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[イベントレポート] 日本と台湾のソーシャルデザインの今 |記念トークイベント#1

「未来の花見:台湾ハウス」の記念トークイベントが2021年10月4日(月)に開催されました。
このトークイベントは、2021年10月17日まで東京・丸の内「GOOD DESIGN Marunouchi」で開催される台湾デザインの祭典「未来の花見:台湾ハウス」の記念イベントとして開催されました。会期中はクリエイティブシーンを牽引する日本と台湾ゲストを迎え6回に分けてトークを行っていきます。

第1回目のテーマは今回の展示でも柱のひとつと位置付けた「ソーシャルデザイン」です。ファシリテーターにカリスマバイヤーとして知られるメソッドの山田遊さん、スピーカーに、日本からは宿泊施設のシェアリングエコノミーを進めるAirbnb Japan(エアビアンドビー・ジャパン)執行役員の長田英和さん、台湾からは「未来の花見:台湾ハウス」のキュレーションを担当したコンサルティング会社Plan b(プラン・ビー)代表の游適任(ジャスティン・ヨウ)さんを迎えて行われました。

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ソーシャルデザインは、社会の問題を問題であると意識することから始まる

まず、そもそもソーシャルデザインとは何なのか? 長田さんは「社会のニーズや課題に対して新しい解決策を発明するソーシャルイノベーションを社会に実装させるための仕掛け」と定義づけると、ジャスティンさんも「社会の問題を解決する手段」としながら、「その問題を問題であると意識することが重要」と語ります。

ジャスティンさんはCSR報告書のつくり方を指導するコンサルとして起業しましたが、現在はサステナブルディベロップメント(持続可能な開発)を主軸に、企業や自治体に対して施策のプランニングなどを行っています。

「人が集まるところ、そして都市に問題が潜在化している」と6年前には台北市と共同で新たな「働き場」づくりに取り組みました。「多くの人が時間を割く仕事時間の環境を変えれば、都市の環境も変えていける」という視点から始まったもので、使われなくなったサッカースタジアムをリノベーションして自社のオフィスを移転するとともに、コワーキングスペースを設け、様々な企業の誘致も行いました。現在では3300㎡に及び敷地に70社以上が集積し、人数にすると400人以上(うち1/3は外国人)が働く。台北市の中心部に一大ワーキング拠点を誕生させました。

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CAP:Park UP

また、台北市内に点在する空き地の有効活用にも乗り出し、「Park UP」というプロジェクトを始動。165㎡以下の狭い空き地をどんな人でも使え、周辺地域ともつながりのあるコミュニティスペースにデザインしました。すると、誰も入ろうとしなかった空き地で洗濯物や布団を干そうという地域住民が現れたり、写真を撮ろうと女子たちがわざわざ訪ねてきたりと、インスタ映えするスポットに早変わりしたのです。

台北市から「遊ばれていない公園が多い」という相談が持ち込まれた際は、ワークショップを開いて地域の人たちから「なぜ公園で遊ばないのか?」「公園では何をしてみたいのか?」といった声を集め、公園が抱える課題を洗い出しました。そして、スペースや利用人数に合わせて自由に組み替えができるモジュール式遊具「Park UP Tools」を開発しました。「こうしてひとつの点をデザインすることでそれが他にも波及して面の広がりとなり、街を変えていく」。ジャスティンさんはソーシャルデザインの可能性に期待します。

一方長田さんは、こうしたソーシャルデザインを地域の人たちが自走するためには、「最初の大きなハードルとなる摩擦を克服し、今まで静止していたところが動き始める『最初の一押し』がポイント」と語ります。

過疎化が進む奈良県吉野町で行った「吉野杉の家」プロジェクトでは、建築家や地域の人たちと対話を繰り返しながら、その家で宿泊客を地域のホストがどのようなおもてなしをするのか。一緒にごはんを食べたり、縁側に座りながら語らいをしたりと具体的な風景のデザインを設計し、28種類の地域材を使った宿泊施設をつくり上げました。

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CAP:吉野杉の家

Airbnbのホームページで告知して人を呼び込むプロモーションを開始すると、1年目で早くも32か国か42名が来訪。しかも、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した建築家やオリンピアン、それに著名なミュージシャンとこれまで訪れることもなかった人たちがやって来た。いわば「弱いつながり」の導線がこの町に引けたこととなり、稼働率は7割を越して2万8000ドルの収益を上げるという好結果となりました。

