトナム) 15.133
鉄棒:カルロス・ユーロ(フィリピン) 13.867
   ディン・フォン・タン(ベトナム) 13.867

女子
跳馬:アレア・クルス(フィリピン) 13.133
段違い平行棒:レイチェル・リー・ウェン・ヨウ(マレーシア) 13.000
平均台:レイチェル・リー・ウェン・ヨウ(マレーシア) 12.567
ゆか:リフダ・イルファナルースフィ(シンガポール) 12.700
   サシウィモン・ムエアンファン(タイ) 12.700


▼NHK杯 橋本大輝が連覇 女子は宮田笙子が初優勝世界選手権代表男女各3名が決定

5月14,15日に東京体育館でNHK杯が行われました。
男子は順天堂大学の橋本大輝選手が全日本に続き連覇達成。
女子は鯖江体操スクールの宮田笙子選手が初優勝を飾りました。

NHKニュース:体操NHK杯 橋本が2連覇 2位神本と3位土井も世界選手権代表に

NHKニュース:体操 NHK杯 女子 宮田笙子が初優勝 世界選手権代表に3人決定

NHK杯は、4月に行われた全日本個人総合の予選と決勝の合計得点が持ち越され、計3試合の合計で順位が決まるものです。

橋本大輝選手はNHK杯ではあん馬と鉄棒で落下がありましたが、全日本の貯金が効いてなんとか逃げ切り、優勝を勝ち取りました。
女子は終盤まで接戦で、最終的には全日本で優勝した笠原有彩選手の得点を宮田笙子選手が逆転する形でした。

日本体操協会:男子結果

日本体操協会:女子結果

NHK杯の結果を受けて今年2022年の世界選手権日本代表が男女各3人ずつ決まっています。
男子は既に内定していた橋本大輝選手に加えて、NHK杯の上位だったコナミスポーツの神本雄也選手、日本体育大学の土井陵輔選手が代表の座を勝ち取りました。

女子もNHK杯の上位である、宮田笙子選手、笠原有彩選手、山田千遥選手の3人が代表に選ばれています。

このメンバーを軸に6月の全日本種目別選手権の結果を踏まえて日本代表が確定します。

▼世界選手権日本代表選考の行方

前回の記事で代表選考がどのような方法で行われているのかを書きました。
NHK杯が終わったので、いよいよ代表候補選手がおおまかに絞られてきています。
見てみましょう。

◎チーム得点

NHK杯で個人総合選出の3選手が決まった事で、基準となるチーム得点を洗い出せます。
個人総合選出の3選手から出されるチーム得点は、3試合分の得点から各種目で上位2得点の平均なので次のようになります。

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この3選手で団体を組んだ場合、259.573点が見込めるという結果になりました。
この数値は今後変動することはありません。

◎貢献度ポイント

これから代表選考を戦う選手たちは「貢献度選出」という扱いになります。
黄色の3選手中最低得点をそれぞれの種目で上回る事でその差が貢献度ポイントとなり、この貢献度ポイントを鑑みて団体を組んだ時にチーム得点が最も高くなる組み合わせを持つ2選手が選ばれます。
しかし、貢献度選出の2名の内1名はNHK杯10位以内という条件が付いています。
これにより、貢献度が高くなる組み合わせがある程度絞られてきます。

NHK杯10位以内の選手は以下の通り

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この中で貢献度ポイントが高い選手を抜粋するならば、
萱和磨、杉野正尭、松見一希、谷川航、谷川翔の貢献度ポイントが抜きんでています。

ここで出される個人の各種目の得点は、AA(個人総合)選出の3人の時とは違い、全日本個人総合の①予選と②決勝、③NHK杯、全日本種目別選手権の④予選と⑤決勝の5試合中上位3得点の平均が個人の持つ得点になります。
この得点をAA選出3人中最も低かった得点と照らし合わせて引き算をすることで貢献度を出すことができます。

NHK杯4位、和磨選手の貢献度の合計はこのようになります。

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萱選手はあん馬・つり輪・平行棒が得意なので、複数種目で貢献度を稼いでいます。
萱選手が団体に入ることで、団体得点は259.573点から261.495点まで上げることができます。

