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【時事抄】 開示情報地獄、上場コストが年々増加。これも天命

会社が株式を上場する理由は、株主が同族ないし特定の少数者のみに限定された状態から、株式を「証券市場」に流通させることで、より広い資本参加者(投資家)を集めることにあります。より多くの投資家に株式を保有してもらえれば、より多くの資金を集めやすくなり、企業の成長を加速させることができます。株式を証券市場に流通させることを「株式を公開する」という言い方もします。「上場」も「公開」も同じ意味です。

物事には表と裏が常にあり、株式上場のデメリットの一つとして会社情報の開示義務と開示体制の確立があります。要は手間が格段に増すということ。開示情報の充実を求める要求は増すばかりで、公開企業に課された負担が重たい苦行となっています。

日本経済新聞が指摘した記事を取り上げてみました。

<要約>
上場企業が情報開示の負担の重さに苦しんでいる。年毎に投資家が求める情報が増え続け、さらに日本では複数の法律やルール毎に開示書類を別々に作成することを迫られる。発信する情報量は世界でも突出する多さだ。「決算短信」や「説明会資料」、株主総会の「招集通知」、「有価証券報告書」。書類作成が集中する4~6月の業務量は膨大になる。

「有価証券報告書」は投資家の関心の広がりを反映してページが増え続ける。事業リスクの記載充実が必要となり、女性管理職比率など人事面の指標の開示も始まる。日本製鉄23年3月期の報告書は198ページで、この10年で4割近く増えた。さらに環境保護、ESGへの課題を中心にすえる「統合報告書」「サスティナビリティーリポート」も大手企業は任意で整備する。

縦割りの開示ルール 記載内容の重複も
日本では、法律や規制ごとに複数の書類を作らなければならない。「有価証券報告書」は金融商品取引法(金融庁所管)の規定に基づき、決算期末3ヶ月以内の提出が義務付けられる。株主総会では会社法(法務省所管)に基づき「事業報告書」や「決算書類」が求められる。「決算短信」は決算関連の情報を迅速に公開する証券取引所の開示ルールだ。上場企業は決算期末から45日以内に公表が求められる。

財務情報は各々の書類に記載を要するので記載内容が重複する。専門家によれば、欧州では複数の法令に対して「年次報告書」1つでの開示を主流とする。日本では、情報開示を求める法令やルール毎に書類を整備する形で対応してきた。結果的に多くの書類が必要になった。

情報量は今後も増加 効率的な開示へ議論
24年1月時点の日本の上場企業1社あたりの開示資料の総ページ数は平均398ページ。米英の2~4割多い。一見、充実した開示量とみえるが、機関投資家は満足してない。経産省の資料によれば、米英仏独など調査対象10カ国の平均(1.82)を日本は下回った(1.38)。役員報酬の算定額や事業リスク、企業業績の分析が不十分という。

経産省は懇談会の中間報告にて、各種報告書を一体にして法令に対応できる形式を提言した。複数の開示書類を一体化するニーズは企業側にも高い。企業の情報開示は今後も一層の増加が見込まれる。非効率な「縦割り開示」の壁を取り払うことが第一歩だ。

(原文1847文字→962文字)


ネット黎明期を知る世代としては、いま提供される開示情報の充実ぶりには目を見張るものがあります。自宅に居ながらネットを通じて会社情報がかなり細かいところまで手に入る。会社情報に限らず、アナリストの分析レポートも、マクロ指標の各種統計情報も同様で、果たして個人がこれほど膨大な情報量を消化しきれるか疑問に思うほどです。

数字は単に記載された数字だけ見ても意味がありません。過去の実績値と比較し、別の数字との割合を計算し、競合相手など他者と比べる。こうした分析と比較という処理を加えたとき、始めて数字は意味を語り始めます。そうしてある種の仮説が生まれてくる。

記事の中では「開示地獄」とネガティブな見方で現状を報じていますが、これも仕事と頑張ってもらうしかないと考えています。もちろん行政の縦割りの悪弊によって同じ中身を複数の書類に記載させる手間は省いてあげるべきです。しかし、情報化社会たる現代で株式公開する以上、あらゆる情報の公開を求める投資家の声から逃れることはできません。

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