人間にたいする至誠 77 たいたけ 2022年1月22日 05:22 □景色 水俣病事件もイタイイタイ病も、谷中村滅亡後の七十年を深い潜伏期間として現れるのである。新潟水俣病も含めて、これら産業公害が辺境の村落を頂点として発生したことは、わが資本主義近代産業が、体質的に下層階級侮蔑と共同体破壊を深化させてきたことをさし示す。その集約的表現である水俣病の症状をわれわれは直視しなければならない。人びとの命が成仏すべくもない値段をつけられていることを考えねばならない。 死者たちの魂の遺産を唯一の遺産として、ビタ一文ない水俣病対策市民会議は発足した。第七章「昭和四十三年」 七十数年後の水俣病事件では、日本資本主義がさらなる過酷度をもって繁栄の名のもとに食い尽くすものは、もはや直接個人のいのちそのものであることを、わたくしたちは知る。谷中村の怨念は幽暗の水俣によみがえった。「あとがき」 わたくしは、おのれの水俣病事件から発して足尾鉱毒事件史の迷路、あるいは冥土のなかへたどりついた。これは逆世へむけての転生の予感である。もはや喪われた豊饒の世界がここにある。人も自然も渡良瀬川の魚たちも足尾の山沢の鹿たちや猿たちも。「こころ燐にそまる日に」『新版 谷中村事件—ある野人の記録・田中正造伝』解題私たちが新しく生まれ変わるためには、未来に生まれ変わるのではなく、過去に戻ってやり直さなければならない。肉体は過去に戻ることはできませんが、魂や精神は過去に帰ってやり直すことができる。□本『100分de名著 石牟礼道子 苦界浄土 悲しみのなかの真実』若松英輔 NHK出版 2019年目次はじめに第1回 小さきものに宿る魂の言葉第2回 近代の闇、彼方の光源第3回 いのちと歴史第4回 終わりなき問い*第3回から構成□要約田中正造、内村鑑三、石牟礼道子の三人のつながりは、とても深く強い。三人に共通する在野の人。在野にもまた、次の時代を創り得る大きな叡智が眠っている。 古代の英雄というものは、ひょっとしてこういう人柄ではなかったかと思わせるような、稚純性に貫かれたすぐなる文章にひきつけられて、ここふた月ばかり、内村鑑三を読んでいる。 はじめは平明な世界かと油断していたが、ただの平明さではない。人間にたいする至誠の迫力に息をのみ、その言説のたかまりに巻き込まれて目の奥がくらくらする始末だったが、足尾鉱毒地の巡遊記のところに来て、わたしは思わず吹き出してしまった。そしてにわかにせきあえる涙をしばらくとどめることができなかった。『葛のしとね』石牟礼は『葛のしとね』に恐ろしいほど現代の実状を言い当てた内村鑑三の言葉を引用する。 国が亡るとは其山が崩れるとか、其河が乾上るとか、其土地が落込むとか云ふことではない、・・・国民の精神の失せた時に其国は既に亡びたのである、民に相愛の心なく、・・・官吏と商人とは相結託して辜なき援助なき農夫職工等の膏を絞るに至ては、其憲法は如何に立派でも、其軍備は如何に完全して居ても、其大臣は如何に賢い人達であつても、其教育は如何に高尚でも、斯の如き国民は既に亡国の民であつて、只僅に国家の形骸を存しているまでゞある、内村鑑三「既に亡国の民たり」『内村鑑三全集』9 ダウンロード copy #内村鑑三 #石牟礼道子 #至誠 77 この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか? サポート