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イノベーションとデザインの関係性

2020年8月17日(月)武蔵野美術大学大学院造形構想研究科の「クリエイティブ・リーダーシップ特論」という講義のゲストスピーカーにユニバーサルデザイン総合研究所の赤池学さんがご登壇された。「イノベーションデザインとは何か」をテーマに、イノベーションとデザインとの関係性について、パナソニックや三菱電機、フレーベル館などの複数企業における事例を用いてお話いただいた。

赤池学
1958年東京都生まれ。1981年筑波大学生物学類卒業。社会システムデザインを行うシンクタンクを経営するかたわら、製造業技術・科学哲学分野の執筆、評論を手がけている。「生命地域主義」「千年持続学」「自然に学ぶものづくり」を提唱し、地域の資源、技術、人材を活用した数多くのものづくりプロジェクトにも参画。科学技術ジャーナリストとして、製造業技術、科学哲学分野を中心とした執筆、評論、講演活動にも取り組み、2011年より(社)環境共創イニシアチブの代表理事も務める。グッドデザイン賞金賞、JAPAN SHOP SYSTEM AWARD最優秀賞、KU/KAN賞2011など、産業デザインの分野で数多くの顕彰を受けている。

イノベーションへのアプローチとして大切なこと

かつて企業は、顧客のニーズをマーケティングしながら、そのソリューションとなる商品を提供することでビジネスを発展させてきた。しかしながら、現代の先進国においては、生活者は既に物に満たされているため、生活者自身も自分が次に何を欲しているのかがわからないという構造的な問題があるという。このような状況においては、科学や技術、心理学や社会学、デザイン学といった分野を越えた学際的なノウハウを持ったクリエイターこそが、顧客自身が気づいていない新たな価値を創造していくだろうという。

かつてアップル社の共同設立者の一人であったスティーブ・ジョブズ氏の「私たちがデザインをしようとしているのは名詞ではなく動詞なのだ」という言葉に象徴されるように、今後は、クリエイターやデザイナーが主体となり、マーケットに対して、これまでに無い新たな経験の価値を提供する流れに移行していくだろうという。

道しるべとしてのユニバーサルデザイン

その際にユニバーサルデザインがイノベーションの道しるべとなるという。「Design for ALL」(みんなのためのデザイン)という言葉を掲げ、〝for ALL〟の〝ALL〟をいかに捉えるかによって、ユニバーサルデザインの社会的価値やビジネスとしてのインパクトが変わるという。この〝ALL〟が指し示す範囲は以下の通りである。

70億人、そして90億人となる多様な地球市民たちとのシェア

次代のユーザーである子供たち、まだ見ぬ子孫たちとのシェア

次代に継承すべき価値を生み出した、亡き先人たちとのシェア

人間を含めた、すべての多様なる生物、自然生態系とのシェア

そして、このような多様なシェアを実現するために心がけることは、以下であるという。

意味と価値のイノベーションを通じ、ステークホルダーとの補助線を引き直し、新しい価値の連鎖を創造する

ユニバーサルデザインを定義する要件として、次の10要件があるという。

1.セーフティ、2.アクセシビリティ、3.ユーザビリティ、4.ホスピタリティ、5.アフォーダビリティ、6.サステナビリティ、7.エキスパンダビリティ、8.パーティシペーション、9.エステティック、10.ジャパンバリュー

赤池さんの講義を伺い、改めてイノベーションとデザインとの関係性について、体系的に理解を深めることができたと感じている。昨今のビジネス界においては、〝イノベーション〟や〝デザイン〟という言葉がやや独り歩きしているような印象も受けるので、その意味や意義、繋がりについてしっかりと使い分け、それらを牽引していきたい。

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