【考察・解説】ゼンレスゾーンゼロの世界観を整理してみた
【注意】本記事はゼンレスゾーンゼロ3章までのストーリーやサブクエストのネタバレ、および個人の見解・推測を含んでいます。
リリースから間もなく1ヶ月が経過するゼンレスゾーンゼロ(以下、ゼンゼロ)。都市ファンタジーという触れ込みで展開されたこの作品は、原神、スターレイルに続く3Dアクションゲームであり、表情豊かにキレの良い動きをするキャラクターPVやアメコミ調の演出を交えながらストーリーを展開する。
終末世界という重くなりがちな世界観でありながら、コミカルかつテンポ良く進む会話によりそれほど作中用語に慣れ親しんでいなくとも雰囲気を掴みながらスラスラと読み進めることが可能だ。また、HoYoverseの他作品から独立したオリジナルの世界であることがプロデューサーインタビューにて語られているため、この言葉を信じるならば崩壊シリーズを履修しなくともゼンゼロの世界へ没頭することができる。
物語は、ゲームの舞台となる新エリー都にて何でも屋として活動する邪兎屋が、暴力団組織赤牙組による金庫を巡る一幕から球状の異常空間ホロウへと入り込むところから始まる。ホロウはエーテルと呼ばれる未知の特殊物質に満ちており、エーテルに適応する体質でない人間は侵食され、異形の化け物エーテリアスへと変貌してしまう。
そうした危険な空間へと入り込む邪兎屋は、エーテル適正体質を持つ違法な調査員ホロウレイダーであり、危機的な状況を前にして、ホロウの外から違法にサポートを行う調査員プロキシである主人公たちの手を借りる。アキラとリン、プレイヤーが操作する兄妹たちはパエトーンと呼ばれるやり手のプロキシであり、金庫に隠された人工知能Fairyとの邂逅を果たした二人は、新エリー都を取り巻く陰謀の渦へと巻き込まれていく。
そうしたシナリオをプレイヤーたちが読み進めている中、ゼンゼロ公式はリリース2日後に世界観に関わるPVを公開した。
謎の語り手が、この世界の情報通信網インターノットへの不正アクセスを通じて、エリー都の創造に貢献し『虚狩り』の称号を与えられた7人の情報を読み上げていく。
興味深いのは、主人公たちの異名であるパエトーンにまつわるギリシャ神話の記述やストーリーでも既に登場している人工知能Fairyの名が登場する点だ。今後の展開を仄めかす映像、とりわけ隠された謎を解き明かすための考察は世界観が大きく拡張されつつある、過渡期の今でこそ味わえる醍醐味がある。
本記事では新エリー都やホロウ、エーテル等、メインストーリー3章まで判明している基本的な世界観設定についてまとめた。また、世界観紹介PVの情報を足がかりに、パエトーンに関わるギリシャ神話も簡単に紹介している。
新エリー都の成り立ち
まずはゼンゼロの舞台である新エリー都から情報の整理を始めたい。
主人公たち兄妹含め新エリー都に住む多くの人々は元々、エリー都(以下、旧都)に住んでいた。ドキュメンタリービデオ『一杯の土から』の紹介テキストによると、旧都はメイフラワー家と呼ばれる一族によって創設された都市とされている。
飛ぶ鳥を落とす勢いで発展を続けた旧都であったが、あるとき都市に巨大な異空間「零号ホロウ」が発生。街や人を容赦なく飲み込んだ零号ホロウによる一連の厄災はホロウ災害として呼称され、多くの人々にトラウマを植え付けた。
零号ホロウが発生した時期については明記されていないものの、ヴィクトリア家政に所属するリナのエージェント秘話『あなたがすべてを忘れるまで』では、大型総合病院である白浪病院にて看護師として働いていた女性レイシャが、41年前におきたホロウ災害により「侵食認知後遺症」という重度の記憶障害を患ったエピソードが描かれた。
加えて、世界観紹介PV03:24~にて零号ホロウを調査した人物が失踪して「ひと時代過ぎたのね」と表現されていることから、少なくとも半世紀から一世紀前にはホロウ災害が各地で発生していたと考えられるだろうか。
こうしたホロウ災害から避難すべく新たに創られた都市こそが新エリー都である。
また、ゼンゼロのプロデューサー李氏は、新エリー都がホロウ災害への対抗策とホロウ内資源を探索する技術を手に入れたことで、逆境を乗り越え発展した、現代文明の最後の避難場所であると語っている。
旧都陥落
旧都はホロウ災害が発生してからもしばらく都市機能を維持していたが、やがて大勢の人々が避難を余儀なくされた。そのきっかけとなったのが旧都陥落であり、この出来事について臨場感がある様子で描写されているのが旧都の落とし物「ホロウ銀行」として回収できる音声データだ。