続いてNHK杯5位、杉野正尭選手の貢献度

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杉野選手はあん馬・跳馬・鉄棒が得意な選手。
しかし、全日本の予選の鉄棒で得点を伸ばせなかった影響でオレンジの平均点が下がってしまっています。
これから全日本種目別選手権の予選・決勝で得点を伸ばすことで貢献度を伸ばすことができます。
しかし、今回AA選出の3人とも鉄棒を得意としている選手なので、鉄棒で貢献度を伸ばすには相当高い得点を出さなければなりません。
具体的に言うと、杉野選手は種目別の予選か決勝で14.731以上を出せば、鉄棒の貢献度を得ることができますが、団体得点の上積みを考えると、これだけの高得点を出しても大した得点にはなりません。
そこで杉野選手はあん馬と跳馬で貢献度をさらに伸ばす事がカギとなります。

続いてNHK杯6位の松見一希選手

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松見選手は全種目満遍なく点が取れる選手なので神本選手と土井選手の穴を満遍なく埋められます。
団体戦を戦ううえでは爆発力も必要になってくるので得意のゆかで貢献度を伸ばしたいところ。

続いてNHK杯8位の谷川航選手

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なんと5種目で貢献度を稼いでいます。
神本選手のあん馬と土井選手のつり輪は基準点がかなり低いので特別得意でなくても貢献度を稼ぐことができます。
航選手はあん馬を得意とはしていませんが、神本選手よりは点を取れるという事で貢献度を稼げるんですね。
今後の大会で得意のつり輪・跳馬・平行棒での貢献度の増加が期待できます。

続いてNHK杯9位の谷川翔選手

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翔選手は貢献度ポイントが2.0を超えています。
神本選手のあん馬の得点が助かってあん馬での貢献度がとんでもなく高く出ています。
そもそもチーム得点が高く出ている平行棒でも貢献度を稼ぐことに成功しています。全日本では予選・決勝ともに15点超えという事で、これほど得意種目がはっきりしているのは団体においてはありがたい存在です。

◎最も団体得点が高くなる組み合わせ

これらNHK杯10位以内の選手1名と、成績条件のない選手1名を組み合わせた時に団体得点が高くなる組み合わせをいくつか抜粋して紹介します。
(個人で計算しているので間違いがあったらすみません。)


まずは1人目を杉野正尭選手にした場合に考えられる組み合わせ。

【杉野正尭選手×谷川航選手】

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緑色は貢献度選出2選手が上積みした得点。
この組み合わせだと鉄棒以外の5種目でバランスよく得点を稼ぐことができます。
2人とも高い貢献度ポイントを持っていますが、単純にAA選出3人のチーム得点から2選手の貢献度を足し算すれば良いわけではないのです。
例えば杉野選手は床で貢献度を持っていますが、谷川航選手の貢献度の方が高かったらそれが上書きされるので、杉野選手のゆかの貢献度は相殺されます。
特定の種目で2人の貢献度を上積みするには、一方の貢献度を上積みしたうえでAA選出者の得点よりも高かった場合のみです。
だから、跳馬では杉野選手と航選手2人の得点が反映されていますし、ゆかでは杉野選手の得点は反映されていません。

この組み合わせはつまり、『跳馬特化型パーティ』とでも言いましょうか。


【杉野正尭選手×髙橋一矢選手】

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杉野選手はあん馬・跳馬・鉄棒が得意な選手。
加えてAA選出3人は平行棒と鉄棒に強い選手です。
杉野選手があん馬と跳馬の穴を埋めてくれるとすると、ゆかとつり輪が不足してしまいます。
そこの穴をちょうど埋めてくれるのがNHK杯15位の髙橋一矢選手です。
髙橋選手は種目別つり輪で全日本チャンピオンになった事もある選手。
そしてゆかでも14点台を安定して出せる選手なので、ピースがガッチリとハマるわけですね。


続いて1人目を谷川航選手にした場合に考えられる組み合わせ。

【谷川航選手×谷川翔選手】

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谷川航選手は鉄棒以外の5種目で貢献度を稼いでいます。
とはいえ、あん馬については、神本選手よりは高い得点を出していますが、世界選手権の団体で金メダルを争うとなると不安要素が残ります。
そこでその穴を埋めてくれるのが弟の谷川翔選手です。
翔選手は、今シーズンは足を負傷しているらしく、あん馬・平行棒・鉄棒に重点を置いて個人総合を戦っていました。
その結果が如実に表れており、あん馬と平行棒では15点台を出しています。
平行棒に関してはアベレージで15点を出せそうな勢いです。
航選手の方もAA選出の橋本選手・土井選手よりも高い得点を出しているので、この組み合わせは『平行棒特化パーティ』と言えるでしょう。
今後、あん馬と平行棒での貢献度の上積みが期待できることで、最も可能性を感じる組み合わせです。


