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短編小説『てのひらとえがお』

子どものころ大切だったものを思い出しながら、読んでいただけたらうれしいです。
※この作品は #おうちで読もう に参加しています。あなたに朗読していただけたら、もっとうれしいです。

てのひらとえがお

作:尾崎 太祐

冷たくて暗い箱の中から、
ボクを見つけてくれたのはキミだった。
はじめて見たキミは、とってもきらきらしてたね。
あの顔、「笑顔」っていうんだっけ。
その日から、キミのあったかい手のひらが、ボクの居場所になったんだ。

キミはいろんなことを、ボクに話してくれたね。
おやつがおいしかったこと。
かけっこで転んじゃったこと。
雨上がりの帰り道に、きれいな花を見つけたこと。
かみなりがこわいって震えてたこともあったね。
ボクは「大丈夫、大丈夫だよ」って、キミを応援してた。
ほんとはボクもこわかったけど、
キミのあったかい手のひらが、ボクに勇気を分けてくれた。

キミの手のひらが広くなったころ、ボクは机のすみに引っ越した。
ときどきキミの手のひらに帰る日は、なにか相談ごとがあるんだよね。
キミは静かにしゃべりだす。
明日の予定が決まらないこと。
いつか叶えたい夢があること。
隣の席のあの子の話。
ボクには難しいことはわからない。
でも、「大丈夫、大丈夫だよ」ってキミを応援してた。
そうするとキミは、ひとしきり話して、
ときどき泣いたあと、少し笑うんだ。
その時もやっぱり、きらきらした笑顔だったよ。

どれくらい経ったのかな。
ボクの居場所は机のすみから、本棚の上になった。
最近は雨の日が多いね。
そのせいかキミは家にいることが多くなって、
なにやら頭を抱えてる。かみなりがこわいのかな。
ボクにはやっぱり難しいことはわからないけど、
それでも、キミを応援するんだ。

「大丈夫、大丈夫だよ」って、
キミの笑顔と、あったかい手のひらを思い出しながら。

(おしまい)


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