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【時事抄】 東南アジア諸国から見た米ドル高

昨今、円安に対する関心が高まっています。海外旅行がすでに高嶺の花となっていますが、実は東南アジア諸国も通貨安に悩まされており、渡航先を賢く選べば、円安の影響を多少緩和できる地域もありそうです。

歴史的な転換点が近づきつつある米国の経済状況は、これまで以上に注目していますが、東南アジア諸国の通貨価値を通じて、影響の裾野を眺めるに良い材料になると思い、取り上げることにしました。

GW期間中に報じられた日本経済新聞の記事です。

<要約>
日本だけでなく、アジア諸国がドル高による自国通貨安への防衛姿勢を強めている。インドネシアは既に為替介入を実施し、ベトナムも介入を示唆している。3日に行われた日中韓とASEANの財務省・中央銀行総裁会議において、インフレ上振れへの懸念を示した。各国は食料品の輸入が多く、自国通貨安を放置すれば、物価高に拍車をかけ、国民生活への影響も大きい。

アジア諸国の通貨安は、米FRBの利下げ観測の後退が引き金だ。インドネシアでは通貨ルピアが年初から対ドルで5%以上も下がり、半年ぶりの利上げをおこなった。3月の消費者物価指数(CPI)伸び率は前年同期比で3.05%を記録し、食料品の価格高騰を裏付ける。

ベトナムの通貨ドンも下落が進み、4月のCPIは前年同期比で14ヶ月ぶりに4%を超えた。フィリピンの通貨ペソも22年11月以来の安値圏で推移し、3月のCPIは前年同期比で3.7%と2ヶ月連続の伸びを記録した。

通貨安によるインフレ懸念のほか、更なるドル安の進行は、各国ドル建て債務の返済負担も増す。不動産不況で低迷が続く中国経済の減速も、各国成長の下振れ懸念材料だ。日中韓とASEANの多くは食料品の純輸入国であり、通貨安は経済圏のコスト圧力を強める。

(原文1491文字→524文字)


日中韓・ASEAN主要諸国の通貨価値について、過去5年間の対米ドル推移を並べました。概ねどれも右上がりの曲線を描き、対米ドルの通貨価値が下落していることを示しています。食料や原材料などの輸入品取引は基本的に米ドル建てですので、影響は大きいです。

5年間の推移、Y軸上に行くほど対象国の通貨安を示す

自国通貨の防衛のために金利を引き上げれば国内経済にダメージが大きい。よって為替介入での対処療法的な措置で時間を稼ぎ、米国の景気が鈍化してFRBが利下げする、など米国マクロ環境変化を待ちたいところ。日本の財務省・日銀による為替介入も同様の趣旨でしょう。ファンダメンタルズの潮流を変えるものではなくとも、時間稼ぎとしては最良の手段です。

問題は、アジア諸国の外貨準備高に濃淡があるということ。日本は中国に次ぐ世界第2位の外貨準備高を誇り、米国との事前協議は必要ですが、投機筋に”睨み”を効かせるだけの「飛び道具」を大量に抱えています。一方、アジア諸国は1996年の「アジア通貨危機」の教訓を踏まえて外貨準備を積み上げてきましたが、日本に比べればその規模は小さい。

古いデータですが、2017年における東南アジア各国の外貨準備高のデータを掲載しておきます。(財務省が公表した我が国最新の外貨準備高は1兆2789億ドルです。4月末時点)

毎日新聞 2017年7月25 日の記事より

参考までに、GW期間中の日本当局の為替介入は5.5兆円規模だったと推定されています。1米ドル150円とすれば約367億米ドル。東南アジア諸国にとって、単独介入はハードルが高い仕事だと察せられます。(取引量が桁違いに大きい日本円を動かすほどの資金量は必要ないのかもしれませんが)


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