1つ目の音声データは、キャロルの兄がホロウ銀行にて火事場泥棒を行い、大金を持って車のエンジン音と共にホロウから逃れる描写で終わる。続く2つ目の音声データでは、キャロルの兄たちが手に入れた大金と共にホロウへ取り残されてしまったことが判明。
幼かったキャロルがまだ学生であることから、旧都陥落〜現在までそれほど年数が経過していないことが分かる。
また、メインストーリー『食い違い』にて、数年前の旧都陥落前日に当時の白祇重工社長であった父親が失踪したとクレタは述懐している。このエピソードからも、10年と経過していないことが分かるだろうか。
リンとアキラの二人も、旧都にある教育機関から新エリー都へと移ったことがメインストーリーの『禁区調査』にて語られている。
ホロウとは
続いてゼンゼロ世界の根幹に関わる概念であるホロウについて掘り下げたい。
世界観紹介PVの地図からはHOLLOW ZERO(零号ホロウ)と表記された巨大な空間の他、大小さまざまな規模の異空間が点在していることが分かり、新エリー都にも発生している。
物語の根幹を成しているのが零号ホロウ「リンボ」で、この零号ホロウこそが新エリー都や周辺エリア大型ホロウの根源であるとプロキシノートに記載がある。故に新エリー都の未来のためには零号ホロウの調査と鎮圧が不可欠であり、零号ホロウの秘密を探ることが物語の真相へ至る鍵になると言えよう。
インターノットの『【告知】ホロウ初心者向けガイド:自分に合った仕事場を選びましょう』では、新エリー都にて発生する無数のホロウを原生ホロウと共生ホロウの2タイプに分類されている。
原生ホロウとはホロウの中でも大型に分類されるもので、クリティ、ラマニアン、ハワーラ、プルセナス、ソロブ、パパゴの6種類が存在。序章にて邪兎屋の面々が迷いこんだのは原生ホロウのクリティであり、鉄道やホーム、電車の車両など、古い地下鉄駅を内部に取り込んでいる様子が描写された。
共生ホロウとは原生ホロウが拡張した結果生まれた副産物であり、比較的小規模でエーテル濃度が低い特徴を持つ。原生ホロウと比較して危険度が低いとはいえ、人に襲いかかるエーテリアスが共生ホロウにもいることに変わりはなく、何かしら身を守る術を用意しておく必要がある。
メインストーリー3章の舞台となったバレエツインズは、ラマニアンの活性低下に乗じて、当局が共生ホロウの鎮圧を図っているとライカンから説明されていることから、共生ホロウは元となったホロウの影響を受けて規模が伸縮する性質があると言えるだろうか。
共生ホロウは新米のプロキシやホロウレイダーが探索するのに適した初心者向けのホロウであるとされているが、中には「デッドエンドホロウ」のように危険な個体が存在するケースも。
こうしたホロウ内部の危険なエーテリアスを消滅させることで、共生ホロウの活性を大幅に下げることができる学説が【新エリー都入居ガイド】零号ホロウ編に記載されている他、ストーリー1章幕間にてホロウ調査の研究員であるレイがエーテリアスの群れと危険個体の殲滅がホロウの拡張を抑制ないし消滅させられる旨を語っている。
なお、エーテリアスはホロウの外では活動できないため、今のところは新エリー都がエーテリアスで溢れるというパンデミックには至っていない。
ホロウ災害への対応組織
危険な個体は並大抵の武力では討伐することができず、邪兎屋と主人公たちも走行する列車を突撃させ、アンビーの武器を避雷針として誘導した雷によって辛うじてデッドエンドブッチャーを倒すことができた。
こうした危険個体の討伐は大きなリスクが伴うものであるが、新エリー都にはホロウ災害に対応する組織H.A.N.D.が存在する。H.A.N.D.にはホロウが引き起こす様々な事件の解決に特化した対ホロウ事務特別行動部という名の武装組織があり、エーテリアスの討伐から正体不明物質の調査まで、ホロウに関わる幅広い任務をこなす。
とりわけ、主人公たちとの関与することが示唆されているのは対ホロウ特別行動部第六課だ。
メインストーリーにて主人公たちが、合法的に零号ホロウする権利を手に入れるべく訪れたスコット前哨基地にて、極めて危険な「極超」級エーテリアスニネヴェに遭遇した際、先陣を切って救助してくれたのが星見雅だ。
雅は対ホロウ6課の課長を務める人物であり、精鋭揃いとされるメンバーたちの中でも随一の戦闘力を誇ることが劇中のPVでも明かされた。
