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林口・初夏、一服の清涼剤

足下から、夏の暑さが立ちのぼる。
今は6月、明日から端午節の休みが始まる。三日間の休みを過ぎたら、本格的に夏の暑さがやってくる。午前中に知り合いからお裾分けして頂いた冷凍のちまきの入った袋が、ダラダラと汗をかいている。まるで暑くてたまらない、と泣き言が聞こえてくるようだ。
本日の最高気温は35度。これだけ暑いのにまだ夏が来てないの? と人に問うたら、こんなのまだまだ序の口だよ、と笑われてしまった。うん、知ってた、夏の盛りの暑さはまだまだこんなものじゃない。本当に暑いときは、ミイラのようにカラカラに干からびるか、アイスのようにドロドロに溶けてしまいそうになる。人間の原型を留めていられるだけ、今日はまだマシな方だった。

仕事が始まるまでまだ時間がある。外をフラフラしていると人間まで汗みずくになってしまうので、近所のアウトレットへ涼みに行くことにする。
そのアウトレットは日系の施設なので、内部にはたくさんの日系ブランドのショップが入っている。ユニクロやカルディ、ユナイテッドアローズやアースミュージック&エコロジーなんかにはたまにお世話になる。あとは誠品へ立ち読みに行ったりとか、映画を見たりとかご飯を食べたりとか。ちょっとした時間つぶしをするのには、もってこいの場所なのだ。
文化路ニ段側から入って、まずは屋内の店舗を巡回する。カルディで真新しい商品がないか確認し、ユニクロへ寄って、それから誠品へ立ち読みに。前からほしいと思っていた本があったのだが、内容を再確認して……やっぱり、保留。貧乏人の狭い部屋には、簡単には物を増やすことができない。

屋内の見たい店は大体見て回って、ついでに登山用品ものぞいてみるかと、建物の外の一店一店が独立している形の店舗の方も見に行く。建物の外へ出ると、エアコンで調整された涼しい空気が一気に途切れて、代わりに生ぬるい風がぬるぬると皮膚を撫でる。……暑くてちょっとげっそりする。
と、そこで風の音の中に、キリコロと美しい音色が混じっているのに気がついた。薄い玻璃のグラスに注いだ冷たい氷水の、氷が溶けて崩れてコロリとグラスを打つような音。それが、いくつもいくつも連なっているような。ついつい誘われて音のする方へ歩いていくと、やがて視界に飛び込んできたのは、風鈴を鈴なりに吊るした小さな木製の屋台のようなものだった。夏の気配を帯びた温まったい風が吹くたびに、キリキリ、コロコロと風鈴が揺れて音を立てる。なんとも涼やかな風景だった。ほんの少しだけ、郷愁を誘われた。

夏はまだまだこれからだ。夏バテ、暑気あたり、熱中症、日焼け、肝斑、そばかす、寝苦しい夜、活発になる昆虫類、セミ爆弾と、恐ろしいことが山ほどある台湾並びに日本の夏だが、こうして時々見つけることのできる清涼剤を探しつつ、今年の夏も人間の原型をとどめていけたらと思う。

台湾在住者による台湾についての雑記と、各ウェブサイトに寄稿した台湾に関する記事を扱っています。雑記については台北のカフェが多くなる予定。 そのうち台北のカフェマップでも作りたいと思っています。