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体操の技を覚えよう【平行棒04】逆懸垂系の技

平行棒のグループⅢは、前回紹介した長懸垂系の技ともうひとつ、逆懸垂系の技も含まれます。

つり輪にも逆懸垂という要素はありましたね。
つり輪における逆懸垂とはこの状態のことを言いました。
体が逆さの状態で懸垂をする事を逆懸垂と言います。

BURTANETE Gabriel (ROU) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Rings

平行棒における逆懸垂とは、2本のバーをそれぞれ握ったまま頭が下になる姿勢でぶら下がる状態を言います。
平行棒では体を折り曲げて逆懸垂状態になる選手がほとんどです。

Fuzzy Benas - Parallel Bars - 2024 Winter Cup - Men Day 2

この状態を経由して前に降り出したり、翻転したりして様々な技を生み出します。

それでは逆懸垂系の技を見ていきましょう。


➀棒下振り出し腕支持【A難度】

Men's Parallel Bars Final | Tokyo Replays

逆懸垂の状態から、姿勢はそのままにして体をバーの上まで持って行き、お腹が上を向いた腕支持状態に収める技。
通称ピンコと呼ばれる技で、グループⅡの〔ホンマ〕に繋げるための準備の技としても使われます。


②棒下振り出しひねり腕支持【B難度】

Mikhail Voronin URS - 1972 OG MAG Team Final PB

逆懸垂を経て、体をバーの上に持ち上げながら体を半分ひねらせ、お腹が下を向いた腕支持状態に収めます。
ピンコよりも難度はひとつ上がってB難度。
難度が低いので近年では使う選手は滅多にいません。
ピンコひねりとでも言いましょうか。


③棒下振り出し支持【B難度】

Viktor Klimenko URS - 1972 OG MAG Team Final PB

ピンコの動きから体をバーの上に持ち上げ、腕支持ではなく支持状態に収める技。
ピンコ支持とでも言いましょうか。


④棒下宙返り懸垂【A難度】

Dogukan EREM Türkei Barren - EnBW DTB Pokal 2024 - Junioren Team Challenge Männer Stuttgart - Turnen

逆懸垂状態を経て、その振動を使って棒の下で宙返り、さらに懸垂で受けるという技。
A難度なので旨みはありませんが、蹴上がりに繋げられることもあって、初心者の技数稼ぎに使える技です。

このように、逆懸垂を経ながら棒の下で宙返りをする動きを総じて
「棒下宙返り」と呼びます。


⑤棒下宙返り支持【B難度】

LIUBIMOV Ilia (ISR) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Parallel Bars

棒下宙返りから、懸垂ではなく支持状態に収める技。
B難度と難度は低いものの、演技構成に取り入れる選手が多い技。


⑥棒下宙返り倒立【D難度】

Men's Parallel Bars Final | Tokyo Replays

逆懸垂を経て、脚が上を向いたまま体をバーの上まで持ち上げて倒立姿勢に収める技。
宙返りをしていませんが、技名は「棒下宙返り倒立」となっています。
D難度と高難度なので、世界レベルの選手はこぞって使う技です。
グループⅢの技の中では最もよく使われる技。

この後に続く棒下宙返りから倒立に収める技の基本形となる技なので、この形をよく覚えておきましょう。


⑦棒下宙返り単棒倒立〔シャルロ〕【E難度】

ひとつ前の記事で、後方車輪倒立【C難度】があって〔ピアスキー〕(後方車輪単棒倒立)【D難度】があったように、
棒下宙返り倒立も、単棒倒立に収めることで難度がひとつ上がります。
単棒倒立はバランスを取るのが難しく、リスキーな技ですが、使い手は少なくありません。

このように単棒倒立で収める技は、1秒以上の静止を見せたのち、単棒ヒーリーに繋げることでその技の難度(〔シャルロ〕の場合はE難度)を得ることができます。
もし単棒倒立に収めても、単棒ヒーリーに繋げられなければ、両棒倒立と同じ難度価値点(この場合はD難度の棒下宙返り倒立と同じ)になってしまいます。


⑧棒下宙返り半ひねり倒立【E難度】

Men's Parallel Bars Final | Tokyo Replays

棒下宙返りから倒立に持ち上げる動作中に体を半分ひねらせて倒立姿勢に収める技。多くの選手に使われる技ですが、そのさばき方は選手によって様々あります。

画像のようなさばき方がもっともこの技の難しさを体現しているようで個人的には好きなのですが、1/4ひねり倒立+1/4ひねり移行でこの技を成立させるようなさばき方もあります。
片方の棒を使ってひねりをかけるときに、お腹が両棒の内側を向いているか、外側を向いているかにも選手の個性が現れます。

多くの選手に使われるメジャーな技でいろんなさばき方があるので、試合を見る時はさばき方にも注目です。


⑨棒下宙返り3/4ひねり倒立【E難度】

Rio Replay: Men's Parallel Bars Final

棒下宙返りから倒立に持ち上げる動作中に、体を3/4ひねらせて内向きの単棒横向き倒立になる瞬間を見せ、残りの1/4ひねりを処理して両棒倒立に収める技。

パッと見だと棒下宙返り倒立の1回ひねりに見えますが、正確に表現すると3/4ひねり倒立+1/4倒立移行ということになります。

この技は⑧棒下宙返り半ひねり倒立と同じ技として扱われているので、ルール上この2つの技を併用することはできません。


⑩棒下宙返り1回ひねり倒立〔テンハイビン〕【F難度】

棒下宙返りから倒立に持ち上げながらディアミドフのように片腕支持で体を1回ひねらせて両棒倒立に収める技です。
基本形の⑥棒下宙返り倒立から難度は2つ上がってF難度。今では使う選手は滅多にいません。