注目はこの施設の成功だけではなく、地域で4軒しかなかった民泊が15軒に増え、周辺の山でゲストたちに林業体験をしてもらうといった新たなビジネスも生まれ、起業する人までが現れたこと。ひとつのハブ的な施設をつくることでそこを起点とした新しいデザインが広がっていく。「地域創生でどういうカタチでホームシェアリングが貢献できるのか、そのヒントがつかめた」としています。

長田さんは、まったく新しい施設をつくるのはお金も時間も掛かってハードルが高いと、使われていない古民家をリノベーションするケースや、家の空き部屋を活用した試みにも挑み、Airbnbによる「最初の一押し」で地域にうねりを起こす取り組みを積極的に進めています。

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家を良くすれば、環境問題も社会問題も、それに人の心の問題も解決できる

両者のプレゼンを聞いた山田さんは「日本と台湾、環境や状況は異なりながら、ソーシャルデザインのアプローチやアイデアに似たところがある」。少子高齢化や都市への人口集中と日台とも同じような社会問題を抱えていますが、「2人からクリエイティブな要素をソーシャルデザインに取り込む試みが聞かれたのは面白い」と指摘します。

例えば、Plan bでは「Alife」という会社を立ち上げ、住宅をサブスクリプション方式で貸すビジネスを始めています。ジャスティンは「不動産業をコンテンツ産業ととらえ直した」と説明します。提供する住宅の部屋には同社がデザイナーやクリエーターたちとつくってきた「社会をより良くする」商品を導入し、暮らす中で目に触れ、使うことができるようにしています。

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CAP:Alife

デザイン商品はコンテンツとして住空間を楽しくし豊かに彩り、借り手はそうした商品を知ることになり、気に入れば購入することもできる。ジャスティンさんたち、そして借り手ともにウインウインな関係が築ける構図です。

長田さんの方でも似たような事例を進めています。家具のショールームを宿泊施設にしてしまうもので、A lifeと同じで宿泊客は泊っている間に使用することができます。いわば「泊まる空間を新しいモノを深く知れ、体験できるメディア」ととらえたのです。こうなると、ただ陳列された商品を見比べるだけでない、もう一歩踏み込んだ新たなモノの売り方につなげられるわけです。

昨年来のコロナ禍によって「家のあり方や役割が大きく変わっていく」。この点も両者が一致する見解です。「住まいが固定したものから、流動するものに。自分が持っている不動産を貸し出した原資で別の場所に家を構える多拠点居住がこれから広がっていく」と長田さんが予想すれば、ジャスティンさんは「人生の大半の時間を過ごす家。だから家を良くすれば、環境問題も社会問題も、それに人の心の問題も解決できる」と力強く語ります。

トークを通して、こうしたソーシャルデザインが浸透し、発展していけば、私たちの社会や暮らしはよりいい方向に向かっていくに違いないと感じさせてくれました。

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開催情報:
「未来の花見:台湾ハウス」 京都展
日付:2021年10月23日(土)-11月7日(日)
時間:10:00~18:00
会場:ザ ターミナル キョウト(入場無料) 
   京都市下京区新町通仏光寺下ル岩戸山町424番地
TEL :075-344-2544
公式サイト :https://www.taiwannow.org/jp/program?id=1

■会期中の記念オンライントークセッション
記念トークイベント #4
日本と台湾の産地デザイン
2021年10月25日(月)14:30 ~ 16:00( 日本時間)
お申し込みURL : https://taiwanhouse-211025.peatix.com/

記念トークイベント #5
生きるリノベーション
2021年10月29日(金)19:00 ~ 20:30(日本時間)
お申し込みURL : https://taiwanhouse-211029.peatix.com/

記念トークイベント #6
変化の時代の暮らし方と働き方
 2021年11月05日(金)19:00 ~ 20:30(日本時間)
お申し込みURL : https://taiwanhouse-211105.peatix.com/


主催|経済部工業局
実施|台湾デザイン研究院
協力|財団法人文化台湾基金会、公益財団法人日本デザイン振興会、ザ ターミナル キョウト
キュレーター|Plan b、Double-Grass
アドバイザー|method inc.