キャラクター紹介によると、雅は名高い武術一家としての跡取りであるとされているが、世界観紹介PVでも星身家三代目当主でありソードマスター(SWORDMASTER)の異名を持つ女性がホロウ災害の鎮圧に貢献した虚狩りの一人として登場している。
ゼンゼロ世界の各種族がどの程度の寿命を持つのかは定かでないが、虚狩りたちが活躍した時代が一昔前であること、そして世界観紹介PVの「後継者に恵まれたかしら?」というセリフを加味すると、星見雅は四代目以降の当主であることが窺える。
エーテルの性質
ホロウという危険と隣合わせの新エリー都であるが、都市の繁栄もまたホロウからもたらされるエーテル資源によって支えられるというジレンマを抱える。
エーテル資源は新エリー都において幅広く活用されているエネルギー源だ。ホロウ内のエーテル物質はエネルギーとして採掘・加工され、式興(しきよ)の塔を通じて都市へと供給される。
メインストーリー1章においても、古い地下鉄の残骸を除去すべくパールマン率いるヴィジョン社が高純度の工業用エーテル爆薬を大量に用意したことから、エーテル物質にはエネルギーを蓄積する性質があると言えるだろうか。ニコや朱鳶の持つ小火器もエーテル属性であることから、新エリートの武器に幅広くエーテルが使われていることが窺える。
ホロウではそこかしこにエーテル晶柱が生えているため、誰でも簡単に採掘することが可能。新エリー都が建設されたばかりの頃はホロウ内にて人力で採掘が行われていたが現在では機械化が進んでいる。
また、エーテル物質は良質なものになると高値がつくため、たとえ危険なホロウであろうと違法にへ調査する人々は絶えない。
ホロウが非常に危険な場所であるのはエーテリアスに襲われるというだけでなく、エーテルの影響で自らもエーテリアスへ変貌してしまう可能性があることだ。仮にエーテル適応体質でなければ、数時間と経たずエーテルが身体を侵食し、異形の化け物エーテリアスへと成り果ててしまう。
エーテリアスを治療する方法は示されておらず、ジョナサン財団がエーテル侵食を部分的に改善できる技術を発表した、という記述に留まる。
新エリー都は原則として一般の民間人がホロウへ立ち入ることを許可していない。裏を返せば、基本的にホロウへ出入りするのは違法な輩ということになる。
エーテリアスを倒すということはすなわち、元々人間だった存在を自らの手で葬る行為にほかならないが、今のところはそれほど悲壮感溢れるような描写になっていない。
法的に一般人の出入りを防ぐことにより、エーテリアス=悪人(もしくはリスクを承知で入った人間)という構図を作り上げることで、エーテリアス討伐に際して善悪の呵責に苛まれないよう取り計らうシステムと言えるだろうか。
突如として発生するホロウに巻き込まれてしまった場合、新エリー都の警備活動を行う治安局が即座に救助活動を行ってはいるが、勿論それでもホロウに巻き込まれてしまう人もいるだろう。
そうした事情へ思考を巡らさせた際に思い出されるのは、新エリー都の入居Tipsだ。
新エリー都は情熱、開放的、自由の3つを根幹としているが、裏を返せば自己責任で主体的に行動する精神が強く求められるということに他ならない。
エーテル適応体質であるか否かは当局による検査の他、市販で入手できるエーテル適正セルフ検査キットを使って調べることができる。0~100点までの数字で評価され、50点を超えるとエーテル適応体質と認定される。
ホロウと共存する新エリー都においてエーテル適正体質であることは一種のステータスとなっており、将来的にエース級のホロウ調査員として活躍できる可能性も。
但し、長時間ホロウにいることでエーテル適性が高い者であっても身体が侵食されていくことに変わりはなく、適切な案内人の元、限られた時間でホロウ内探索を行う必要がある。
調査員とホロウレイダー、プロキシ
続いてホロウを担う正規調査員と、違法とされるホロウレイダー、プロキシについて整理したい。
リンボをはじめとする各種ホロウにて、正式に調査を請け負っているのはホロウ調査協会と呼ばれる組織だ。主人公たちは違法調査員プロキシとしてホロウの調査を行っているが、ストーリー1章幕間にて零号ホロウの定期調査へ参加する権限を合法的に得ている。
新エリー都において零号ホロウについて研究するための最前線にある基地がスコット前哨基地だ。
スコット前哨基地にて主人公たちを案内したレイは、ホロウ調査協会に所属するホワイトスター学会の研究員であると自己紹介した。この学会は直接零号ホロウ内部に入って実地調査を行う組織で、旧都の落とし物シェルターとして拾えるアイテムには、ホワイトスター学会に所属する2人が零号ホロウ内における観測ステーションの建設と破棄を巡ってやり取りする一幕が描写されている。