【谷川航選手×髙橋一矢選手】

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航選手はゆかとつり輪も得意としていますが、今回のルール改正の影響か、本人のコンディションの影響か、あまり高い得点が出せていません。
そこで浮上するのが髙橋一矢選手です。
髙橋選手は床とつり輪だけでなくあん馬でも高い得点が出せる貴重な選手。
つり輪でDスコア6.4という国内トップの演技構成を組んでいますが、
全日本の決勝ではあん馬でもDスコア6.4というトップクラスの演技構成を成功させています。
跳馬・平行棒・鉄棒が得意なAA選出3人の穴をぴったり埋めてくれるゆか・あん馬・つり輪が得意な髙橋選手は、この選考方法では重宝がられそうです。

【谷川航選手×長﨑柊人選手】

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航選手のあん馬の穴を埋めてくれる存在としてもう1人浮上してくるのが、NHK杯23位の長﨑柊人選手。
NHK杯では個人総合を戦っていましたが、あん馬のスペシャリストとしての活躍が期待できる選手です。
これまでの3試合で安定して高い得点を出していて、あん馬の貢献度だけで言うと谷川翔選手よりも上に来ています。そして、現時点であん馬で最も貢献度を稼いでる選手です。
団体が4人から5人になった事で、こういった1種目のみ演技するスペシャリストの選出も視野に入ってきます。


続いて1人目を谷川翔選手にした場合に考えられる組み合わせ。

【谷川翔選手×三輪哲平選手】

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先述したように、翔選手は足の影響でゆか・つり輪・跳馬に不安要素があります。全種目高いレベルでできて且つ跳馬で強さを見せる三輪選手です。
今回のAA選出3人は後半種目の跳馬・平行棒・鉄棒を得意としていますが、三輪選手にはこれらを凌駕できる力があります。
ゆか・つり輪で翔選手の補助をし、跳馬・平行棒・鉄棒で平均点の上積みを狙う。
得意不得意のはっきりしたチームになります。


【谷川翔選手×髙橋一矢選手】

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ここでも高橋選手が浮上してきます。
ゆかでスタートダッシュ、あん馬・つり輪でターボをかけて、跳馬で我慢、平行棒・鉄棒で驀進というシナリオができそうです。
髙橋選手は以前跳馬でローチェを跳んでいたこともあるので跳馬での起用も考えられます。
しかし、このパーティだと橋本選手が跳馬でヨネクラを跳ばないといけなくなりそうです。
橋本選手が6種目出ると考えると負担が大きくなり過ぎてしまうかもしれません。

【谷川翔選手×春木三憲選手】

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つり輪ができて跳馬の穴を埋められる存在としてNHK杯16位の春木三憲選手が浮上してきます。
橋本選手の負担を半ひねり分でも減らす事を考えると、春木選手の跳馬の強さは頼りになります。
春木選手はゆかでも14点台を取れる選手なので、ゆかの穴も埋めてくれそうな存在です。

こうして色々な組み合わせが浮上してきますが、これはあくまでNHK杯が終わった時点のものです。
全日本種目別選手権が終われば貢献度が大幅に上がりそうな選手はたくさんいますし、NHK杯上位組が貢献度を上げれば状況は大きく変わります。
今回は、つり輪が得意な選手が有利、あん馬が得意な選手はかなり有利になっています。
実は現時点で鉄棒で貢献度を稼いでいる選手は種目別出場選手も含めて1人もいません。AA選出3人が3人とも鉄棒が得意な選手だからです。
今後唯一貢献度を稼げそうなのが杉野正尭選手なので、杉野選手が得意種目で貢献度を上積みできれば代表入りへの可能性は大きくなっていきます。
そうすれば『あん馬・鉄棒特化パーティ』が出来上がるかもしれません。

どの道1カ月後になって見ないと結果はわかりませんが、こうやって予想して楽しむことはできます。
これを読んだ事で全日本種目別選手権の見方も変わるかもしれません。



画像出典

https://www.nikkansports.com/olympic/tokyo2020/gymnastics/news/202107260000137.html

https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/othersports/other/2021/09/27/post_61/

https://www.sanspo.com/article/20210725-TILFEE2GCZMPBKTA3TATKPJSNY/?outputType=theme_tokyo2020

https://www.euronews.com/2022/05/18/ivan-kuliak-russian-gymnast-given-one-year-ban-for-wearing-pro-war-z-symbol

https://sports.inquirer.net/463430/carlos-yulo-in-running-for-games-biggest-male-honor

https://news.yahoo.co.jp/articles/37057d8ad920898ad04d7dc2af1c0c9f28ce63b2/images/000

https://news.yahoo.co.jp/articles/60022d1684a01e2cef10eb16ed18badd95331a26/images/000

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