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未来の可能性をみせるデザイン

長谷川愛さんの作品との出会い

2019年2月、六本木の東京ミッドタウンにて開催された「未来の学校祭」というイベントに立ち寄った際に、長谷川愛さんの『I WANNA DELIVER A DOLPHIN…』という作品を観て衝撃を受けた。潜在的食物不足とほぼ70億人の人口の中、これ以上人間を増やすのではなく、人間が動物を代理出産する。「子供を産みたいという欲求と美味しいものが食べたいという欲求を満たす為に、食べ物として動物を出産してみてはどうか?」という斬新な問題定義とその実現可能性を追求した展示にデザインやアートの持つ力を強く感じた。当時、4月に武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースへの進学を控えていた私は、そのようなデザインの世界に足を踏み入れることが出来ることに大きな期待と高揚感を感じたことを今でも鮮明に覚えている。

社会に問いかけるスペキュラティブ・デザイン

そして、4月24日、武蔵美の「クリエイティブ・リーダーシップ特論」という講義に長谷川愛さんがゲストスピーカーとして登壇された。『I WANNA DELIVER A DOLPHIN…』などご自身の作品の背景や想いを伺い、これらの作品がスペキュラティブ・デザインという立場のデザインであるということを知った。スペキュラティブ・デザインは、イギリスの英国王立芸術大学院のデザイン・インタラクティブ学科で教授を務めたアンソニー・ダン氏が提唱したデザインに関する立場のことで、「未来はこうもありえるのではないか」という憶測を提示し、問いを想像することで人々に議論を促すことを目的としている。

合理的な現代社会において、私たちは日頃、「未来はこうあるべきだ」と各々の勝手な理想から逆算して議論しがちだ。新たなテクノロジーの急速な発展や人間がコントロールできない地球環境の変化の最中において、真の理想や答えなど誰にもわからない。だからこそ、受け手に考えさせることでより良い世界を創造するというスタンスは必要なことだと思った。

未来の可能性をみせる

長谷川愛さんのお話を伺い、特に私自身が感銘を受けたのは、未来の可能性を実体化してみせるというアプローチである。企業人としてビジネスの世界に長いこと浸かっていると、自らのアイデアを他人に伝える際には、当たり前のように企画書や提案書というペーパーを前提に考えてしまう。ロジカルにシンプルに、そして、分かりやすく書いているつもりだ。しかし、長谷川愛さんの作品をみていると、どんなに時間をかけて作ったペーパーでも敵わないなと思った、そんな説得力がある。まさしく、百聞は一見に如かずである。思い描いた世界観を具現化して人にみせて問いかけることの力強さを強烈に感じた。そして、これこそがデザイナーの強さなんだろうなと思った。自らの疑問を起点に問いを立て、なぜ今そうなのか背景を探る。それでもなお、おかしいと思った場合には、本当にそれでいいのか、自らの思う世界観を実現化し、未来の可能性としてみせることで社会に問いかける。共感を呼ぶナチュラルなアプローチだ。思考するだけではだけではたどり着けない、デザインの奥深さと大学院での美術教育の意義を感じた。




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