見出し画像

【時事抄】 KIRINがFANCLを完全小会社化、友好的統合のゆくえ

日本経済新聞の名物コラム「私の履歴書」に2019年11月、ファンケル創業者 池森 賢二氏が登場しました。幼い頃に事故で父を亡くして極貧生活に陥り、パン職人を志すも挫折、奥さんの父親から紹介された会社勤めも長くは続かず、独立しても3年で倒産。しかし、奥さんの肌荒れをヒントに無添加化粧品を作り上げ、ファンケルを立ち上げます。社名の由来は、愛らしいを意味するFancyと、化学を意味するChemicalの足し算とのこと。

紆余曲折を経てファンケルを創業した後も、行政との格闘、引退、再復帰、再引退といった目まぐるしい一代記で、毎回紹介されるエピソードが特に面白い。日経新聞電子版購読者なら今も過去ログから読める、出色の「私の履歴書」のひとつです。

そんなファンケルを買収して完全子会社化するとキリンホールディング(以下キリン)が発表しました。ファンケル側も合意する「友好的買収」のようです。日本経済新聞の記事から詳細を見てみましょう。

<要約>
キリンホールディングスは14日、健康食品大手のファンケルを完全子会社化すると発表した。TOB(株式公開買い付け)を実施し、年内にも全株式を取得する。2019年の資本業務提携から5年越しの買収となる。

ヘルスサイエンスを成長の軸に据えるキリンは、巨額の買収で事業を強化してきた。協和発酵バイオとオーストラリアの健康食品大手ブラックモアズの買収など、この5年間の投資額は6000億円を超える。部門の売上収益を10年以内に23年12月期実績の5倍、5000億円に引き上げる。

◆「結婚相手のお父さん」
ファンケル島田和幸社長は月1回、キリン本社を訪れ、磯崎功典会長最高経営責任者(CEO)と二人きりで議論する。資本業務提携以降、欠かさずに続けてきたやりとりだった。ここで島田氏は磯崎氏に率直にキリンの改善点を指摘し、磯崎氏の健康食品に対する情熱を知る。島田氏は、いつしか自社の社員に、「磯崎さんが結婚相手のお父さんだと思って接しなさい」と呼びかけるようになった。

キリンの立て直しを賭ける磯崎氏は健康食品に対する意欲が高く、ファンケルのスピード感のある商品化能力を高く評価する。磯崎氏が中心となって長年ファンケルとの信頼関係を築いてきた今、ファンケルがTOBに賛同するのは必然だった。

◆ビール苦戦
1994年、キリンのビール事業の国内シェアは5割、一人勝ちだった。しかし、「スーパードライ」で勢いづいたアサヒビールに2001年に国内シェア首位の座を奪われた。海外に活路を求めたが、11年に約3000億円かけて買収した当時ブラジル2位スキンカリオール(後のブラジルキリン)は蘭ハイネケンに770億円で売却、ミャンマー事業も国軍のクーデターで泡と消えた。

そして15年にキリンHD社長に就いたのが磯崎氏だった。多角化を推し進め、19年のファンケルへの出資を決断、23年にブラックモアズの買収を主導した。今のキリンの課題は経営効率化だ。企業買収で膨らみ続けるバランスシートに見合う利益を生み出す必要がある。

ファンケルの24年3月期の純利益は88億円で前期比78%増。売上高営業利益率は11%とキリンのそれ(9%)を上回る。完全小会社化はキリンの利益率向上に寄与するだけでなく、研究員や特許を含む知的財産など経営資源を相互に共有して商品開発に注力できる。

適正な飲酒を求める声は世界的に高まり、酒類飲料の世界市場には逆風が吹く。一方、健康食品は、ビール大手のライバルであるサントリー、アサヒも製品展開し、海外大手企業も注力する成長分野だ。体制を整えたキリンは、今春就任した南方健志社長を中心にスピード感をもって攻勢をかける。

(原文2128文字→1112文字)


記事にある通り、ビール等の酒類販売に大きな成長が見込めないため、キリンは事業の多角化を進めています。発酵化学の知見を活かした医療事業健康分野が今後の成長の種になると見ている。

『キリングループ 2023年度決算・2024年度計画』より

しかし、免疫機能維持に役立つとされる独自素材「プラズマ乳酸菌」などを活用したヘルスサイエンス事業が伸び悩んでおり、その立て直しにファンケルの完全小会社化が欠かせないと判断したようです。

『キリングループ 2023年度決算・2024年度計画』より自作
『キリングループ 2023年度決算・2024年度計画』より

気になるのは、ファンケルの利益の6割を稼ぎ出し、根強いファンが多い「化粧品事業」がどうなるのかという点。キリンが得意とするビール・飲料で展開する商品群と巨額の広告宣伝をかけて展開する「爽やか」イメージに、ファンケルの化粧品事業との相乗効果が薄い気がします。

無添加化粧品を販売するファンケルは通信販売を軸に、顧客のニーズや不満に素早く反応する機動力を強みとしています。大企業キリンの傘下に入ることで、ファンケルの良さが失われてしまうのではないかという懸念もあります。どうキリンは克服していくか、お手並み拝見したいと思います。まさか化粧品事業だけどこかに売却、なんて愚策は取らないと期待してますよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?