正規の調査員にせよ、違法に活動するプロキシにせよ、危険な領域にて活動を行うわけだが、こうしたホロウ探索は虚狩りの一人として数えられるジョイアスによって基礎が築かれた。
ホロウレイダーやプロキシは違法ではあるものの、新エリー都においては必要悪と見なされている節がある。というのも、新エリー都に住む人々は街中に突如として異空間が発生する中で日々を送っているため、ホロウ内に私物を落としたり猫が迷い込んだりすることは日常茶飯事となるのだ。
こうした日常的に起こり得る問題解決を、認可された調査協会のメンバーが逐一担当していてはとても手が回らない。そうした事情から、非認可とはいえホロウを(手頃な値段で)案内できるプロキシのような存在が求められるのだろう。
プロキシへの依頼は、匿名の交流サイトであるインターノットを通じて行われる。インターノットは新エリー都において違法であるはずのプロキシやホロウレイダーの行為を助長するような斡旋をしており、治安局の取り締まり強化に対する注意喚起を公式アカウントから投稿するなど、アングラな側面が目立つ。
PV数や投稿についた反応から察するに、インターノットを利用するユーザー数は数十万に上る。
ボンプとキャロット
主人公たちの目線でホロウ探索をする際、プレイヤーはボンプを操作することになるが、新エリー都においてボンプがどのような役割を果たしているのか触れたい。
ウサギのような長耳で「ンナンナ」という声を発し、街の至るところで人々と接するボンプだが、当初は避難誘導を行う目的で造られた小型知能機械である。
ボンプの発明者として知られるのは虚狩りの一人であるサンブリンガー。彼女はホロウ消滅の功績に加え、マルセルグループCEOという肩書を持つ。
マルセルグループについて、ボンプチケットのフレーバーテキストにその名前が確認できる他、ボンプの改造を行うことができるアイテム等にも「マルセル・コーポレーション」という名前が確認できる。総じて、新エリー都においてボンプ製造を担う会社と捉えて良いだろう。
ホロウ探索において頻発する用語の一つに「キャロット」がある。これについては、インターノットのスレッドにて詳細に語られている。
序章にてアンビーとビリーが脱出しようとして同じ場所を堂々巡りしていたが、ホロウ内の空間は頻繁に変化するため、何度も出入りする経験のあるホロウレイダーと言えども迷走することが多々ある。
ホロウにて最適な脱出ルートを算出できるよう、一定時間内における変化パターンを書き込んだデータこそがキャロットであり、調査員のボンプにはこのチップが支給されている。
キャロットの作成は主にホロウ調査協会が担っているが、充分なホロウ内調査データさえあれば誰でも作成が可能であり、基盤となるデータはオープンソースとして公開されている。熟練のプロキシやエージェントたちは調査協会よりも正確なデータによってキャロットを自作し、名声を上げていく。
キャロットの元になるホロウデータは、観測設備による誤差の積層により、データの有効性が失われてしまう。そのため、有効性を保つために数日単位でデータを修正する必要があるが、そのマスターデータはロゼッタデータと呼ばれ、都市の統治者のみが所有している。
序章にて、邪兎屋が手にした金庫に入っていたものが、もう一つのロゼッタデータと呼ぶべき人工知能Fairyである。
伝説のプロキシ「パエトーン」
新エリー都において、主人公たちは数多いるプロキシの中でも伝説と名高い「パエトーン」の異称で知られている。
序章にてFairyというチート級のサポートを得てしまったが故に、伝説級と呼べるほどの手腕を発揮する描写はそこまで目立たないが、描写から察するに彼らの持つ技術については非常に特殊なものだ。
主人公たちの持つボンプ、イアスを操作する設備はHollow Deep Dive システム(通称、H.D.Dシステム)と呼ばれ、操作する人間と感覚を同期できる上に、ホロウ内部とリアルタイムで通信することが可能である。
これは先述のホロウ調査協会や治安局の技術を上回っていると邪兎屋のビリ―は指摘しており、どのような経緯で主人公たちが入手するに至ったのかは今のところ描かれていない。
少なからず、アキラとリンの二人は陥落前の旧都にて勉強して育ち、プロキシとして逮捕されるリスクを冒してでも調べなくてはならない秘密を抱えていることが窺える。
