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【時事抄】 少子化は必然、子どもはGDPを維持するための手段ではない

サーモスタット。一定の温度に保つ温度調節器のことで、熱すぎれば冷却し、冷えすぎれば加熱する自動制御の反射装置です。多くの社会的問題に対しても、ある方向に結論が傾むくと、どこかで「サーモスタット」が働いて社会全体がバランスを取ろうとする社会的雰囲気こそ健全と考えています。

そこで少子化問題に対して反射装置を小さく作動させたいと思います。新聞紙面で「少子化対策待ったなし」の論評ばかりが目についてしまい、へそ曲がり気分が頭をもたげてきました。

子育て真っ最中の自分は、政府の子育て支援の恩恵を受けています。お金をいただけるのは嬉しいですが、しかし立ち止まって考えたい。そもそも少子化対策という問題設定は本当に正しいのだろうか、と。

まず出生率の過去最低更新を報じた日本経済新聞の記事を見てます。

<要約>
厚生労働省が5日に発表した2023年の人口動態統計によると、合計特殊出生率が1.20だった。16年から8年連続で低下し、22年と05年に記録した1.26を下回って過去最低を更新した。国立社会保障・人口問題研究所が23年4月に公表した将来人口推計の仮定値(中位、1.23)をも下回った。

落ち込み幅は25〜29歳の女性が最大、第1子出生時の母の平均年齢は31.0歳だった。初めて31歳台になった。地域別で見た出生率は東京都の0.99が最低で、埼玉、千葉、神奈川の首都圏3県はいずれも1.1台にとどまり、都市部で低い傾向だった。最高は沖縄県の1.60だが全47都道府県で前年を下回った。

出世率低下の原因は、未婚化や晩婚化が指摘される。婚姻数は戦後初めて50万組を下回り前年比6.0%減の47万4717組だった。また教育等の経済的負担を賄いきれないと考える夫婦も多い。低賃金や非正規雇用など若者の雇用環境の改善が望まれる。

先進国でも少子化が進む。子育て支援の先進例のひとつ、フィンランドの23年出生率は過去最低の1.26を記録し、フランスの23年出生率は1.68だった。東アジアの少子化は日本以上に深刻で、韓国の23年出生率は0.72と世界最低水準に落ち、シンガポールの出生率は23年に0.97と初めて1を割り込んだ。台湾の23年出生率は0.87だった。

多様化した価値観により、家庭を持つこと、子どもを持つこと、の優先度が相対的に下がっている。女性の高学歴化に伴い出産年齢が高齢化している背景もある。子育て向けの金銭的な支援の増額も効果は限定的だ。

(原文1857文字→677文字)


いずれ日本の人口は1億人を下回ることが確実視されています。人口減少による経済規模の縮小均衡は、内需に依存した企業の収益を悪化させ、そこで働く個人の所得も減少し、法人税や所得税といった税収減を招き、現行の社会保障制度が破綻も招く。GDPの相対的低下は日本の国際社会でプレゼンス・影響力の低下も視野に入るでしょう。だから「子どもを増やせ」「移民を入れろ」となる。

しかしです。経済規模(GDP)を維持する。そのため人口の頭数を何とかして維持しよう。その考え方は自然の摂理に反しているのではないか。言葉は悪いが、子どもは経済規模を維持するための道具なのか、と。

★★★

晩婚化・少子化は経済的負担が苦しいが故の望まざる選択。そういう個人や家庭があるのも事実で、だから少子化対策を否定する気は全くありません。しかし例えば「結婚しない理由」。その1位は「生活の自由を制限されたくない」、2位「誰かと一緒に生活するのが苦手・不安」、3位「お金を自由に使いたい」。仮に経済的苦境が和らげば結婚が促進され子どもを2人・3人と産み育てようとなるか、というとそうでもなさそう。豊かな生活によって価値観が多様化しているのです。

先進国に共通する「多様化した価値観」を前に、子育て支援のバラマキ政策は「焼け石に水」です。本当に取り組むべき課題は別のところにある。

つまりそれは、想定される人口数に見合った企業の行動変革(生産性向上、付加価値向上、海外進出、副業容認)であり、雇用慣行の是正(一斉採用廃止、雇用流動化、年齢制限の禁止)とこれに適した制度見直し(失業保険制度の見直し、ベーシックインカム導入)、個人の資産形成を支える制度導入、そして年金・医療保険システムの変革です。

戦後80年を経た古い制度設計と既得権を維持するための「少子化対策」ではないか、少子化って解決できない問題なのではないか、この問題設定が実は正しくないのではないか、とね。

確かなことを打ち捨てて、不確かなことを追い求めるのは、愚か者のやることだ。

 『エーホイアイ/名婦列伝』ヘシオドス(古代ギリシアの叙事詩人)


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