見出し画像

【感想】戦略の本質 戦史に学ぶ逆点のリーダーシップ

戦略の本質とは

戦争や戦略の本質は、どんなに軍事技術が進歩しても、いかに社会が複雑化しても、変わらない。しかし、その位相の変化、位相間の相互関係の変化によって、戦争の様相、戦略の方法は様々に変わりうる
戦略の本質は、存在を賭けた「義」の実現に向けて、コンテクストに応じた知的パフォーマンスを演ずる、自律分散的な賢虜型リーダーシップの体系を創造することである。

リーダーシップ(の思考)に依存している。

戦略は、何のために戦争をするのかという大義を実現するための手段ではあり、勝つため、負けないための方法論である。

こちらの出方が変わると相手の出方が変わる
相手の出方が変わるとこちらの出方が変わる
戦略現象は、主体間の相互行為の因果連鎖

と論ぜられているが、まさに刻々と状況が移り変わる中で、相手が動けばこちらの出方も変わる。この連鎖の中でどのような決断をしていくのか、その決断のためにはどのような実践や思考をするべきなのか論ぜられている。

賢虜型(フロネティック)リーダーシップとは

以下の5つが提示されている

1. 他者とコンテクストを共有して共通感覚を醸成する能力
2. コンテクスト(特殊)の特質を察知する能力
3. コンテクスト(特殊)を言語・概念(普遍)で再構成する能力
4. 概念を公共善(判断基準)に向かってあらゆる手段を巧みに使って実現する能力
5. 賢虜を育成する能力

フロネティック・リーダーシップについては、下記の書籍(失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇)においても論じられている。こちらでは上記の5つの能力を3つの能力

1.  現場感覚
2. 大局観
3. 判断力

に再構成して論じられている。私見ではこちらの方がシンプルで直感的に理解しやすい。

下記の記事にて書きました。

所感

毛沢東とチャーチル(バトル・オブ・ブリテン)が特に印象的だった。どちらも私のこれまでのソフトウェアエンジニリングに関わる職業人生の中で通ずるところがあり、引き込まれることがあった。

毛沢東の戦略

アジャイルやスクラムによって洗練されたプロセスに非常に類似している。戦場での経験を得るたびに組織内で上下関係なく話し合いの場を設けて議論して理解を深めたそうだ。

イテレーションごとの計画と振り返りを繰り返すことによって、組織学習を促進していった。チーム内で戦略に対する理解を深めるために兵士達に戦略の講義を幾度となく行なっていたらしい。講師も生徒も講義を繰り返すことによって相互に理解を深められたに違いない。

戦略は文章に起こすことで全てを網羅できるものではない。

戦略の構想力とその実行力は、このような日常の知的パフォーマンスとしての賢虜の蓄積とその持続的練磨に依存するのである。戦略は、すべて分析的な言語で語れて結論が出るような静的でメカニカルなものではない。

だからこそ、リーダーが持つ暗黙知を形式知化するだけに止まらずに、対話を通じて特定のコンテキストの中でどのように活用されたのか、実行したのかを話し合い、議論することで相互に深め合うことができたのだろう。

直近で読んだ「多様性の科学」では、他者との対話を通じて、アイディアの融合からのイノベーションがおきるとも論じられていた。毛沢東の紅軍では、故郷・文化・生まれ・役割の違いなどのさまざまなバックグラウンドの人たちで構成されたいたようだが、こういった対話の中で相互に深めあっていたのではないかと推察する。

帰納的なアプローチに重点を置いて実践から学ぶことを重視していたようだ。ご本人は読書家で哲学や歴史に精通していたらしい。そういった知識からビジョンが生まれたのだと思う。そのビジョンは戦争を通じて洗練されていったのだろう。同書によると極端に帰納的に実践から学んでいったと論じられているように見受けられる。しかし、ご本人が読書によって学んだ知識を演繹的にも戦略に落とし込んでいったのではないかと思う。

チャーチルの戦略

チャーチルというよりも当時のイギリスの科学者のモットーの話。

最良のものでもなく、次善のものでもなく、三番目に良いものを作るということに共感。サービス開発においては開発スピードは重要な要素である。素早くリリースして、顧客からのフィードバックを得て、次の開発に活かすフィードバックループを可能な限り高速に回すことが要求される。

そのための技術選定やアーキテクチャ、実装方法についてはエンジニアの裁量になってるケースが多い。しかしながら、そこにはリリース速度を求められる。大前提として検証したい仮説があって、それを検証するために素早いリリースをしたい。

その文脈においての適切な選定が求められる。いわゆるベストプラクティスを盲目的に適用することは避けたい。ここでの選定はまさに当時の英国の科学者達のモットーが適切な選定基準だと言えるし非常にわかりやすい。

毛沢東編(引用)

反攻の後の戦略展開を考えておくことである。全戦略段階を貫く大体の長期方針を考えておき、第一線ごとに変化を考察し、自己の戦略・戦役計画を修正または発展させていくのである。
一切の事物に矛盾をつらぬき、すべての矛盾は転化する。
自分で考え、自分でやると言う思索と行動の主体性(主観能動性)を通じて、感性的認識を理性的認識へと転化させることができる
「読書は学習であるが、実地に使うことも学習であり、しかももっとも重要な学習である。戦争から戦争を学ぶことーーこれが我々のおもなやり方である」
「実践を通じて真理を発見し、さらに実践を通じて真理を実証し、真理を発展させる。感性的認識から能動的に発展して、理性的認識に到達し、さらに理性的認識から、能動的に革命実践を指導し、主観世界と客観世界を改造する。実践、認識、再実践、再認識、このような形態は循環往復してきわまるところがなく、しかも実践と認識の一循環ごとの内容はすべてより高い程度に進む。」
知行統一

ググると知行合一が出てくる。意味は同じっぽい。

チャーチル(引用)

レーダーの技術開発に従事した科学者の間では、完璧さを追求しないことがモットーとされた。すなわち、最良の完璧なものは、けっして実現できない。次善のものは、実現できるが、使うべきときまでに間に合わない。したがって、三番目に良いものを採用して、できるだけ早くその実現を図るべきである。完璧さを求めないというのは、このような態度を意味した。レーダーの開発、実用化は、こうしたプラグマティズムの産物でもあったのである。

以上。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?