兄妹二人が学んだ学術機関について今のところ言及はないが、世界観紹介PVにて名前が登場したヘーリオス研究所がその候補として挙げられるだろうか。7人目に紹介された虚狩り、ヘーリオス研究所の創設者アーチ教授に対して特別な反応を見せていることからも、本研究所はPVの語り手が所属する組織であると推測を立てることができる。
また、世界観紹介PVでは、4種の人工知能(Jinni、Ghost、Youkai、Fairy)が新エリー都へ放つべく、何かに眠らせる描写があった。
序章にて赤牙組はFairyの格納された金庫を研究所から盗み出している。語り手の組織ヘーリオス研究所に主人公たちが所属していたと仮定するならば、アキラとリンの二人がFairyを手にしたのはある種、運命めいた出会いと言えようか。
ギリシャ神話の観点から
ここまでゲーム内設定についてまとめてきたが、最後にゲーム外情報で参考になりそうな情報について簡単なメモを残しておきたい。
主人公たちの秘密を解き明かすための足がかりとして着目したいのが、パエトーン、イアス、ヘーリオス研究所という名前と、世界観紹介PVに表示される英文だ。
パエトーンとはギリシャ神話に登場する神であり、ガイウス・ユリウス・ヒュギーヌスの『神話集』では太陽神ヘーリオスの子供とされている。
ヒュギーヌスの『神話集』は一つ一つの話が非常に短く、パエトーンのエピソードについてはごくわずかであるが、ヘーリオスとパエトーンが親子関係にあること、そしてパエトーンは父の戦車に乗ったが川へ落ちたことが描写されている。
やや短絡的ではあるが、先の項でパエトーンがヘーリオス研究所出身であると推測した背景はこの設定を踏まえたものだ。また、ゼウスが火を消すふりをして川を氾濫させたとあるが、大洪水によって都市が滅んだという話はギリシャ神話に留まらず世界中の神話や伝承で見受けられる。
ゼンゼロにおいて旧都はエリー都(Eridu)と表記されるが、シュメール王名表に名前が確認される古代メソポタミアの都市 𒉣𒆠(エリドゥ)の英語表記である。シュメール王名表によるとエリドゥは王権が成立していた都市で、大規模な洪水が起こる以前に存在したとされる。
あまりに大昔のことであるため確たる根拠はないが、ギリシャ神話の「デウカリオーンの洪水」をメソポタミアで発生した洪水を同一視する説がある。かつ(古代メソポタミア南部の)シュメールにも洪水によって世界が滅びる神話(アトラハシス叙事詩)があるため、ゼンゼロのシナリオライターはこのあたりに着想を得て、滅びた旧都と新エリー都の設定を練った可能性があるだろうか。
パエトーンについて、古代ローマの詩人オウィディウスによって創られた『変身物語』にも参考になりそうな記述がある。
ある日パエトーンは、友人から「お前は、愚かしくも、母親の言葉は何でも鵜呑みにし、偽りの父親の幻想を抱いて思い上がっているのだ」と謗られる。そこでパエトーンは父親に、自らが太陽神の息子であることを証明したいと懇願し、太陽の戦車(馬車)を借りようと試みた。
太陽神は、自身を除くどんな神であれ火焔を運ぶ馬車は乗りこなす力はなく、無事では済まないと思いとどまるよう諭すが、戦車を乗りこなしたい執着心で溢れるパエトーンにその言葉は届かない。
逸るパエトーンにやがて折れた太陽神は、太陽の戦車を息子へ差し出す。戦車には、ピュロエイス、エオオス、アイトン、プレゴンという名の馬が四頭繋がれていた。
ここで注目したいのが、エオオスという名前だ。『変身物語』のエオオスは英語でEousと翻訳されるが、ゼンゼロにおいてもイアスは英語でEousと表記される。
その後パエトーンは戦車を暴走させてしまい、地上のいたるところに火災を振りまく災厄と化す。最終的にパエトーンはユピテルの雷霆によって撃ち落とされ、命を落とす。パエトーンの亡骸が収められた墓石に刻まれた碑名が次のものだ。
ゼンゼロの世界観紹介PVにて示された英文は、この墓碑を参照したものだろう。主人公たちはイアスを用いて他を追随しないプロキシ能力を発揮しているわけであるが、いつかその代償を払うことになるのだろうか。どこか不穏さの残る表現である。
他にも参考になりそうなゲーム内外の情報は数多くあるだろうが、記事としてはここで一区切りとしたい。
ゼンゼロは各所に情報が散りばめられているため、筆者が見逃している点も多々あると思うが、世界観について掘り下げたいプロキシ各位にとって何かしら参考になる要素が多少なりともあったならば幸甚の至りだ。