⑪棒下宙返り5/4ひねり倒立〔ツォウ・シーション〕【G難度】

ディアミドフ系の技はこれまでの支持系・腕支持系・車輪系の技すべての系統と組み合わせることができました。そしてそれぞれの系統にディアミドフディアミドフにさらに半分ひねりを加えた技がありました。

棒下系の動きにもディアミドフの動きを取り入れた⑩〔テンハイビン〕があり、それをさらにひねらせた技がこの〔ツォウ・シーション〕です。
〔ツォウ・シーション〕⑩〔テンハイビン〕よりさらに1/4だけひねりを加えた技ですが、この+1/4により難度がひとつ上がってG難度になります。

中国のツォウ・シーションという選手が発表して以来、本人以外の実施例がない技です。


⑫棒下宙返り3/4ひねり単棒倒立経過、軸手を換えて3/4ひねり支持〔ヤマムロ〕【G難度】

Artistic Gymnastics Men's Team Final - Full Replay | Rio 2016 Replays

ディアミドフと同様に、マクーツの動きにも、支持系・腕支持系・車輪系から入る技がありましたが、
棒下系の動きにもマクーツのような動作をする〔ヤマムロ〕という技があります。

マクーツはいわば3/4ディアミドフ+3/4ヒーリーという技ですが、
この〔ヤマムロ〕は、棒下宙返り3/4ひねり倒立+3/4ヒーリーという構造になっています。
技の前半、棒下宙返り3/4ひねり倒立の部分はディアミドフのような片腕支持でのひねり方ではありませんが、細かいことはいいんだよ風味な感じで「棒下マクーツ」とも呼ばれます。


⑬棒下宙返り後方抱え込み腕支持〔タジェダ〕【E難度】

Men's Parallel Bars Final | Tokyo Replays

支持系のモリスエ、腕支持系のドミトリエンコ、車輪系のベーレとそれぞれの動きには2回宙返りをして腕支持で受ける技がありましたが、
棒下宙返りからさらにもう1回宙返りをして腕支持で受けるのがE難度の〔タジェダ〕という技です。

近年では実施する選手がじわじわ増えてきているレア技。


⑭棒下宙返り後方屈身腕支持〔フアレス〕【F難度】

THE JUAREZ - 2019 FIG World Challenge Cup Paris MAG new PB element

⑬〔タジェダ〕を屈身姿勢で行うとひとつ難度が上がってF難度の〔フアレス〕という技になります。

こちらは本家フアレス選手以外実施例のない技。


⑮棒下宙返り、抱え込み姿勢で半ひねり腕支持〔ギャニオン〕【C難度】

GAGNON - 2016 Szombathely World Challenge Cup - MAG new PB element

支持系のスアレス、腕支持系のハラダ、車輪系のライヘルト(マツナガ)と同様、棒下系にも宙返りを半分ひねって腕支持受けをする技があります。
しかし、上記3つの技と比べると難度はひとつ下がるうえに見た目も派手ではありません。


⑯棒下宙返り、伸身姿勢で半ひねり腕支持〔ギャニオン2〕【D難度】

LIUBIMOV Ilia (ISR) - 2022 Artistic Worlds, Liverpool (GBR) - Qualifications Parallel Bars

⑮〔ギャニオン〕を伸身姿勢で行うとひとつ難度が上がってD難度の〔ギャニオン2〕という技になります。


⑰横向き逆上がり1/4ひねり倒立【D難度】

Curran Phillips - Parallel Bars - 2024 Winter Cup - Men Day 2

横を向いた状態で遠い方のバーを両手で掴み、鉄棒の逆上がりのような動きで体を単棒横向き倒立まで上げたのち、体を1/4ひねって両棒倒立に収める技です。
この動きはD難度を得ることができます。

技の動きとしては⑥棒下宙返り倒立に近い動きをしますが、この技はバーに対して横向き且つ脚が床に着いた状態からのみ認められています。
つまり演技の1技目にしか使うことができないという男子では珍しい性質を持つ技です。


⑱横向き逆上がり3/4ひねり倒立〔ニューエン〕【E難度】

Artistic Gymnastics Men's Team Final - Full Replay | Rio 2016 Replays

立位から横向きで遠い方のバーを持ち、逆上がりの要領で体を単棒横向き倒立まで上げる所まではひとつ前の⑰横向き逆上がりと同じですが、
お腹が内側を向いた単棒横向き倒立から3/4ひねって両棒倒立に収めています。

横向き逆上がりに1/2だけひねりが多くなっているこの技はE難度の〔ニューエン〕という技です。


⑲横向き逆上がり倒立直ちに片腕支持3/4ひねり支持〔マローン〕【E難度】

Brody Malone Parallel Bars 210307 vs Cal

横向き逆上がりで単棒横向き倒立まで体を持ち上げたのち、3/4ヒーリーで支持受けをする技。
こちらもE難度で〔マローン〕と名前がついています。

D難度の⑰横向き逆上がりはそこそこ見ることができますが、⑱〔ニューエン〕⑲〔マローン〕はそれぞれの本家が発表されてから実施する選手は現れません。




平行棒の技は、主となる要素と技の入りの要素の組み合わせでほとんどが成り立っています。

近年ではモリスエのような宙返り系の技は減り、ディアミドフヒーリー系の技が多く使われるようになりました。

その結果、皆が似通った演技構成を持つようになり、個性が失われつつあります。
特に日本のトップ層は皆同じような構成なので、選手ごとの特徴を掴みにくいかもしれません。
それでもひとつとして同じ演技はないので、技の捌き方、こなし方、表現の仕方の違いは捉えやすいと思います。

次回、チャプター05は平行棒の終末技について紹介します。

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