もうひとつだけ木彫りに関して
瀧口政満という木彫り彫刻家がいます。アイヌコタンで彫りつづけていましたが、アイヌの方ではありません。ご実家は山梨。幼いころ難聴になり、お父様がそれでも何とか生き抜いていけるようにと千葉の聾唖学校に入寮させます。その後、瀧口は高校で木工科を選び、やがてアイヌの木彫り彫刻家の道を開いていきます。
こちらは祈りという作品です。瀧口は樹を見れば、なかの年輪が見えたと言います。
このようになるのが、彫る前から見えていたということです。凡人の僕にはちょっと何言ってるかわからないというお力です。
瀧口は目で見、手でふれ、心と経験とで樹のなかの音を聞くことができたのかもしれません。
卓越した感覚、磨きつづけられた技術と心の目によって生み出されたこの作品にふれると、耳の聞こえない人にも聞きとれることばはたしかにあり、かえって忙しないくらしをしている耳の聞こえる僕こそ、そのことばを聞こえていないことに気づかせてくれます。